「愛子天皇」を求めるだけでは皇室は守れない…「男系男子の養子案」が少子化の時代に持つ本当の意味

■少子高齢化は“まさに有事”
人口減少に歯止めが掛からない――。
日本の総人口がおよそ1億3000万人と数えられたのも、もはや過去の話である。2025年の国勢調査によれば、約1億2305万人。前回から約309万人も減少してしまった。
人口減少の原因は、もちろん少子化にほかならない。厚生労働省が今年6月3日に発表した人口動態統計(概数)によると、令和7(2025)年の合計特殊出生率は過去最低の1.14で、10年連続の低下となった。
同統計では、出生数も67.1万人と過去最少を記録した。国立社会保障・人口問題研究所が令和5(2023)年に公表した予測では、67万人台となるのは令和22(2040)年とされていたから、国の想定より15年ほど早いペースで少子化が進行していることになる。
「このままいくと、西暦2900年には日本人は4000人になるんだそうですよ。西暦3000年になると日本人って1000人になるそうですよ。結局、国はなくなっていくわけで、これが目に見えないけれどもじわじわと進んでいる、これを有事と言わずして何と言う」
上に示したのは、平成27(2015)年7月7日の参議院内閣委員会における石破前首相(※当時は安倍政権の国家戦略特区担当大臣)の答弁だ。政界では近年、人口減少問題をこのように「静かな有事」などと表現することが増えてきた。
3000年には総人口がわずか1000人になってしまう――。少子化のペースが15年も早まったということは、ただでさえ絶望的なこの予測値もますます悪化してしまったはずだ。まさに有事と呼ぶほかあるまい。
■「立法府の総意」がようやくまとまった
6月10日、皇族数確保策に関する「立法府の総意」がついに取りまとめられた。皇族女子の生涯身分保持と、養子縁組による旧宮家男子への皇籍付与を認める内容であり、伝統を尊重する筆者にとっては喜ばしいことに、男系継承を事実上強化するものとなる。
長きにわたる議論もようやく一区切りを迎えることになりそうだが、反対論者の最後の抵抗というべきか、先に述べた出生率・出生数を引用しての「女系天皇」論もここにきて目立つようになった。
とはいえ、そのような主張は今に始まったものではない。平成17(2005)年の小泉政権下での「皇室典範に関する有識者会議」も次のように述べている。
「社会の少子化の大きな要因の一つとされている晩婚化は、女性の高学歴化、就業率の上昇や結婚観の変化等を背景とするものであり、一般社会から配偶者を迎えるとするならば、社会の出生動向は皇室とも無関係ではあり得ない」
筆者は民間の傾向がそのまま皇室に当てはまるわけではないと考えるが、一般社会における晩婚化が未来の后妃選びにも影響しうるという考え方は、なるほど一定の説得力を持つものではあろう。
しかし、むしろ少子化が深刻な社会問題となっているからこそ、別の視点があってもよいだろう。歴史を紐解けば、皇室はけっして一般社会の影響を一方的に受けるばかりの存在ではなかったからだ。
■「日本人は『天皇家の結婚・出産』を目標にしてきた」
天皇は日本国民にとって「憧れの中心」である――。明治維新までの庶民は天皇を知らなかったという俗説もあるが、敗戦後に金森徳次郎大臣が帝国議会でそう繰り返した通り、古くから日本人は皇室への憧れを抱いてきた。
具体例として、江戸時代中期に庶民にまで広まった雛人形が挙げられる。天皇・皇后を模した人形は、いうまでもなく京都の雅びやかな宮廷文化への憧れを具現化したものである。
神前結婚式も代表例の一つといえる。明治33(1900)年に挙行された皇太子嘉仁親王(※後の大正天皇)の婚儀の後、同様の式を挙げたいという機運が国民の間で高まった。そして皇室の儀礼を参考にして定められ、全国に普及したのが今日の神前式なのである。
このように国民の側もまた、憧れの対象である皇室から影響を強く受けてきたのであり、それは夫婦のライフプランにまで及んだ。『女性自身』元編集長である櫻井秀勲氏は、自著『皇后三代』の中でこう述べている。
日本人はこれまで、天皇家の「結婚と出産」を目標にしてきた、という話があります。「何歳で結婚されたか、子どもの数は何人か」を真似るというのです。
――『皇后三代』(きずな出版、2019年)122頁。
なお、海外君主国においても同様の傾向があるのかもしれない。イギリスの人口統計学者であるポール・モーランド氏も、前英女王エリザベス2世がエドワード王子を出産した時期に出生率が向上したことなどを念頭に、次のように語っている。
「もしも人々にもっと子どもを持つことを奨励したいのであれば、王室は潜在的な模範になりうるのです」

