シャープの河村哲治社長 CEOは、共同取材に応じ、親会社である鴻海精密工業(以下、鴻海)との連携をこれまで以上に強化する一方、「暮らす」と「働く」のあらゆるシーンにおいて、AIを掛け合わせた取り組みを推進。「B2BとB2Cの両方の事業領域から、1日中、人に寄り添うことができることを、シャープの強みにしていく」との考えを述べた。シャープでは、2030年度には、新規事業で年間2000〜3000億円の売上規模を目指す計画を打ち出しているが、そのうち、AIサーバーをはじめとするインフラ関連で約8割を想定。衛星通信端末では2030年度に約200億円、2035年度には約1000億円の事業規模に拡大する計画も明らかにした。

シャープ 代表取締役 社長執行役員 CEOの河村哲治氏

再成長の実現を約束するシャープの新社長

シャープの河村哲治社長 CEOは、2026年4月1日に就任。新たな重点施策として、「企業価値の最大化」を掲げ、新規事業の早期具体化とSHARPブランドのクローバル拡大、鴻海のリソースを貪欲に活用することによる「再成長の実現」とともに、「発信力の強化」を掲げている。

就任以来、河村社長 CEOの活動を見ると、まさにそれを体現する動きがみられている。

3月31日に社長就任会見を行ったあと、5月12日には2025年度の決算発表および2027年度最終年度とする中期経営計画の進捗説明を行い、6月9日には報道関係者向けに事業説明会を開催。6月24日には株主総会を行い、そして、今回の共同取材である。まさに、「発信の強化」の有言実行を裏づけている。

もうひとつの「再成長の実現」においては、5月中だけで2回に渡って、台湾の鴻海本社を訪問。対面での会談を通じて、幹部とのコミュニケーションを強化した。ここでは、「自分の眼で確かめたい」とし、鴻海がスマホ生産中心の事業構造から、世界最大のAIサーバーの生産企業に変化した現状を把握する一方、鴻海で新規事業を担当する中央BD(ビジネスデベロップメント)部門との面談を通じて、シャープとの連携を模索。「鴻海のアセットやリソース活用し、シャープの新規事業を加速できると確信した。シャープの再成長に向けた時間短縮にもつながると手応えがある」と述べ、シャープの新規事業創出に活用できる鴻海の先進技術などに目星をつけた模様だ。

鴻海では、「3+3+3」戦略を打ち出しており、EV、デジタルヘルス、ロボティクスの3つの事業分野に、AI、半導体、次世代通信技術の3つの主要技術を組み合わせ、スマート製造、スマートEV、スマートシティという3つのプラットフォームの構築を目指している。一方、シャープでは、「AIインフラ」、「次世代通信」、「ロボティクス/インダストリーDX」、「モビリティ」を新規事業のターゲットに掲げている。この交点に協業の成果が期待される。

鴻海の「3+3+3」戦略に、シャープが掲げる新規事業を交差させ、成果を得ようとしている

「台湾本社を訪問したことで、まずは、大きな方向性を確認し、お互いの提供価値を示した。そのなかで、最初に注目したのが、AIサーバーでの協業である。これは、時間勝負でやる事業でもある。この新規事業に最優先で取り組む。その後、ヒューマノイドロボット、宇宙、エネルギーなどにも取り組んでいく」とした。

AI新規事業で鴻海と緊密連携、衛星通信技術にも光明

シャープでは、2030年度には、新規事業で年間2000〜3000億円の売上規模を目指す考えを示している。

「2030年度の3000億円のうち、約8割をAIサーバーが占めるだろう」と見込む。

新規事業の売上のうち大部分を占めることを期待しているAIサーバー。鴻海の調達・製造力の強みを武器に日本で立ち上げ、ASEANへの展開も想定している

「日本製AIサーバーに対するニーズがある。また、日本では、学習用途ではなく、推論用途での利用が多いだろう。まずは、日本で立ち上げ、ASEANへと展開することも想定している。さらに、AIについては、データセンターの計算基盤だけでなく、アプリケーションのところにも踏み出したいと考えている」と述べた。

