世界の40%もの人々が「ニュースから目を背けている」理由について心理学者が解説

朝起きてまずスマートフォンでSNSをチェックすると、昨日から今朝までの間に起きたさまざまな事件や災害、政治的問題のニュースが目に入り、起きて早々にげんなりした経験がある人は多いはず。こうした経験から、なるべくニュースを見ないようにしているという人もいるかもしれません。一体なぜ人間は悪いニュースに反応してしまうのか、現代社会でどのようにニュースと向き合えばいいのかについて、カナダのウィルフリッド・ローリエ大学で心理学講師を務めるアリ・ジャセミ氏が解説しました。
https://theconversation.com/why-40-per-cent-of-people-are-avoiding-the-news-according-to-a-psychologist-282023
イギリスの研究所兼シンクタンクのロイタージャーナリズム研究所による2025年のデジタルニュースレポートでは、世界全体では約40%もの人々が時々、あるいは頻繁にニュースを避けていると報告されました。人々はニュースを避ける理由として、ニュースによって気分が悪くなり、圧倒されて何も行動できないと感じたためだと回答していました。
社会的発達や心理的幸福について研究しているジャセミ氏は、これらの人々が感じている「ニュース疲れ」は怠惰や弱さ、あるいは市民意識の低下によるものではないと指摘。「これは人間の脳が本来想定していなかった環境に直面した際の、予測可能な反応なのです」と述べています。

人間の脳は、印刷機やスマートフォンが登場するずっと以前から、「子孫を残すのに十分な時間を生き延びる」というたったひとつの問題によって形作られてきました。たとえば、草むらの音に向けた注意をすぐに失ってしまう大ざっぱな祖先と比べて、音を聞いたらじっと立ち止まり、草むらの中に何がいるのかを見極めようとする注意深い祖先の方が捕食者に襲われにくく、より多くの子孫を残せたというわけです。ジャセミ氏は、「脅威に注意を払った脳こそが、生き残った脳だったのです」と述べています。
こうした脅威に対する反応は、心理学者が「ネガティビティ・バイアス」と呼ぶものの基礎になっています。 ネガティビティ・バイアスとは、人間の心はポジティブな情報よりもネガティブな情報を重視し、より速く注意を向けたり長く記憶したりする傾向のことであり、これは認知科学において最も再現性の高い傾向のひとつだとのこと。
人間の長い歴史のほとんどにおいて、近くに捕食者がいるかどうかは夕日がきれいであることよりも重要でした。捕食者やその他の外敵といった「真の脅威」を見逃せば死に至る一方、過剰に警戒した結果何も起きなかったところで、せいぜい警戒に使った数分間を無駄にするだけでした。この非対称性により、ネガティビティ・バイアスがより適応的なものになりました。
ジャセミ氏は、「問題はここにあります。人間の脳は当時から変わっておらず、私たちは数千年前と同じ種族なのです。変わったのは、脳が脅威を感知するためにスキャンしなければならない世界の規模です」と述べています。

人間の歴史の大半において、脳が処理するべき脅威は自分たちが住む地域に関するものでした。たとえば近隣の部族の動向、干ばつ、身近な子どもがかかった病気といったものです。遠く離れた場所に関する情報が届くことはめったになく、仮に情報が届いたとしてもほとんどは無関係でした。しかし、インターネットやテクノロジーによって世界が高度に接続された現代社会では、状況は異なります。
2026年には、身近な脅威に対応するために使ってきたものと同じ脳で、遠く離れた地域での紛争や金融危機、別の大陸で起きた気象災害、数十kmも離れた隣の県で起きた凶悪犯罪といったニュースに短時間で反応することが求められます。
10万件を超えるニュースの見出しを分析した2023年の研究では、ネガティブな単語が1つ追加されるごとにクリック率が2.3%上昇し、逆にポジティブな単語が1つ追加されるごとにクリック率が1.0%ずつ減少することが示されました。また、ニュースに対する生理的反応を調べた2019年の研究では、世界中の人々はポジティブなニュースよりもネガティブなニュースの方に、明らかに強い生理的反応を示すことが示唆されています。つまり、脅威が自分自身に関係しているかどうかを心が判断する前に、まずは体が反応してしまうというわけです。
一部の研究者らは、このような状況で起こる現象を説明するために「Problematic News Consumption(PNC、問題のあるニュース消費)」と呼ばれる臨床的な枠組みを提唱しています。これはニュースへの過度な没頭や調整不全、日常生活への支障を引き起こすパターンを示します。2022年の研究ではアメリカの成人の17%がPNCに該当しており、該当者の61%は大幅な体調の悪化を報告したのに対し、そうでないグループでは6%にとどまりました。
マイノリティの人々にとって、ニュース疲れはさらに深刻な影響です。ジャセミ氏は、「たとえ自分が直接の標的でなくても、自分たちのグループに向けられた危害を繰り返し目撃することは、人々に重大な心理的影響を与える可能性があります。移民などの人種的マイノリティにとっては認知的負荷がさらに大きくなり、ニュースが自分たちの出身国に関するものである場合、単に視聴をやめるという選択肢を取ることははるかに困難になります」と述べています。

ニュース疲れへの対抗策としてまず最初に思い浮かぶのは「ニュースを避けること」ですが、ジャセミ氏は「民主主義は情報に通じた市民によって成り立っているのです」と述べ、単にニュースを避けることは推奨していません。また、正確で信頼できる情報から遠ざかると、今度は信頼できない情報源からの誇大された誤情報が届きやすくなってしまうという問題もあります。人間の脳は悪いニュースに注目しがちであり、ネガティブなうそで注意を引く誤情報には目が行きやすいのです。
ジャセミ氏が推奨する対抗策は、「ニュースの消費量と供給源を管理すること」です。たとえばニュースを見る時間を1日のうち特定の時間帯に制限したり、SNSのニュースアカウントではなく信頼できる新聞や出版社の長文記事を読んだりすることで、情報過多による圧倒感を軽減できます。また、読んだニュースに関して自分が何をできるのかを認識すると、心理的苦痛を軽減するのに役立つそうです。
警戒するべきなのは、人々の怒りをあおる挑発的なメッセージやコンテンツです。これらのコンテンツはネガティブな反応を引き起こすことで、ソーシャルメディア上でのエンゲージメントを高めることを目的としています。
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ジャセミ氏は、「一部のコンテンツ制作者は現実を反映するのではなく、挑発的な意図を持っていると認識することで、ニュースとの適切な距離感を保つことができます。ニュースの重苦しさが軽減されることはないでしょうが、ニュースとの向き合い方を意識することは可能です。私たちの脳は、これほどの量の情報入力に対応できるように作られていませんが、適応することを学ぶように作られています」と述べました。
