ロマンチックホラー「オブセッション 災愛」の注目度 超低予算ハリウッド版「カメ止め」が興収2億8000万ドル超え(金澤誠/映画ライター)
製作費わずか75万ドルで、全米公開初週末に1720万ドルの興行収入を稼ぎ出し、公開5週目には全世界で2億8718万ドル超えという、話題のホラー「オブセッション 災愛」が7月17日に日本で公開される。
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同作はYouTubeの短編作品で注目を浴びた26歳のクリエーター、カリー・バーカー監督の長編デビュー作。内気で孤独な青年ベアが、思いを寄せるアルバイト仲間のニッキーの気を引くため、どんな願いも1つだけかなえる「願いの柳」に「ニッキーが誰よりも僕を愛してくれますように」と願いをかけたことから恐怖体験が展開する。
監督はW・W・ジェイコブズが書いたホラー古典小説「猿の手」にインスパイアされて思いついたという。3つの願いをかなえる猿の手のミイラが老夫婦に悲劇をもたらす「猿の手」では、最初に間違った願いをしても、あとの2つで修正が可能なのだが、こちらは願いが1つというのがミソ。ひたすらベアを求めるニッキーの愛が、独占欲を伴ったオブセッション(執着)に変わっても、それから逃れることができない“災愛”の怖さを、カリー・バーカー監督は執拗に映し出している。
監督がYouTube出身だからか、映像的には非常にコンパクトなイメージ。全編の半分以上はベアをはじめとする登場人物がカメラと正対するバストショットで撮られ、引きの画はベアたちアルバイト先である楽器屋の駐車場と、友人たちのパーティーシーンぐらいしかない。ベアとニッキー、彼らの友人であるサラとイアンを含めた4人の会話劇で、映像の変化には乏しいが、その分、会話による緊張感だけでベアの中で膨れ上がっていく恐怖を表現した、監督の演出力が見事。
また、ホラー映画は不穏な物音などの効果音や音楽によって見る者に恐怖心を植え付けるのが常道だが、ここではニッキーを演じたインディ・ナバレッテが、突然声を張り上げたり、ドスの利いた声に変わるなど、彼女の声の変化で見る者にショックを与える。ニッキーはひとつの体の中に、彼女自身とベアの願いによって産み落とされた、彼に執着するもう一つの邪な人格を持っていて、それがある瞬間に、発作的に表れるのだ。ニッキーの内面で起こっている葛藤を、奇声を発しながらインパクト十分に表現。俳優の表現力を怖さの核心に置いた、監督のセンスが新鮮な作品になっている。
これまで超能力少女の一大殺戮を描いた「キャリー」(1976年)のキャリーや、ハリウッド版「ザ・リング」(2002年)のサマラ(日本では貞子)、暴走するAI人形ミーガンが登場する「M3GAN ミーガン」(22年)など、忘れられないモンスターヒロインが登場した。今年もジェシー・バックリーが、死から蘇ってフランケンシュタインのモンスターと逃避行を続ける、怪物の花嫁を快演した「ザ・ブライド!」が公開。今回のニッキーはそれらの系譜に連なる、新たなモンスターヒロインの決定打になりそうな気配がある。
これから公開される、日本での反響が気になるロマンチックホラー作品である。
(金澤誠/映画ライター)