シャープと鴻海は、株主総会後に、鴻海精密工業の劉揚偉董事長および鴻海精密工業 E事業群総経理の林忠正氏が出席して、新規事業における戦略的協業に関する覚書(MOU)の調印式を行い、河村社長 CEOがこれに署名して、鴻海との関係強化をアピールした。

シャープと鴻海による、新規事業における戦略的協業に関する覚書(MOU)の調印式の様子

「グループ会社のなかでのMOUはおかしい、自己満足でやっているのかとも言われたが、お互いの役割を明らかにし、責任を明確にした上で、協力をしていくことが主旨である。なあなあではなく、お互いのベネフィットを確認した上で連携していくことになる。そのための総括的なフレームワークである」と述べ、「これまでは、製造領域を中心とした協業を進めるとともに、高いコスト意識や、経営スピードなどの経営基盤を学んできた。だが、今後の両社の関係は、ともに新たな事業を作りだし、お互いのビジョンの実現に向けて歩みを進める共創パートナーへと進化することになる」と位置づけた。

河村社長 CEOは、2回の台湾訪問の最後に、鴻海の劉董事長に、複数の部門と協業できるチャンスがあることを伝えるとともに、鴻海にとっても、シャープが持つブランド力や顧客接点、サービス力を生かせることを提案したという。

河村社長 CEOは、「新規事業は、短期間に成果をあげることは難しい。ジャックの豆の木のように、短期間に、すくすくと成長する豆は持っていない」と比喩。だが、「希望につながる新たな技術がある」として言及したのが、フラットパネルアンテナ搭載の衛星通信端末である。マルチオービットに対応し、複数軌道上の衛星通信網を横断的に活用して通信ができる衛星通信ユーザー端末であり、スマホ事業で培った通信技術や、小型化、軽量化のノウハウを活用したシャープならではの製品となっている。

河村社長は「新規事業は、短期間に成果をあげることは難しい」と言うが、「希望につながる新たな技術がある」として衛星通信の技術に言及

6月30日には、大手衛星オペレーターのSESとパートナーシップを締結すると発表。SESの衛星通信サービス「O3b mPOWER(オー・スリー・ビー エムパワー)」を日本で展開し、海上や山間部など、安定した通信状態の確保が難しいエリアでの産業利用を進め、設備や重機への通信接続、ドローンや自動運転車両の運行管理などへの活用を目指すという。

衛星通信端末でSESとパートナーシップを結んだ

「大きなマイルストーンになる。技術的な優位性を生かしながら、パートナーとの連携によって、ユースケースを提案する段階に入ることになる。この事業は、私自身、とても楽しみにしている。フィジカルAIを支え、自動運転を支える技術である。2030年度には約200億円の売上規模を目指し、2035年度には1000億円まで拡大させる。個人的には、もっと早く事業規模を拡大したいと考えているほどだ。継続性のあるビジネスに発展させたい」と意気込みをみせた。

衛星通信端末は、衛星向け太陽電池で実績を持つシャープにとっては、新たな組み合わせによる付加価値が提案できる領域ともいえる。衛星通信端末と衛星太陽電池による宇宙ビジネスの広がりも期待できる製品だといえよう。

シャープが開発した超小型衛星通信端末

衛星通信端末における2030年度に200億円という事業規模は、新規事業全体の1割を占めることになり、2035年度には、事業の柱として独り立ちすることを目指す。

フェーズは改善から成長へ、「脱家電は考えていない」

シャープの2026年度以降の取り組みについても言及した。

河村社長 CEOは、「2025年度は、収益力、財務体質、信用力が、想定以上に改善した1年だったが、安定した業績だけでは、株価には反映しない。安心だけでなく、希望が持てなくてはいけない。いまのシャープは、成熟した事業、成熟したマーケットに依存した部分が多く、先の希望が見えないところに課題がある。新規事業を短期間に成果につなげ、その成果を見える化し、発信していくことが大切である」とする。

