ロシア首都モスクワ南東近郊の石油精製施設から立ち上る黒煙=18日/AFP/Getty Images

(CNN)ロシア全土が深刻なガソリン不足に見舞われるなか、首都モスクワの街頭では乗用車やトラックの運転手たちが長い列を作り、不機嫌ながらも辛抱強く順番を待っている。CNNが聞いたところでは、多くの人が燃料を探して一日中走り回ったという。世界有数のエネルギー生産国の首都としては異例で、ウクライナ戦争の影響とは無縁だった都市には想定外の状況だ。

しかし紛争が5年目に突入した今になって初めて、ロシア国民はクレムリン(ロシア大統領府)がなお「特別軍事作戦」と呼ぶ事態の厳しい現実を悠々と見過ごすことはできなくなった。

過去1カ月で展開されたウクライナの前例のないドローン(無人機)作戦は、その規模と影響の両面で異例のものとなっている。

先週のある晩だけで、ロシアは12の地域でドローン660機を迎撃したと発表。2022年にロシアが全面侵攻を開始して以降、ウクライナの攻撃としては最大規模にあたる。

標的は決して無作為ではなく、慎重に選ばれている。製油所、石油ターミナル、海軍艦艇、ロシア領内奥地の兵器工場――。ロシアの戦時経済を消耗させ、クレムリンが戦争をさらに遂行するうえでの経済的・政治的コストを高めることを狙った作戦だ。

そして、それは効果を上げている。

ロシア各地で燃料が不足し始めるなか、給油所で待つ車両の列がのびていく様子を独立系メディアが記録している。その様子は当局が隠したがる光景だ。14年にウクライナから併合されたクリミア半島は非常事態下に置かれ、燃料販売が停止された。

痛手となる失態でも受け流すことの多いクレムリンにとってさえ、厳しい現実を避けて通ることは難しくなっている。

ロシアのプーチン大統領は週末に緊急会合を開き、国内のガソリン備蓄が不安を覚える水準にまで取り崩されていることを明らかにした。

「運転手や企業にとっての問題が続いていることは、皆さんもよく知っている通りだ」。プーチン氏は集まった政府高官らにそう述べ、当局が数週間にわたって軽んじてきた問題を認めた。

「残念ながら、ガソリンスタンドには今も行列ができている」(プーチン氏)

クレムリンが一定の圧力を感じていることを示す兆候はほかにもあった。プーチン氏は軽油の輸出を全面的に禁止する案を検討していることを明らかにしたのだ。この発言の前には副首相が記者団に対し、そうした禁止措置は必要ないと述べていた。プーチン氏は、燃料問題に関する作業部会が動いていることも確認した。

さらに、農業が危機にひんしているとも警告。ロシアは「われわれの民間標的とインフラに対するテロ攻撃の影響を最小限に抑えなければならない」と訴えた。ウクライナのドローン攻撃を取るに足りないものとして一蹴してきた指導者にとっては、慎重に言葉を選んだ上での方針転換だ。

何年にもわたりウクライナのエネルギーインフラ、すなわち発電所や変電所、暖房施設を組織的に破壊するというやり方は戦時のロシアが特に意図して用いてきた戦略の一つだった。この事実は大きな皮肉だ。戦略は日常生活を耐え難いものにすることで民間人の士気をくじくことを狙ったものだったのだが、ウクライナはいま、その論理を反転させたように見え、ロシア人はその矛先を自分たち自身で感じ始めている。

こうした状況はロシアを批判する西側に希望を生んでいる。

今月フランスで開かれた主要7カ国首脳会議(G7サミット)で、欧州委員会のフォンデアライエン委員長は「潮目がウクライナ有利に変わりつつある」と明言した。「26年の状況は25年とは大きく異なる。ロシアには明らかに疲弊が見えている。今こそ、われわれの支援を強化する時だ」

西側当局者らは、ウクライナの作戦がロシアの燃料供給と兵たんを圧迫し、戦争遂行を行き詰まらせていると指摘する。

米外交問題評議会(CFR)の最近の報告書によれば、ドローン作戦の拡大は、ウクライナが2月に約200平方キロの領土を奪還し、25年を通じた傾向となっていたロシアの前進を逆転させることに直接寄与した。

トランプ米大統領の口ぶりさえも変化したように見える。

G7サミットでトランプ氏は記者団に対し、ロシアは「合意すべきだ」と述べた。その数日後、ワシントンに戻るとウクライナのゼレンスキー大統領を「勇敢」だとし、戦争で「かなりよくやっている」人物だと評した。昨年の大半はウクライナに対し弱い立場から交渉するよう公然と圧力をかけていた同氏からすると、明らかに温かい言葉だった。

ゼレンスキー氏は、自身のドローン作戦が達成できることについての考えを明確にしている。適切な支援があれば、ウクライナは「ロシアが和平を選ばざるを得ない状況を速やかにつくり出せる」と主張した。

しかし、ロシアが現在抱える問題によってクレムリンが譲歩を迫られると結論づけるのは誤りかもしれない。少なくともまだそうした状況にはなく、おそらく近いうちでもない。

プーチン氏は数十年にわたって妥協しない指導者という冷徹なイメージを築いてきた。この事実は、ウクライナでの条件付きの降伏、撤退、あるいは譲歩でさえ、同氏にとって極めて起こりにくく、実現しがたいものにしている。

西側の最も確かな推計によれば、プーチン氏の侵攻で死傷者は100万人をゆうに超える。さらに、完全に支配するに至っていないウクライナ4州の主権も主張していることから、ロシア国内で決定的勝利として描けないいかなる決着も深刻な国内政治の緊張を引き起こすリスクが伴う。

プーチン氏をとりまく強硬派は、ウクライナのドンバス地方全域を掌握することは可能で、そうすべきだと今も進言している。ロシアの製油所が炎上しているからといって、その主張が消えるわけではない。

ロシアの現在の燃料不足は痛みを伴う現実だが、白旗と見誤るべきではない。

本稿はCNN世界情勢担当主席特派員のマシュー・チャンス記者による分析記事です。