インターネットでの情報収集やSNSの活用など、昔の常識がもはや通用しなくなっている現代の就職活動。Cygamesが運営するマンガ配信サービス「サイコミ」で連載中の、社会派お仕事コメディ『今どきの若いモンは』(著・吉谷光平)の新章では、そんな“令和の就活”がテーマとなっている。

『今どきの若いモンは』34巻 著・吉谷光平、小学館刊、「サイコミ」にて連載中

今回、「サイコミ」10周年、そして6月末の最新コミックス34巻の発売を記念し、著者の吉谷光平先生にインタビュー。コミックス33巻よりスタートした「就職活動編」について、親や上司が体験したものとは大きく変化した令和の就活のリアルや、世代間のギャップについて伺った。

※本記事は作品の一部に関するネタバレを含みます

○『今どきの若いモンは』著者・吉谷光平先生プロフィール

吉谷光平(よしたに・こうへい) マンガ家。X(旧Twitter)に投稿した、理想の上司を描いたマンガ『今どきの若いモンは』がSNS上で大きな話題を呼び、2018年から「サイコミ」にて連載を開始。書籍は累計発行部数150万部を突破、2022年には反町隆史主演でWOWOWにて実写ドラマ化され、多くのビジネスパーソンの共感を呼ぶ。その他、『恋するふくらはぎ』『ナナメにナナミちゃん』など著書多数。

「普通になりたい」学生のリアルな本音

――本日は宜しくお願いします。「就職活動編」、マイナビニュースにこの春入社した新卒社員にも読んでもらったところ、「あるある」と共感していました。

「就活は騙し合い」というセリフ、リクルーターに「100社以上受けて一番良い企業だった」と言われたけれど、絶対誇張してるよな…と思った。

就活アカウントがリアル。胡散臭いけれど藁にもすがるような気持ちで見て、就活に飲まれていく気分だった。

友人が就活アカウントを作って大きな顔をしていた。

「友人が就活アカウントを作っていた」というお話、僕も執筆にあたり就活アカウントをやっている学生さんと話をしましたが、少ない数ではないんだなと実感しますね。

――さて、これまでの『今どきの若いモンは』では、新卒社員の主人公・麦田の成長を描かれてきました。大手商社・三ツ橋商事の営業部からスタートし、壁にぶつかりながらアラサーのエース社員に成長した彼女は、コミックス33巻からスタートしている最新章で新卒採用の「リクルーター」に任命されます。「就職活動」というテーマを描こうと考えらえたきっかけは?

過去のシリーズ(麦田アラサー編)を描く際、若手社員の方にも取材を行いました。その際、現代の就活は、自分が学生だった頃とはかなり異なるな、と感じたことがきっかけです。

新卒社員だった主人公・麦田(画像中央)は、就活のリクルーターとして採用側の立場を経験する。「就職活動編」がスタートする『今どきの若いモンは』33巻

僕が就活をしたのは15年ほど前のことですが、紙媒体やリアルでの情報が主流だった当時とは違って、今はSNSやWebでありとあらゆる情報が手に入ります。オンライン面接も普及して、コロナ禍以降、一度もリアルで会わずに内定が出ることもあると聞いて驚きました。

また、少子化の関係で売り手市場になっている一方で、大手企業に応募する学生の競争は激化し、中小企業には人が来ないという二極化も起きています。

就活は人生そのものの一部であり、明確な答えがありません。自分の答えを信じる人もいれば、迷う人に向けて就活のノウハウを売る人もいる。漫画として、非常に面白い題材だと思いました。僕が経験した時代の就活とはかなり違っているので、個人的な内容は反映させず、就活生や企業の採用担当者の両サイドへの取材をもとに執筆しています。

――取材を通して印象的だったエピソードはありますか?