構造改革においては、「区切りがついた」と位置づけるが、そのなかでも、亀山第2工場の売却について、鴻海と交渉していたものの、それが不成立になったことが懸念されている。シャープでは、2026年12月までに、亀山第2工場の生産を停止することを発表している。

河村社長 CEOは、「亀山第2工場で生産したパネルを鴻海が再販していたことから、鴻海が引き継げばシナジーがあると見ていた。だが、成立にはもともと前提条件があった。交渉が不成立になったとはいえ、『そんなはずでなかった』というような受け止め方はシャープにはない。鴻海の立場で見れば、ステークホルダーにとっての説明責任がある。鴻海の事業判断の結果である」と述べ、「亀山第2工場の新たな売却先の交渉については、相手先があるので詳細はいえないが、様々な産業で生産設備がひっ迫しており、短期間に新たな生産設備を立ち上げたいというニーズがある。電力の問題、場所の問題に加えて、建物を一から作り上げるには時間がかかるという問題を解決したいという要望もある。日本国内で生産設備を立ち上げなくてはならないという複数の企業が対象になる」とした。

家電事業については、「脱家電は考えていない。家電事業は捨てるべきものではないと考えている。シャープが1日中、人に寄り添うという点では、重要な製品になる。また、シャープのブランドを消費者に認知してもらうという点でも大事にしていかなくてはならない事業である」と前置きしながら、「家電業界の再編が起こるなかで、私たち力の入れどころも変えていかなくてはならない。そこは間違いなく変えなくてはならない」と述べた。

その上で、「中国メーカーの台頭や、プライベートブランド商品の動きもある。どうしても価格優先のところに参加しなくてはならない部分もあるが、そこは、お金をかけずにできるだけ軽くやっていく。力を注ぐのは、AIoT対応家電などである。新たなビジネスモデルも考えていく。モノの作り方、調達の仕方だけでなく、割り切り方も大切になる」と、事業変革を続ける姿勢をみせた。

シャープが取り組んでいる「人に寄り添う家電」

河村社長 CEOがこだわっているのが「現場の声を聞く」という点だという。

「私自身、B2Bを中心とした海外事業が長く、経歴としては偏っている部分がある。家電事業の現場や、お客様との接点を強化しているところだ」とし、「現場を回って感じたのは、シャープには『現場力』が残っているという点だった」との見方を示した。

「たとえば、新規事業のひとつである『ロボティクス/インダストリーDX』では、建設現場や介護現場で実証実験を進めている。そこでは、想定していなかったヒントも出てくる。現場に困りごとが埋まっており、潜在的なニーズがある。現場を持っている人たちと話をすることで仕上げていくことができる。」とした。

また、「今後は、『暮らす』と『働く』のあらゆるシーンにおいて、AIを掛け合わせ、半歩先の提案で、人の未来を拓くことが、シャープの目指す方向性となる。B2B、B2Cを含めて、1日中、人に寄り添うことができるのがシャープの強みである。AIを実装した家電やフィジカルAIを通じて、家にいるときも、仕事をしているときにも寄り添う。そこに向かって、やれることをやっていく」と語った。

新規事業のなかでも、注目されるのは、シャープが提案する新たなEVとなる「LDK+」の取り組みだ。

クルマが「止まっている時間」にフォーカスし、車内を「リビングルームの拡張空間」として活用する家電メーカーならではの提案が注目を集めている。2027年度の事業化に向けて、今後、経営判断が行われることになる。

「95%の時間は止まっているというクルマをどう活用するのか、そこで、どう過ごすのか、という新たな提案を行っている。このコンセプトはブレることがない。クルマとして、日本全国でしっかりとサービスを受けられる体制づくりも必要であり、パートナーとの連携づくり、日本国内におけるEV需要動向も見極める必要がある」と述べた。

