アンドロイドの世界的成功、きっかけ作った日本人2人の「助言」…迷いのあったグーグルCEOは腹固める
[検証デジタル ニッポンの苦境]スマホOS編<1>
スマートフォン基本ソフト(OS)「アンドロイド」で世界シェア(占有率)7割を握る米グーグル。
支配力を強めるOSの源流には日本人2人の「助言」があった。
今から20年前、グーグル最高経営責任者(CEO)のエリック・シュミット、副社長の村上憲郎が都内のNTTドコモとKDDIの両本社を訪れた。面会相手はドコモの夏野剛とKDDIの高橋誠。ともに日本の携帯ビジネスを動かしていたキーマンだ。
ドコモのiモードは契約数が4000万を超えるなど、日本勢は世界の先頭を走っていた。1998年の設立後に検索サービスで急成長したグーグルは携帯ビジネス参入を模索しており、日本勢からヒントを得る狙いがあった。
「これからモバイルビジネスは分業が進む。もしグーグルが参入するなら、特定の領域だけを手がけるのがいいのではないか」。時間も場所も異なる2人との面会だったが、くしくも夏野と高橋は全く同じ助言をする。
グーグルが得意な分野に絞って展開するのが得策――。村上によると、端末からOS、サービスまで自社で一手に手がけるべきか、迷いのあったシュミットは2人の言葉にOS一本で勝負する腹を固めていく。
「衝撃」の無償提供…「アンドロイド」シェア急拡大
2000年代、「着うた」「おサイフケータイ」など多彩なサービスが生まれ、日本は世界最先端のモバイル市場として注目を集めていた。特徴的だったのは、携帯大手が端末の仕様からサービスの基盤となるプラットフォームまでを一手に手がける「垂直統合」モデルを築いたことだ。
垂直統合は全てをコントロールできる反面、相当な労力が必要になる。これから出るなら特定の領域に絞るべきだ――。ドコモの夏野剛とKDDIの高橋誠の助言には、そうした意味が込められていた。
「世界展開できる基本ソフト(OS)を日本企業が作るのは難しい。グーグルにOSを開発してもらい、ドコモでうまく利用するのが得策だと考えた」。夏野は発言の真意を説明する。
同席したグーグル副社長の村上憲郎によると、2人の助言にCEOのシュミットは「我が意を得たり」との表情でうなずき、帰りの車中で言ったという。「ノリオはいい人を紹介してくれた。OSで攻めよう」
07年6月、米アップルがiPhone(アイフォーン)を発売すると、グーグルも「グーグルフォン」を出すとの臆測が流れた。だが同年11月、グーグルはスマホではなく、スマホ向けOS「アンドロイド」を発表。端末メーカーにOSを無料で提供し、スマホのプラットフォームを握る戦略だった。
「アンドロイドが世界的にうまくいく大きなきっかけを作ったのが、2人の助言だった」。村上には当時の記憶が鮮明に残る。
「ゆっくりでいい」
「OSをタダで配っている。それが衝撃的だった」

日本の携帯大手元幹部はアンドロイドの登場をそう振り返る。OSを提供する際、通常なら提供元が利用料を取るのに、アンドロイドは無料だった。OSをタダで配っても、スマホで検索を使ってもらえれば広告収入で元が取れる。広告で稼ぐビジネスモデルのグーグルだからこそなせる業だった。
もっとも当初、日本の携帯業界はアンドロイドの登場をそこまで深刻には受け止めていなかった。国内では従来の携帯電話がまだ売れており、「スマホの時代が来ると思っていた人は少なかった」(携帯大手元幹部)からだ。「スマホはゆっくりでいいよ」。元ドコモ幹部は日本の端末メーカーにそう伝えたのを覚えている。
寡占化
携帯電話の成功体験が足かせになり、日本勢はスマホで決定的に後れを取ることになる。10年代に入ると、iPhoneに加えアンドロイドも急速に支配圏を拡大。スマホOSはアップルの「iOS」との2強による寡占化が進んでいく。
英調査会社カンターによると、25年末のスマホOSの国内シェア(占有率)はアンドロイドが58・1%、iOSが41・3%で、2社で99・4%を占める。巨大ITがスマホ市場で独占的な地位を占めることの弊害も目立ち始めた。
こうした2強の台頭に当時、対抗する動きがないわけではなかった。焦りを強めていたドコモなどの通信大手や国内外の端末メーカーは12年、第3極を形成すべく新OS「タイゼン」の開発計画を始動させる。劣勢にある各社が反撃ののろしを上げた。(敬称略、肩書は当時)