学生とフラットに話す機会があり、そこで「吉谷さんは外れ値」と言われたことが印象に残っています。その学生にとって、漫画家としてやりたいことをやっている僕は「外れ値(例外)」で、みんな普通(サラリーマン)になりたい、ということだそう。

もちろん、好きなことで起業したり、挑戦したりする学生もいます。ただ今は情報が手に入りやすく、“答えのようなもの”を持ちやすい分、「どうせ失敗する」「挑戦が怖い」と感じる傾向があるのかもしれません。だからこそ、自分のやりたいことを実践している人に出会えるかどうかは、若者が何かに挑戦するうえで大きな意味を持つのではないでしょうか。

就活に関する学生のリアルな声の描写(『今どきの若いモンは』33巻収録・第317話より)

「答え」が生む、逃げ場のない息苦しさ

――ご自身が体験した就活とは変わっているとのことですが、「令和の就活生の常識やエピソード」で驚かれたことは?

「MBTI(16タイプに分類する性格診断)」をみんな自然に口にすることですね。僕らおじさん世代には馴染みがないのですが(笑)、企業によっては、面接用のシートに記入欄があるとか。就活をしている彼らにとって、自分の性格を知っておくことは大前提で、行動の基準のひとつになっているようです。ただ、MBTIに限らず、「このタイプはこう」と逃げ場のない答えが何にでもついてしまうことには、どこか息苦しさも感じました。

また、学生の就活準備に対する二極化にも驚きましたね。大学1・2年生から準備を始めて、もっと早い人だと高校生から就活を意識して大学を選ぶ子もいれば、まだ活動を始めていない大学3年生もいる。その違いに衝撃を受けました。

「“まだ”三年の春」か「“もう”三年の春」か、就活の意識は二極化しているという(『今どきの若いモンは』33巻収録・第319話より)

「30歳で1000万」若者の焦燥感の正体は

――「就職活動編」は、主人公・麦田による企業側の視点と並行して、大学3年生の就活生・佐藤リリカの視点でも描かれます。リリカは「就活で人生を逆転したい」と強く願う若者。現代の就活生が抱える特有の焦燥感を、先生はどのように捉えていますか。

選択肢が多すぎるがゆえに、自分をきれいに諦められない。失敗が怖い。現代の若者は、自由という名の暴力にさらされているのだと感じます。

就活をガチって人生をひっくり返したい就活生・佐藤リリカのストーリーでは、学生視点の「今どきの就活事情」が描かれる(『今どきの若いモンは』33巻収録・第319話より)

学生に話を聞くなかで、「30代で年収1000万円を稼ぎたい」「MARCHよりも下だったら絶望」といった声もあり、自分が就活をしていた頃との違いに衝撃を受けました。僕は、年収が高いと嬉しい、程度の感覚だったので。

でも、1000万円稼いで何かに使いたい、まで考えている訳ではなく、「それくらい稼がないと、普通の生活が送れないんじゃないか」という焦燥感を抱えているようなんです。リリカの「30代で年収1000万円」はそんな学生のリアルな声です。

また、「大企業に入らないとダメだ」といった思い込みや不安が、悪徳なビジネスにつながっている部分には怖さも感じます。SNSの発展であこがれの世界が常に視界に入り、転職が自由になり、年収がいくら、みたいな話もたくさん出てくる。世界が数値化しているように感じてしまうんですよね。大人も同じだと思いますが、そういう時代だと思います。

「就活は情報戦」「対策が全て」SNSで情報を収集する就活生たち(『今どきの若いモンは』34巻収録・第331話より)

――作中では、「就活は学生と企業の騙し合い」という言葉や「学歴フィルター」といったシビアな現場の裏側も描かれています。どのようなこだわりを持って執筆されましたか?

漫画としてエンタメになっているかを気にしながら、学生も親世代も、どちらの世代の読者にとっても勇気を持てるものになれば、と思って描きました。企業の面接官や大学のキャリアセンター、学生など、採用側と就活生側の両サイドから取材して立体的に描くことで、読者が現場を覗き見しているような面白さを感じてもらえるように工夫しています。

麦田やリリカが右往左往するさまを見て、「結局だれもよくわかっていない」「世の中コロコロ変わるじゃん」と、楽観的な考えも抱いてもらえたら嬉しいですね。

もはや浦島太郎状態? 就活の世代間ギャップ

――学生と企業の思惑、就活に対する姿勢が二極化する学生、世代間の差など、就職活動のなかには様々なギャップが存在します。この漫画で描く際、意識されたことは?

