不仲なお隣さんから届いた「封書のお願い」…無下に断ると、将来我が家が「買い叩かれる」かもしれない理由【土地家屋調査士が解説】
「土地の境界立会」を経験したことがありますか? ある日突然、お隣から封書や口頭で「土地の境界線を確認させてほしい」と依頼されたら、多くの人が戸惑うはず。「仕事が忙しくて時間がない」「普段からお隣とはあまり仲がよくないから関わりたくない」――そんな理由でお断りしたくなる気持ちも無理はありません。今回は、お隣からの土地境界立会の依頼に悩む40代女性Aさんの事例をもとに、土地の境界の専門家である土地家屋調査士・小川曜氏が「境界立会」について解説します。※プライバシーに配慮し、複数の事例を再構成して記事化しています。
お隣さんからの「土地境界立会の依頼」を断りたい
今回の相談者であるAさんは、40代の女性です。
15年前に不動産会社を通じて土地を購入し、その土地に注文住宅を建てて住みはじめました。しかし、雨が降るとお隣の雨樋から自分の敷地へ水が流れてくるなど、いくつか隣地トラブルを経験しており、お隣とは決して良好な関係とはいえません。
そんななか、お隣から土地の境界立会の依頼が届きました。当初は協力しようと思ったものの、自宅を探すと、土地購入時の測量図を発見したことから、「いまさらわざわざ立ち会う必要性がある?」と後ろ向きな気持ちに。現地には境界標もしっかり存在していることがわかったこともあり、正直なところ「できれば関わりたくない」というのが、Aさんの本音でした。
「仕事で忙しいことを理由に、立会をお断りしても大丈夫か」というのが今回の相談内容です。
「測量図があり境界標もある」=境界が明確、とは限らない
Aさんのように、図面があって現地に境界標が存在していれば「境界ははっきりしている」と思いがちです。しかし、必ずしもそれだけで境界が明確であるとは言い切れません。
本来「境界が明確である」とは、隣地と立ち会って境界の確認が完了し、現地に境界点を正しく復元できる図面が存在する状態を指します。今回の場合では、Aさんが持っているその測量図がどのような性質のものかによって、意味合いは大きく異なるのです。測量図が、隣地との立会・確認を経て作成されたものであれば、境界は「確定済み」といえます。
しかし、お隣との立会をせず、単に現地の塀や建物の位置を測っただけの図面であれば、立会確認の有無が不明なため、その図面だけでは境界は「未確定」として扱わざるを得ません。
一般的に、前者を「確定測量図」、後者を「現況測量図」と呼んで区別しています。Aさんの図面を確認したところ、境界標の記載はあるものの、名称は「現況測量図」となっていました。つまり、過去にお隣と立ち会って確認したかどうかが定かではない状態だったのです。
土地の境界を確認する主な3つの図面
ここで、土地の境界や面積を表す3種類の図面の特徴を整理しておきましょう。
◎現況測量図(未確定)
現地のブロック塀や境界標などの位置を測っただけの図面です。Aさんが持っていたのもこの図面でした。コンクリート杭や金属標などの記載があったとしても、あくまで「現在の見た目がこうなっている」程度の記録に過ぎないため、一般的に境界は確定していないものとして扱われます。
◎確定測量図(確定済み)
隣地との立会および確認がすべて終わり、正しい境界点と面積を表すために測量実務者が作成する図面です。ただし、この図面だけでは「誰が確認したか」を第三者に証明できません。根拠資料として、お隣の記名押印等がある「立会証明書」や「境界確認書」がセットになって初めて、境界が確定していることを証明できます。
もし立会証明書や境界確認書を紛失してしまうと、登記手続きなどができなくなるため、大切に保管しなければなりません。確定求積図(※)自体は調査士に頼めば再発行できる場合がありますが、立会証明書と境界確認書はお隣から再度もらい直す必要があります。
※「確定測量図」はお隣と境界を確定させて作成する図面全体を指し、「確定求積図」はその図面内に記載されている面積計算(求積)の結果とプロセスを示す部分や表を指します。
◎地積測量図(法務局備え付け)
法務局に備え付けられている公的な図面です。作成された年代によって測量方法や記載事項が異なるため、画一的に扱うことはできませんが、不動産登記法が改正された平成17年(2005年)以降の図面であれば、原則として隣地との立会・確認が義務付けられています。また、現地に境界を復元できる正確な数値が記載されているため、これが存在すれば境界が明確な土地であるといえます。
※法務局が扱う公的な境界を「筆界(ひっかい)」と呼びます。
したがって、「確定測量図」または「平成17年以降の地積測量図」があるようでしたら、境界は確定されているといえるでしょう。
隣地が境界の確認をしたい理由
お隣が立会を求めてくる背景には、主に「建物の建築」「銀行からの融資」「土地の売買」という3つの事情が背景にあることがほとんどです。
建築・融資・売買にはどれも大きなお金が動きます。境界が明確であることは、未然に隣地トラブルを回避することにつながります。第三者(買主や銀行)から「お隣と境界トラブルがない根拠資料(立会証明書または境界確認書を含む確定測量図)」の提出を必ずといっていいほど求められるため、お隣は立会を依頼してくるのです。
立会を拒否することで、将来的に不利益を被る可能性も
立会を断りたいと考えているAさんですが、拒否すると将来的にいくつかトラブルが起こる可能性があります。
まず、Aさん自身が土地を売却する際、境界を確認できない場合があります。
たとえ過去に境界を決めていたとしても、数年が経過すれば、現地の工事などで境界標がなくなったり、隣の所有者が変わったりと環境は変化します。将来Aさんが売却しようとした際、買主から「改めて境界の確認書類を取り直すこと」を契約の条件にされるケースがあるのです。
もし過去にお隣からの立会を無下に断っていれば、今度はこちらが協力を求めたときに「あのとき断られたから」と拒否されかねません。過去に立会を行っているにもかかわらず、自分の売却時に協力が得られず、最終的に「境界が未確認な土地」として安値で売却せざるを得なくなるという、損失を被る可能性があるのです。
土地の境界は「その場限り」ではなく、管理し続けるもの
土地の境界は、一度立会および確認を行えば終わりというわけではありません。大切なのは、明確になった境界を今後も「良好に維持管理し続けられるか」という点にあります。
たとえ境界が決まっていても、境界標が亡失した際に、復元のための協力をお隣から得ることができなければ、大きな損失が生じます。境界点を確定して終わりではなく、これを機に境界を管理し続けるものとして、大切に維持管理していきましょう。
筆者の助言を受け、立会に参加することにしたAさん
以上のリスクと境界の仕組みをAさんに伝えたところ、深く納得され、後日お隣との立会に臨まれました。結果としてはトラブルもなく、手持ちの図面どおりに現地の境界標で正しい位置を確認できたそうです。
後日、Aさんから下記のような連絡をいただきました。
「隣地の測量実務者の方から、『今回立会と確認ができたことで、Aさんが将来土地を測量する際にだいぶ手間が減って、測量に費やす費用も時間も軽減されますよ』といっていただきました。今回立ち会って本当によかったです。境界立会に不信感があったのですが、立ち会ったことで境界も明確になり、すっきりしました」
お隣との境界を明確にすることは、お互いの資産の価値を守るための「共通の利益」となります。もしあなたのお隣から立会の依頼が届いた際は、少し手間かもしれませんが、将来の自分の資産を守るためにも、前向きに協力することをお勧めします。
小川 曜
土地家屋調査士

