ストレスや不安はあくまで精神的なものと捉えられがちですが、近年の研究では心と体が密接に結びついており、精神状態の変化が身体機能や健康にさまざまな科学的影響を及ぼしていることがわかっています。イギリスのサウスウェールズ大学で人間生理学上級講師を務めるルイス・フォール氏らの研究チームは、ストレスを感じると血液に生じる生化学的な変化を、実験を通じて明らかにしました。

Psychological stress catalyses free radical-mediated activation of coagulation in humans - Fall - 2026 - The Journal of Physiology - Wiley Online Library

https://physoc.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1113/JP290576

What happens to your blood when you’re stressed? We put it to the test

https://theconversation.com/what-happens-to-your-blood-when-youre-stressed-we-put-it-to-the-test-285538

科学者らは数十年前から、慢性的なストレスが心血管疾患のリスクを高めることを知っていました。人間が心理的なストレスを感じると、血液の流れを調整したりケガをした際に凝固して出血を防いだりするシステムが乱れ、血液が凝固しやすくなる過凝固状態になるとのこと。

しかし、心理的ストレスがどのような生化学的変化を引き起こし、血液が過凝固状態になるのかというメカニズムについてはよくわかっていませんでした。専門家の中には、「ストレスが免疫系を活性化することで広範囲にわたる炎症を引き起こす」という説を唱える人や、「ストレスによって血圧が上昇して血液が濃縮され、これが血栓などの形成を促進する」という説を主張する人もいます。

今回フォール氏らの研究チームは、「ストレスが血液を過凝固状態にする真の原因は酸化ストレスであり、これによって反応性が高い不安定な分子であるフリーラジカルが増加し、血液の構造特性が変化するのではないか」という仮説を立てて実験を行いました。



実験には18〜30歳の健康な男性8人が参加し、被験者は1週間の間隔を空けて2回実験室を訪れました。被験者は、2回のうち1回は単に静かに座って休息を取り、もう1回では急性心理ストレスを誘発することが知られるトリアー社会的ストレステストを受けました。

トリアー社会的ストレステストは、日常的な社会的プレッシャーを反映させるため、意図的に不快な内容となっています。被験者はカメラや無表情な審査員の前でスピーチをすることを求められたり、難しい暗算課題を成功するまでやり直させられたりしたとのこと。

被験者は休息とストレステストの前後で血液サンプルを採取し、血液中のフリーラジカルの濃度を測定したほか、血液が作った血栓の構造を分析しました。これにより、ストレスが微視的なレベルで血液に及ぼす影響を調べられたとフォール氏は説明しています。

分析の結果、休息を取った被験者ではセッション前後で血液の化学的性質は安定していましたが、ストレステストを受けた被験者ではテスト後にフリーラジカル濃度が上昇。精神的ストレスが体内の酸化ストレスを急速に増加させたことが示されました。

また、形成された血栓はより大きくなっており、血栓を構成するタンパク質のフィブリンもより密に詰まっていることが判明しました。さらに、ストレスが体内の凝固系の一部である内因性凝固経路を活性化させた証拠も見つかったと報告されています。なお、ストレスが血液の粘度や密度そのものを変化させるという証拠は見つかりませんでした。



今回の研究結果は、たとえ短期的なストレスであっても血液の生化学的な性質や、血栓の質と構造を変化させることを示しています。とはいえ、ストレスの多い環境や忙しい仕事がすぐさま心臓発作や脳卒中を引き起こすという意味ではなく、女性や高齢者でも同様の結果になるのかどうかを確かめるにはさらなる研究が必要です。

フォール氏は「今回の研究結果は、心血管疾患リスクを軽減するための新たなアプローチを示唆する可能性もあります。今後の研究では、ストレスの心理的側面のみに焦点を当てるのではなく、ストレスの根底にある生化学的経路を標的とすることで、ストレスによる身体的影響から心血管系を保護できるかどうかを探求することが可能です」と述べました。