■「それでも東アジアではまだマシ」という現実
東アジアを見渡せば、中国・台湾・韓国の少子化はさらに深刻である。比較できるデータが揃う2023年のものを見ると、合計特殊出生率は、わが国が1.20だったのに対して、中国が1.00、台湾が0.87、韓国が0.72であった。
人口問題を政治家のせいにしたがる人々もいるが、東アジアに限らず世界的な傾向であることからすると、政治の失敗というわけでもないのだろう。それでは、いったい何が原因なのか。思い出されるのが2022年1月、前ローマ教皇フランシスコが次のように述べたことだ。
「多くの夫婦が、子どもは欲しくないからつくらない、あるいは一人しかつくらない、しかし2匹の犬や2匹の猫を飼っているのです。そう、犬や猫が子どもの代わりとなっているのです」
フランシスコ前教皇は2024年にも「子どもよりペットを好む人もいる」と嘆いて一部で物議を醸したが、あながち間違いでもあるまい。たくさんの子どもを育てられるほどに経済的余裕はあるけれども、煩わしいから一人もいらない――そんな人々は実際に少なくないのである。
そのように利己主義、個人主義が蔓延する中であっても、国民みなが折に触れて特定のファミリーを強く意識することになる君主制国家においては、多少なりとも出生率が高くなる場合があるとしても不思議ではないだろう。
もしかすると日本の惨状ですらも、近隣諸国との比較論的には「象徴天皇制を採用している東アジア唯一の世襲君主国だからこそ、この程度の少子化に抑えることができている」といえてしまうのかもしれない。
■皇族増員を妨げる「税金で食わせてやっている」という声
皇室の在り方について語る際に、社会的効果という観点を持ち込むことを筆者はあまり好まないのだが、この国難を前にしては、残念ながらそうもいかない。
こんなことを申し上げるのは誠に畏れ多いが、以上を踏まえると、皇室の方々にはぜひとも一種の「ノブレス・オブリージュ(※貴人の義務)」として、ご無理のない範囲でより多くのお子さまを儲けていただきたい。
しかし残念ながら現在の皇室制度は、そもそも世襲制とは生殖を大前提とする仕組みであるにもかかわらず、子どもを儲けることへの心理的ハードルを皇族方に抱かせかねない形になってしまっている。
皇族が結婚することは、苦しむ人間を一人増やすことだから、自分は結婚しない――。三笠宮家の寛仁親王によれば、弟である桂宮宜仁親王は常日頃からそのように仰っていたという。
桂宮がそう決意なさったのはなぜなのか。寛仁親王は生前、次のように理由をお語りになった。
「私の姉妹弟たちも、それから二人の娘たちも経験しているはずですが、学習院の初等科時代、クラスメイトから『お前たちは俺たちの税金で食わせてやっているんだ』という嫌味なことを言われるのですよ」
――『文藝春秋』平成18年2月号「なぜ私は女系天皇に反対なのか」より。
三笠宮家のお子さまはみな、税金云々と学生時代に言われた経験がおありらしい。特に桂宮の場合は「親友だと思っていた相手」からそう言われて、生涯忘れられないほど深刻なトラウマを負ってしまわれたそうだ。

■秋篠宮「国費負担の観点では、皇族が少ないのは悪くない」
ここで疑問なのだが、上記のようなご経験は、はたして三笠宮家だけの話なのだろうか。
思い出されるのが、愛子内親王殿下が学習院初等科に在学されていた頃「乱暴なことをする児童たち」のせいで一時期不登校となられたことだ。皇統を未来に繋ぐことを期待される悠仁親王殿下に至るまで、多くの皇族方が経験されてきているのではないかと不安を抱かずにはいられない。
「国費負担という点から見ますと、皇族の数が少ないというのは、私は決して悪いことではないというふうに思います」
上に示したのは平成21(2009)年11月25日、秋篠宮殿下がお誕生日に際して仰ったお言葉である。
日本の皇室はヨーロッパの多くの王室とは異なり、私財をほとんどお持ちにならない。ゆえに皇室の方々はみな、国民の税金で食べているという意識を非常に強くお持ちであり、慎ましく生活しようとなさっている。
納税者にとっては大変ありがたいことだが、その思し召しが悲しいご経験によって増幅されたものである可能性があり、ひいては皇族数の抑制にも繋がりかねないとすれば、深く憂慮すべきであろう。
だからこそ、皇室は深刻な少子化時代における模範たりうる、という論者もいなければなるまい。拙文ごときがご耳目に達するとも思えないが、それでも雲の上に向かって「このような見方もございます」と申し上げずにはいられない。

■「反転のラストチャンス」はもはや目前…
いうまでもないことだが、かつての皇后陛下のような、過酷な出産圧力に苦しみ悩まれる方の再来はもちろん許すべきでない。
その一方で、国費負担の増加などを気になさるがあまり、逆にお子さまの数を抑えられるということもあってはならないのである。このことは法制化が見込まれる養子縁組に対してもいえよう。
本当は養子を取りたいけれども、より直系の宮家にお譲りする。複数の養子を取りたいけれども、一人だけに抑えておく――。僭越ながら各殿下におかれては、このような諸々のご遠慮をなさらないようにと申し上げたい。
令和5(2023)年に「こども未来戦略」を策定した岸田元首相は、在任中に「若年人口が急激に減少する2030年代に入るまでが少子化傾向を反転できるかどうかのラストチャンス」だと訴えていた。もはや猶予はほとんどないのだ。
そんな中での皇族数確保に向けた「立法府の総意」は、図らずも国民意識の変革へと繋がりうるものである。
とりわけ養子縁組制度については、社会的な理解がまだ進んでおらず、偏見を持ってみられることが大きな問題点として挙げられている。皇室ですら養子縁組なさるということが、結果的にもしかしたら特別養子縁組の増加をもたらすかもしれない。そこまでには至らないとしても、少なくとも偏見の解消に繋がることになればと思う。
----------
中原 鼎(なかはら・かなえ)
皇室・王室ウオッチャー
日本の皇室やイギリス王室をはじめ、君主制、古今東西の王侯貴族、君主主義者などに関する記事を執筆している。歴史上でもっとも好きな君主は、オーストリア皇帝カール1世(1887〜1922)。
----------
(皇室・王室ウオッチャー 中原 鼎)
