老衰のため死去した美輪明宏さん

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 私たちに大切なことをたくさん教えてくれた美輪明宏さんが、6月20日、91歳の波乱の生涯を閉じました。歌手、演出家、声優などなど、活躍は多岐にわたります。ジェンダーレスな生き方を貫き発信し続けた先駆者としても、世の中に多大な影響を与えました。その功績は計り知れません。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

【写真】闘病中、男性に支えられながら病院へと向かう美輪明宏さん。他、若かりし頃の黒髪姿の美輪明宏さんなども

 美輪さんは、人生相談の回答者としても大人気でした。まさに「歯に衣着せぬ」という表現がピッタリの回答は、本質を解き明かしつつ時に相談者の甘えや勘違いを厳しく突くなど、読者に深い納得と気づきを与えてくれたものです。

 何を隠そう私は長く人生相談本を集めているのですが、500〜600冊あるコレクションの中から、美輪さんの人生相談本を探してみました。見つけたのは8冊(+電子書籍)。いちばん古いのは1987(昭和62)年に発売されたものです。

 数多ある相談から、美輪さんの真骨頂が発揮されていると言える「ジェンダーの悩み」をピックアップ。5つの相談が見つかりました。追悼と感謝の意を込めて、ふたつの回答の一部を抜粋してみましょう。

「同性愛者であることを隠して結婚し、家を継ぐべきか?」

 ひとつ目は『続・人生学校虎の巻』(家の光協会、2008年刊)より。「バイセクシャルに悩んでいます」という26歳の男性からの相談です。小学校高学年の頃に、恋愛対象がそれまでの女性から男性に移行してきたとか。

〈わたしが最近とくに悩んでいるのは結婚についてです。わたしの父は本家の長男で、わたし自身長男です。いずれは家を継がなくてはなりません(中略)万一、結婚して子どもができたときは、妻や子どもにうそをつき続ければよいのでしょうか。それとも、カミングアウト(公に表明して)自然体で生きていくべきでしょうか?〉と悩んでいます。

 美輪さんは、相談者を〈ずいぶん古典的な悩みですね。終戦直後ならともかく、いまどきなにを言っているのですか? 時代錯誤もはなはだしい〉と一喝。「長男」だの「本家」だのに縛られている無意味さを説きます。その上で、同性愛者であることに後ろめたさを感じる必要はないと強調。〈(同性愛を非難するような)そんな愚かな人間の言うことを尊重して生きていくほど、バカらしいことはありません〉と言い切ります。

 また、好きでもない女性と結婚して子どもを作るのは〈不幸な人間をたくさんつくってしまう疫病神〉なので、〈あなたのような人は結婚してはいけません〉と断言。ひとりで生きることで手に入れられる「自由」を満喫すればいいとアドバイスします。

 さらに〈わたしも、日本で有名人としては最初にカミングアウトしましたが、不幸だと思ったことは一度もありません。自分に忠実に、うそをつかないで、その代わり、落とし前はきちんと自分でつけるという覚悟ができていますから、なんの後悔もありません。とっても幸せな人生ですよ〉とも。美輪さんにしか言えないカッコイイお言葉です。

私たちは「人の数だけ生き方がある」という態度を取れているか

 続いては『地獄を極楽にする方法』(主婦と生活社、2003年刊)より。「本当は男性になって女性を愛したい。でも周りの目が怖い……」という27歳の女性からの相談。

〈子供のころから、好きになるのは同性ばかり。女性としての自分の身体に苦痛しか感じませんでした。(中略)現在、好きな女性が同じ職場にいますが、彼女に「好きだ」「自分は同性愛者なんだ」と伝えるべきなのか、それとも、何もいわずに会社を辞めて、都会で手術を受け、新宿などで働こうか迷っています〉と訴えます。

 美輪さんは、あなたの今の状況は、菜の花畑の中にぽつんと咲いているバラの花のようなものだと言いつつ〈世の中には、「少数派だから」という理由で差別・迫害される人が後を絶ちません。また、迫害されるのが怖くて、自分を偽ったまま一生を終える人も多いのです。それがどんなに孤独か、私はよく知っています〉と、そっと肩に手を置きます。やさしい口調ですが、美輪さんの強い思いを感じずにはいられません。

 続けて〈あなたが、いまの自分の環境に息苦しさを感じているのは、その土壌が合わないから。(中略)だったら、あなたと道を同じくする人がたくさんいる場所か、あなたの進む道に対して、「人の数だけ生き方がある」という態度を見せてくれる人がたくさんいる場所に行けばいいだけの話です〉と、都会に出ることを勧めます。はたして私たちは、自分と違う生き方をしている人に対して、美輪さんが言う態度を取れているでしょうか。

 最後に美輪さんは〈私も同性愛者だけど、私は自分のことを恥ずかしいなどと、ほんの一瞬たりとも思ったことはありません。人が誰かを愛すること。その尊さは、相手が同性か異性かで、上下がつくはずがありません〉と力強く言い切り、さらに〈あなたも胸を張って、自分の人生をいきていきなさい〉と背中をポンと叩きます。

美輪さんが23年前に「予言」した世の中になってしまった

 この『地獄を〜』は23年前の発行ですが、美輪さんは「はじめに」の中で、最近の世の中が〈ますます異常になってきています〉〈これは、40年ほど前から、私が予見し、警告し続けてきたことが現実になってしまったことなのです〉と嘆いています。

「10年ほど前」に比べて、テレビ番組もコマーシャルも美容院も喫茶店も劇場も、やかましくい大音響のノイズがあふれかえるようになったとか。〈これでは、人が凶暴になっていくのも無理からぬことだと思います。通り魔、強盗、強姦、殺人、恐喝、脅迫、誘拐、放火、残虐極まる犯罪が、もっともっと加速度的に増えていくでしょう〉とも。

 美輪さんの「予言」は、残念ながら当たってしまいました。犯罪の実数が増えているかどうかは本質ではありません。不安や疑心暗鬼が広がり、人が凶暴になって常に批判や攻撃の対象を探したり、とにかく誰かを叩いたりする傾向が強まっているのは確かです。

 そんな世の中で身を守るには〈俗悪な番組は一切、見ない、聞かない、俗悪な書物、ファッション、食生活、俗悪な街、これらに一切、近づかないようにするほかありません〉とも。今ならネット上の「俗悪なコンテンツ」にも言及なさったでしょう。

 美輪さんは別の世界に旅立ってしまいましたが、私たちの胸の中では今も生き続けてくれています。いつも心に美輪さんを。迷ったときには「もし美輪さんに見られたら」と想像しつつ、堂々と胸を張れる行動や生き方を目指したいものです。(コラムニスト・石原壮一郎)