採用担当の企業と学生とで、重視していることが違う、ということはしっかり描きたいと考えました。現場の社員からすれば、何のインターンをしたか、学生時代に何をやってきたかはそこまで気にしないものですが、学生の間ではまことしやかに「ここでインターンしなくては」「このバイトはダメ」という話も流れています。

また、様々なギャップは採用側の麦田が情報や価値観の違いに驚く姿で表現しました。意図的に描かなくても、今の就活をそのまま漫画にすれば、自然と世代間の違いが浮き彫りになります。

優秀な学生と大学名は関係ある?「学歴フィルター」を突き付けられ愕然。様々なギャップにぶつかり驚く麦田(『今どきの若いモンは』33巻収録・第318話より)

就活は、自分が当事者の時期を過ぎた途端に興味がなくなって、ブラックボックス化しやすいものだと思います。就活をしている学生の親御さんは、それこそ浦島太郎のような状態ではないでしょうか。だからこそ、最新の情報を持っている若い世代が、情報商材を売って稼ぐこともできる。その構造は怖い反面、面白いとも思います。

――今回、麦田はリクルーターとして学生や企業の内情と向き合います。どのような思いを託して麦田を描かれていますか?

これまでの麦田は「自分がなんとかする」「自分が良くする」という思いが強い人間でした。今回の「就職活動編」では、それは傲慢な考えであり、人は育てるのではなく育つ、ということを学んでほしいと考えて描きました。

彼女の目標は、上司である石沢課長のようになることです。ただ前のシリーズ(麦田アラサー編)では、一度人を育てることに失敗してしまいました。採用活動を通して学生を評価するだけでなく、人の上に立つことの難しさを彼女なりに学んでほしいですし、麦田とリリカ、お互いがこの物語を通して成長すればいいな、と考えています。

――今の学生が上司や会社に求めているものとは何でしょうか。

理想の上司に求められているのは、言葉だけでなく、その人の持つ雰囲気や行動、「この人についていきたい」「この人なら間違いない」と思わせるような「器の大きさ」だと思います。良い関係を築くには、部下側からも「こうしてください」と上司にある程度言える関係性が必要ですよね。

学生と話すなかでは、今の若者はたしかに大人に対して「何かを求めている」と感じました。自分もその何かに応える必要があるのだろうか、と考えましたが、ただ、あまり応える必要もないのかな、と。

口で何を言っていても、何を言われても、人は自分が憧れた人間になろうと、自由に目指すものです。憧れられる人間を、憧れられる会社をそれぞれが探しています。他者に何かを求めてるうちは子どもで、求めなくなればひとつ大人になった、とも言えるのではないでしょうか。

娘想いの母親は毒親? 令和の家族関係

――6月末発売の最新34巻で、読者に注目してほしいシーンを教えてください。

リリカのお母さんの顔を見てもらいたいです! 最初は毒親のように圧を感じる怖い顔かもしれませんが、シリーズを最後まで読むと、その見え方がひっくり返るように意図しました。

読み終えたときに、読者の方にも「見え方によっては、そう見えるだけ」という追体験をしてほしいですね。すでに「サイコミ」で配信もしていますので、ぜひ最後を楽しみにしてください。

「リリカのため」と中学受験を勧める母親。この笑顔の真意は?(『今どきの若いモンは』34巻収録・第327話より)

――中学受験、大学受験、そして就活とリリカの人生の分岐点において、「娘のため」「娘の好きなようにするのが一番」と娘想いの言葉を話す反面、怖さや威圧感を感じます。

でも、リリカ一家の両親は、都内で共働きをして、3階建ての狭小邸宅で一生懸命リリカを育てて、決して悪い人たちではないんです。

現代の親って、「超えるべき壁」ではなくなってきていると考えています。周囲の人に話を聞いても、感情を表に出すような激しい親子喧嘩をしなくなっているみたいですし。でも、うまくいっている分「いい子でいなきゃ」という感情が強いのではないか。リリカと両親の関係も、そう描いています。

第一志望の大学受験に失敗した娘を励ます両親。「就活は失敗できない」と追い詰められるリリカが再会したのは……(『今どきの若いモンは』34巻収録・第329話より)

親と子ども、それぞれの就活

――もし先生が今、新卒として就活をするとしたら、どんな戦略で挑みますか?

