映像メディアの中継では…(写真はイメージ)

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 同じ「放送」でも、ラジオとテレビの実況アナウンサーの「伝え方」には違いがあります。東海ラジオで35年間、プロ野球実況を担当した村上和宏さんは、フリーになった今年からテレビの仕事も始めました。そこで感じた違和感について、最新の報告です。

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「井の中の蛙」

 ラジオという、音声だけでプロ野球中継を行う世界から、初めて映像付きの中継に携わるようになってから3ヶ月が経ちました。

「投げる」「打つ」を必ず口にする、3分に一度は試合の現状を伝える、アナウンサーが試合全体を一人で仕切る、映像ではスイッチャーの切り替えた画面に即応できる能力が必要……などなど、ラジオと映像付きのテレビ(インターネット配信も含め)の違いについては、このコラムでも書いてきました(4月10日、17日配信分)。

映像メディアの中継では…(写真はイメージ)

 今週は3ヶ月を経た、今の思いを綴ろうと思います。

 今年のセ・パ交流戦の日本ハム―中日戦で、GAORAからドラゴンズ応援副音声実況の仕事をいただきました。向かった札幌には、中京テレビに同期入社し、現在はテレビ北海道に転職した、大藤晋司アナウンサーがいます。

 過去にも交流戦で札幌出張した際に、軽く会話を交わしていましたが、今回は私が早期退職してフリーになったということで、「いろいろ話を聞きたい」と連絡をもらい、久しぶりにゆっくりと話をしてきました。

 その際、「君のコラム、読んでいるよ。テレビとラジオの実況の違いについて書いていたけど、テレビしか知らない自分からすると、ラジオのアナウンサーはこんなことを考えているんだと、この歳になって新鮮だった。君が感じた違いは、我々にとっては当たり前のことだからね」と言われました。

 この言葉を聞いてハッと思ったのは「放送の世界に30年以上も身を置いて、業界のことをわかったつもりでいたが、しょせんラジオのことしかわかっていなかった」ということです。まさに「井の中の蛙」だったことを思い知りました。

 同じ「放送」でも、ラジオとテレビを兼営していないテレビ局、ラジオ局に勤務する者は、自分が所属する媒体についてしかわからないということを今更ながら痛感したのです。

「黙る」ことも大切

 今年からフリーになった私は、映像の仕事も頂けるようになりました。映像はラジオ実況とは全く別物だと自覚し、今シーズンはラジオ中継を聴くことを封印し、テレビ中継を徹底的に見て、その違いを勉強しました。

 これまでは何気なく見ていたテレビ中継ですが、勉強のためにじっくり研究してみたところ、一番驚いたのが「こんなに黙っている時間が長いのか」ということです。

 DAZNの実況をするようになって、「しゃべりすぎ」という指摘を何度も受けましたが、私が思う「しゃべりすぎない」という感覚とは桁違いの沈黙でした。

 極端な例を挙げると、一人のバッターが打席に入ったときに名前を紹介したあと、打って結果が出て、そこでやっと「センターフライ、1アウト」と、次の言葉が出てきます。その間に流れる音声は、スタンドからの声援、特にそのバッターの応援歌です。

 バッターが打席に立っている間、これまでの私はずっとしゃべり続けていたので、選手の応援歌はもちろん耳に入ってはいますが、じっくり聞くことは全くありませんでした。しかし、打席の結果が出るまでアナウンサーが黙っていると、応援歌が「メインの音」としてスピーカーから流れます。

 その感覚はあたかもスタンドで観戦しているようで、テレビ中継とは「球場で観戦している感覚になってもらう」ことが大事な要素の一つなのだと理解しました。

 また、貴重な経験になったのが前述のGAORAの副音声実況でした。

 初戦の中継を終えた後、ディレクターから「試合展開についての実況はメイン音声でちゃんとやっているので、副音声はボールを追うことより、解説者との会話を中心にしてください」とリクエストを受けました。

 2戦目、3戦目は大半を解説者とのやりとりに費やし、ボールを追うのは点が入る時だけで実況しましたが「これで中継として成立したのだろうか」という私の不安に反し、ディレクターからは「よかったです」とお褒めの言葉をいただきました。

 副音声という「ラジオではあり得ない」実況を、わざわざ音声を切り替えて選ぶ人が期待するのは「解説者の話」であり、一球一球のボールを追うことではないのです。それと同時に「試合内容は映像を見ていればわかる」こともはっきりと自覚しました。

 その後は「黙る」ことを、勇気をもって実践するようにしています。

オフチューブ実況の魅力

 もう一つの貴重な経験は、FODでの実況です。生まれて初めての、オフチューブでの野球中継でした。

「オフチューブ」というのは、実際に球場の放送席から実況するのではなく、局のスタジオで球団映像をモニターで見ながら実況することです。バンテリンドームの放送席で実況するDAZNは、これまでの癖でどうしてもグラウンドに目が行ってしまうのですが、オフチューブだと見るものはモニター1台だけ。つまり、入ってくる情報はモニターの映像がすべてです。

 これまで、名古屋ウィメンズマラソンの実況でオフチューブ中継の経験はありましたが、マラソンではテレビ中継を行う東海テレビの協力で、ON AIR映像のほかに第1放送車、第2放送車、バイク中継の撮っている映像をそのままスタジオで見られるようになっていたので、4台あるモニターからテレビで放送されていない映像にも焦点を当ててしゃべることができました。

 しかし、プロ野球のオフチューブ実況は、モニター1台のみ。

 実際にやってみるまで「どこまで実況できるのか」という一抹の不安があったのですが、終わってみて率直な感想は「映像に合わせた実況をするという意味では、目の前にグラウンドがない分、映像に集中できる」というものでした。

 まだまだ勉強中ではありますが、すこしずつでも見ている方に違和感のない実況ができるよう日々努力を続けていきます。ただ、一つ引っかかっているのが、CSプロ野球ニュースで久々に再会した、元文化放送アナウンサーの言葉。

「テレビに慣れると、ラジオ実況したときに言葉足らずになる」

 自身の経験をもとに話してくれました。仕事の幅を広げるために、未経験だった映像の仕事を積極的にやらせてもらっていますが、これまでの経験を生かす意味でもラジオ実況も続けていきたいと思っています。ラジオ実況のスキルがさび付かないように、こちらも意識していこうと思います。

村上和宏(むらかみ・かずひろ)
フリーアナウンサー。1967年、広島県出身。専修大学法学部卒業後、91年に東海ラジオ放送入社。制作局アナウンサーとして、主にスポーツ実況を担当。2025年の退社まで、プロ野球をメインに多くの番組制作に携わった。現在、バンテリンドームナゴヤのDAZNドラゴンズ戦実況、「プロ野球ニュース」(フジテレビONE)などに出演中。

デイリー新潮編集部