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東京都福祉局のデータによると、全国の摂食障害の外来患者は約21万人と推計され、女性や若年層に圧倒的に多くみられるそうです。そんな中、摂食障害に苦しんできた元当事者であり、その経験を活かして摂食障害に悩むご本人やお母さんたちの心のケアにあたっている公認心理師・大橋とも先生は「むちゃ食いする・食べ吐きする・食事を食べない。それは『わがまま』ではなく『心の病気』です」と語ります。そこで今回は大橋先生の著書『わが子が摂食障害になったら読む本』より一部を抜粋し、回復へと至る道筋と、お子さんとの温かなコミュニケーションが復活するノウハウをお届けします。

【書影】子どもの「治りたい」気持ちを引き出す言葉がけをロールプレイで習得。大橋とも、松本功『わが子が摂食障害になったら読む本』

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なんで普通に食べられないの?

体は「食べる」ものによって作られます。

そして、「食べる」ことは、体だけでなく心も育てます。

お祝いごとのお寿司、お誕生日のケーキなど、楽しいイベントはいつもご馳走とセットです。

ところが、突然「食べる」ことが難しくなってしまう病気があります。

それが「摂食障害」(拒食、過食、過食嘔吐)です。

お母さんもパニックに

健康の基本である「食べる」こと。

家族や友達と楽しく交流しながら「食べること」。

もちろん、お子さんも「普通に」食べていました。

それがある日、崩れてしまったら?

お母さんはお子さんの体が心配でたまりません。

「何か大きなストレスがかかっているのかな」

「この子の気持ちがわかれば一緒に解決できるのに」

とやきもきします。


<『わが子が摂食障害になったら読む本』より イラスト:しゅんぶん>

変な食べ方をやめて、普通に食べなさい!

早く元気になってほしい一心のお母さんは、「普通に食べられるように」声かけをします。

拒食のお子さんには

「ねえ、一口だけでも食べて」

過食のお子さんには

「これ以上、食べるのはやめたら?」

お母さんは、しばらくはお子さんの食べ方を変えようと励まします。

でも、お子さんはまったく元に戻る気配がありません。

それどころか、状況は悪くなっているように見えます。

「こっそりご飯を減らしている」

「菓子パンの空き袋がこんなに増えている」

「トイレで吐いているような跡がある」

ついにお母さんの我慢は限界を迎えます。今まで抑えていた分、強めの言葉をかけてしまいました。

「いい加減、変な食べ方をやめて、普通に食べなさい!」

「……」

「なんとか言いなさい!」

「うるさい! お母さんは何もわかってないくせに!」

子どもの絶叫、乱暴にドアを叩きつける音。取り残されたお母さんの頭のなかは「なんで、なんで」でいっぱいです。


<『わが子が摂食障害になったら読む本』より イラスト:しゅんぶん>

お子さんと会話するには心身のモードに注目

人の体と心は、自律神経の働きによって、3つの状態を行き来します。わかりやすくお話するために、摂食障害のお子さんの心身の状態を3色のモードであらわします(吉里恒昭先生の『「ポリヴェーガル理論」がやさしくわかる本』〈日本実業出版社〉を参考にしています)。

赤はイライラ・不安モード、青は拒絶・孤独モード、緑は安心・つながりモードです。

お子さんとちゃんとした会話ができないのは、お子さんとお母さんの間で、体と心のモードが噛み合ってないからです。そこで、心身の状態をあらわすこの「3つのモード」を知っておくと、お子さんとのコミュニケーションに役立ちます。

心身が穏やかな3つのモード


<『わが子が摂食障害になったら読む本』より>

赤モードのとき

アクセルが入っている状態。体に力が入っていて、イライラ。不安、焦りで落ち着かない。「どうにかしなきゃ」といった完璧思考、白黒思考、衝動的になりやすい。

緑モードのとき

心身ともにリラックスした状態で、コミュニケーションに最適。体は適度に緩み、落ち着いていて穏やか。「どうにかなる」「どっちもいいよね」といった柔軟な思考ができやすい。

青モードのとき

急ブレーキの状態。体から力が抜けて無気力。心と体のメンテナンスが必要。「どうせダメ」「終わりにしたい」など自己否定・孤独感が強い。引きこもりが起きやすい。

摂食障害のお子さんの3つのモード


<『わが子が摂食障害になったら読む本』より>

赤モードのとき

体も心もヒートアップしすぎて、過食になりやすい。

赤モードと青モードを行ったり来たりで、アップダウンが激しい。過食嘔吐になりやすい。

青モードのとき

体も心もシャットダウン。拒食になりやすい。

お母さん自身も緑モードで

お母さんも子どもも緑モードにいるときが、もっともコミュニケーションがとりやすい状態です。お子さんのモードに合わせて働きかけを変える必要があります。

なるべくお母さんも緑のモードを意識してみてください。お子さんとのコミュニケーションが取りやすくなるだけでなく、お母さん自身のストレスも軽くなります。

回復へと向かい、子どもの命を守るために

子どもとのコミュニケーションに戸惑うお母さんは次のような態度をとりがちです。

・お子さんをなんとか説得しようとする。

・これ以上、お子さんを刺激しないようにする。

残念ながら、どちらも状況を改善する方法ではありません。ところが、多くのお母さんは、この2つを繰り返すループにはまってしまいます。

ループが数か月で終われば早いほうで、何年、何十年も続くことは珍しくありません。長引くほどに、お母さん自身の心もヘトヘトになってしまいます。

でも、お母さんは自分がどんなにしんどくても、お子さんを見放すことができません。「この子の命を守れるのは自分だけだ」という切羽詰まった思いがあるからです。

心をすり減らしながら、それでも踏ん張っているお母さんに、ぜひ知っておいてほしいことがあります。

お子さんの命を守るように、お母さんの心も守ってください。

お母さんの心を守ることが、お子さんの命を守ることにもつながります。

今、目の前にお子さんの摂食障害の症状があると信じられないかもしれませんが、お母さんの「安心感」が増えれば、お子さんの安心感も増え、お子さんも苦しい食べ方を手放す方向に進んでいけるのです。

反対に、「よかれと思って」「心配だから」とお母さんの不安が先に立つと、お子さんもますます不安が増えて、摂食障害の症状も悪化してしまいます。

お子さんの「性格」や「意志」で摂食障害が起きているのではありません。痩せることがいいという社会的な風潮、生まれもった体質、心の感じ方などさまざまな要因で苦しさを抱えるようになり、その苦しみが摂食障害となって表出したのです。

着実に回復に向かうために、お母さんとお子さんが一緒に緑モードで過ごす時間を増やしましょう。お母さんの関わり方でお子さんの緑モードを育むことができます。

焦らずに一緒に進んでいきましょう。

※本稿は、『わが子が摂食障害になったら読む本』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。