昔と変わらないと思います(笑)。大学4年の頃には、雑誌に漫画が載るくらいにはなっていたんですが、お金がないから一度就職しようと思って就活をしました。「自分には挑戦する強い心があります。ゼロから賞の傾向を分析して、形にしてお金を稼ぐことができました」という話をしていました。

「漫画は描かないの?」と聞かれたら「しばらくは漫画は趣味にして、働きたいです」と答えて無事内定をもらいましたが、そんな甘い浮ついた考えだったので仕事は全く出来ないポンコツでした。どこに就職をしてもいったん目の前のことを一生懸命やった方がいいと身に沁みましたね……結局辞めて漫画家になりました。

もし当時と違うことがあるとしたら、今はオンラインで就活ができるので、地元だけでなく関東や様々な地域の会社に応募しているかもしれません。

――最後に、採用側である企業で働く社会人、そして不安の中にいる就活生、そして子どもが就活に挑んでいる親、それぞれの立場にいる方に、メッセージをお願いします。

『今どきの若いモンは』の「就職活動編」では、就活を通してリリカが大人になっていく過程と、彼女と一緒に成長していく麦田の様子を描いています。2人とも失敗しまくっていますが、読者にはそれを見て「こんな形でもいいんだ」と安心してほしいですね。

上京して出版社を志望する親友・セーラとともに就活対策に取り組むリリカ。一方麦田は、彼女を尊敬する後輩・神谷とともに、新卒採用における社内の「学閥争い」を変えようと意気込む。学生側・企業側それぞれの行く末は?(『今どきの若いモンは』34巻収録・第336話より)

学生はもちろんですが、親にとっても子どもの就活は初めてで、大変だと思います。僕の漫画の読者は30〜40代が多いので、なかにはお子さんが就活をしている人もいます。子どもとの関わり方に悩むなかで、漫画を読んで「わかるわかる」と共感してもらえればいいな、と。親と子どもは一番距離が近い存在だから、自分の人生ではないのに、多少なりとも自分の人生として捉えしまって悩む部分があると思うんですよね。

就活は自分の人生を決めるプロセスです。怖いかもしれませんが、漫画を通して就活のことを俯瞰して見てもらえたら嬉しいです。就活編のひとつの大きなテーマは、「自分で選ぶ」。答えはいつも自分の中にあります。それを信じて頑張ってください!

『今どきの若いモンは』は、現在サイコミにて毎週月曜更新で好評連載中。最新コミックス34巻も発売中です。

○『今どきの若いモンは』最新34巻好評発売中!

『今どきの若いモンは』34巻 著・吉谷光平、小学館刊、「サイコミ」にて連載中

親の心子知らず。

では、子の心は…?

服も、学校も、付き合う友達も、親が示してくれる「正解」に従い、着々と人生を歩んで来たリリカ。

両親からの愛と期待とプレッシャーを一身に受けた彼女は、周到な準備を進め就活に臨む。

失敗してしまった大学受験、挽回できるのは就職先だけ…!

目指すは“30歳で年収1000万円もらえる企業”!

一方採用側の麦田は、就活市場の非情な現実を目の当たりにすることに――!

(c) Kohei Yoshitani / Cygames, Inc.

三山 てらこ みやま てらこ 横浜生まれ横浜育ち。グルメと深夜ラジオを愛するNPO職員(2023年4月〜)。FP2級。銃弾を防ぐ少年団と、ポケットに入るモンスターも大好き。最近の悩みはアイスの買い置きが一瞬でなくなってしまうこと。 この著者の記事一覧はこちら