鴻海のシャープ買収から10年、打ち出す「シャープらしさ」の復活

2016年8月に、鴻海がシャープを買収してから、10年を経過している。

その間、シャープは、鴻海流の「開源節流」の考え方をベースに、経営再建を進めてきた経緯がある。赤字からの脱却のために、コストを削減し、新たな投資を控える経営が進められ、その結果、35歳以下の社員は、「節約しかしらない」という状況が生まれている点は否めない。

河村社長 CEOは、「鴻海自らも大きく変化している。シャープも、反転攻勢に打って出ることができる体質に変わってきた。鴻海のシャープに対する期待も変わっている。鴻海の技術力、調達力、スピード力に、シャープが持つ独自技術力、きめ細やかさ、品質に対する意識、顧客接点を掛け合わせると化学反応が起きるのは明らかだ。そのモデルケースを作っていきたい。そこは劉董事長も同じ思いである」と語る。

「シャープそのものが重たい存在になっているとは思わないが、亀山工場のような重たい荷物を背負い、稼げていないシャープを、鴻海に一方的に担いでもらうことはしたなくない」と発言。「今後も、できるだけ台湾に出向いたり、幹部レベルだけの対話ではなく、実務レベルの対話にも落としたりしたい。また、中央BDに、シャープの技術者を派遣するということも考えていきたい」との考えも示した。

2025年度から、シャープの執行役員/CxOは、シャープ出身者による日本人体制となっている。それは河村社長 CEOになってからも同様だ。

日本人執行体制になって以降、同社が積極的に打ち出してきたのが「シャープらしさ」の復活である。

河村社長 CEOは、「私が考える『シャープらしさ』とは、創業者の早川徳次が掲げた『他社がまねしてくれる商品をつくれ』ということに尽きる。これをベースに経営信条や経営理念が生まれ、2025年9月に制定したコーポレートスローガン『ひとの願いの、半歩先。』につながっている。私が、4カ月に渡って、現場を回って感じたのは、こうしたDNAが失われていないということだ」とする。

だが、その一方で、「長年に渡る『節流』によって、そのDNAを発揮できる状況ではなかった」とも指摘する。

「私は、シャープらしさのDNAは、社内に根づいていると思っている。課題は、それを発揮できる環境を作れるかどうかである。社内のあちこちで、いろいろなことを考えていたものの、節流のなかで埋もれたままになっていた。これを掘り起こして、社内や鴻海の技術を掛け合わせれば化学反応が起きる手応えがある。これは私にとってのうれしい驚きである。ここから『シャープらしさ』が、再び生まれてくると考えている」とする。

「シャープらしさ」のDNAは社内に根付いており、現場からも失われていないと語る。これから「それを発揮できる環境を作れるかどうか」次第で、「シャープらしさ」が再び生まれてくるという考えだ

そして、こうも語る。

「シャープには、もともとチャレンジ精神がある」とし、「私は、『まずは、打席に立ってみることが大切だ』と言っている。素振りばかりでは結果が出ない。とにかくできることからやってみる。お客様と話をすれば、なにをやればいいかもわかる。やってみる精神、打席に立つという精神を徹底していく」という。

実は、河村社長 CEOは、大の野球好きであり、大阪出身だが、熱狂的なジャイアンツファンだと公言する。ファーストネームの「哲治(てつはる)」は、巨人がV9を達成したときの名監督であり、現役時代は赤バットで知られた川上哲治氏から付けられたものだという。

社長就任以来、あらゆる場面で野球のたとえ話を用いることが多いが、そこには、河村社長 CEOの野球好きが背景にある。社員を打席に立たせる采配が、河村社長CEOのやり方ともいえそうだ。

「長年の海外経験から、多様性を受け入れる、違いを受け止めるということが身についている。ベテランは経験を活かし、若い社員にはいまのトレンドを感じ、新たな発想で仕事に取り組んでほしい。お互いの価値観が違っても、それぞれの考え方は間違いではない。お互いを認め合える環境を作りたい。それが経営としての役割である」と語った。

河村社長 CEO体制がスタートして、まだ3カ月が終わったばかりだが、「再成長の実現」と「発信力の強化」という重点施策は、かなりの勢いで進んでいる。