ESSEonlineで2026年1月に公開された記事のなかから、ランキングTOP10入りした記事のひとつを紹介します。

絵本編集者として活躍してきた末盛千枝子さん(84歳)は、東京から移住し、現在は岩手でひとり暮らし中。再婚した夫や長男が亡くなり、運転免許も返納した今は「家の過ごし方」を一層大切にしているそうです。ゆったりとした朝食、リビングから眺める岩手山、夜更けのメールなど、心地よい日課を紹介します。

※ 記事の初出は2026年1月。年齢を含め内容は執筆時の状況です。

※ この記事は『今だからわかること 84歳になって』(KADOKAWA刊)を一部抜粋・再構成して作成しています。

大切にしている時間

12年前に、再婚した夫・古田暁が、3年前に長男・武彦が亡くなって、ひとりの時間が訪れました。不思議に寂しいという感じはあまりありません。当時は、病院へ行ったり、日常の世話もあったり、車で1時間ほどの盛岡へ出向くことも多くて忙しくしていましたが、時間が経ってこうなってみると、不思議なことになにが大きく変わったという実感もないのです。

ただ、こんなこと、もう心配する必要はないんだわということはあるのです。たとえば、テレビやYouTubeの音量。大きな音を出すと、彼らにうるさいんじゃないかと気にしていたけれど、今はもう、だれはばかることもありません。

私は、なまけ者で、宵(よい)っぱりの朝寝坊です。車の免許も返納した今は外出も自由にできないので、ほとんど家で過ごします。気ままなもので、日課で決めているものはとくになく、朝は遅めの朝食をとって、日中はリビングで岩手山と空を眺めているとき以外は、習慣的に身についたニュースを見たり、新聞をひとしきり読んだりして、過ごしています。もちろん、週に3回はヘルパーさんたちも来ますし、友人知人も訪ねてきます。

●夕暮れどきの風景を楽しむ

いちばん好きな時間帯は、夕暮れどきです。ときどき刻々と変わっていく景色を眺めながら、考えるでもなく考えたりするひとときです。気づくと陽はすっかり落ちていて、山も野原も田んぼも人家もすべてが沈み込んだ闇のなかに、ぽつんぽつんと街灯だけが浮かんでいます。それは、まるで夜の海のよう。ひとりになって、風景をこんなふうに感じられるのだとしたら、そう簡単に、この楽しい時間を手放すわけにはいきませんね。

宵っぱりの朝寝坊

夜も更(ふ)けて、メールをチェックしていると、ポン! とメッセージが飛び込んでくることがあります。「あら、こんな時間に起きてメールしてくる人がここにもいるわ」と、仲間を得たような気分になってしまう。それで、勢い、私もすぐ返信してしまうというわけです。夜更けて人とやりとりができるなんて、ほんのり心が温められます。

私は、宵っぱりです。ニュースやドキュメンタリーを夢中になって見ていると、あっという間に10時すぎ。それにドキュメンタリーの番組は、夜遅いことが多いんです。それからメールやフェイスブックをチェックして、あら、懐かしい人からメッセージが…なんて返信を書いているうちに、12時を回っています。

寝つきはよくて、ものの5分でコテッと寝ていたのですが、うまくいかないときも増えました。眠れなければ、横になってしばらく本を読んでいれば眠くなると、テレビで医者のアドバイスが紹介されていましたが、なるほどそうです。本を開くと、そのうち睡魔がやってきます。

●なにも約束がない朝はゆっくり寝ています

そんな具合だから、朝はなにも約束がなければだらだらと寝ています。9時? 10時? 決めた時間はないので、起きたときが朝。千枝子さんは自由人ですね、なんて言われるけれど、それはものは言いようというもので、なまけ者なだけ。

ご近所さんも、あそこの人は早く行っても出てこないと知っているから、なにか必要があるときは朝は避けているみたい。宅急便の人も今では、声をかけずに玄関先に置いていってくれるんです。田舎で暮らすというのは、こういうことのようです。