《 スポーツを絡ませた地域活性化 》「民設民営」でスポーツ・音楽・モビリティを発信!トヨタが進めるアリーナビジネスの新発想
「スポーツや音楽、モビリティの発信拠点として、これから大きな役割を担っていきたい」─。このように意気込みを語るのは、10月3日に東京・お台場エリア青海地区に開業予定の新アリーナ「トヨタアリーナ東京」を運営するトヨタアルバルク東京社長の林邦彦氏である。
1999年に大観覧車をシンボルとした大規模複合集客施設「パレットタウン」内にあり、2021年に閉館したトヨタ自動車のショールーム「メガウェブ」の跡地で開業する同アリーナ。新たな舞台の登場でスポーツの振興はもちろん、お台場の地域活性化やトヨタのものづくりへの波及効果も見込んでいる。
運営に関して一味違うのは、その運営方法だ。これまでアリーナの建設は公共団体が行い、運営は民間企業が行う「公設民営」が主流だったが、新アリーナでは土地はトヨタが保有し、新アリーナの所有者はトヨタ不動産、アリーナの事業運営をトヨタアルバルク東京が担う「民設民営」を採用している。
日本ハムグループによる北海道の「エスコンフィールド」や長崎県の「長崎スタジアムシティ」はジャパネットグループが手掛けている。公設の場合、設備などが多目的利用に対応しておらず、スケジュールや用途においても自由度が低い。「アリーナ利用者が設備改修して欲しくても実現しない」(関係者)のだ。
しかし、民設民営であれば民間事業者の自由がきく。その点、1人を収容するトヨタアリーナはトヨタグループの思想を組み込み、ゼロから採算性を意識した構造となっている。実際、トヨタアルバルク東京もBリーグ所属のプロバスケットボールチーム「アルバルク東京」を運営するアルバルク事業部とアリーナ事業部とに分け、チームとアリーナの一体経営を進める。
アルバルクの同アリーナでの年間試合数は約30。残る330以上の日数も稼働させるため、同じBリーグの「渋谷サンロッカーズ」やプロダンスのDリーグの本拠地としても同アリーナは利用される予定。
また、音楽コンサートや「企業の表彰や周年イベントなどのMICE(企業の会議、招待旅行、国際会議、展示会)でも利用可能な設計となっている」(同社アリーナ事業部部長の林洋輔氏)。そのため、開業後もコーヒーチェーンの表彰イベントやユーチューバーによるライブなどの予約で埋まっており、「既に初年度の稼働率は施設点検日を除く日程で100%」(同)となっている。
国内最大級を誇るビジョン設備でスポーツだけでなく、コンサートやMICEにも対応している
部長の林氏は米国を中心に30以上のアリーナを視察。ヒアリングなどを重ねて導き出したのが、いかにスポーツ用途が中心のアリーナを多目的化するかだった。コンサートを想定していないアリーナではステージがなく、天井も照明設備を吊るすことを想定していないため、興行主が自ら持ち込み、設備を設置するしかなかった。しかし、同アリーナでは「ステージもあり、天井も照明設備の設置可能な仕様になっている」と同氏。
また、照明・音響・映像・サイネージを一括制御できるパナソニックの総合演出システムも導入し、プライベートな個室空間と広いテラス空間を備えたスイートルームを6室設置している。「座席数を減らすことになり、反対意見もあった」(同)が、その命名権を日本航空が獲得。マイルの活用方法を広げたい同社のニーズと合致した形だ。
さらにお台場の景色も変わりそうだ。近隣にテレビ朝日による劇場・ホールを中心とした複合型エンタテインメント施設やコナミの次世代研究開発拠点の建設が進む。これらを含めたお台場の施設間での移動をトヨタの最新鋭モビリティでつなぐことを想定しているからだ。新たな移動手段の登場により、オフィス通勤や観光客以外の新たな来街者の来場も見込まれる。
トヨタとスポーツのかかわり
一方、本業のモビリティに絡む取り組みも行う。次世代の電気自動車「イーパレット」を移動式店舗のように活用したり、3輪タイプや2人乗りの電動モビリティでの移動体験、リンナイと共同開発した「水素グリラー」などを投入し、次世代技術の新たな使い方も提案していく。
そもそもトヨタとスポーツとは縁が深い。同社が創業した1937年、創業者の豊田喜一郎氏が自動車産業をつくるという壮大な夢にチャレンジしたとき、スポーツの力が必要であると考えていたと言われており、同年に「陸上部(現・運動部)」を創設している。
会長の豊田章男氏も、かねてよりスポーツには力を入れている。工場で働くアスリート社員がいれば、現場のチームは皆で応援するし、試合観戦もする。チームワークは一層強固になり、一体感が醸成される……。こんな思いを持っているからだ。社長だった2013年当時、赤字転落や大規模リコール問題などの危機に直面した際、「自分に勇気を与えてくれたのが運動部だった」と語っている。
新アリーナでは太陽光発電やゴミの再資源化、CO2排出量の見える化など環境への配慮をはじめ、障がい者を含むアート作品の展示なども行っている。もちろんそれはサステナビリティという面もあるが、「継続して建物の価値を保つことも意味している」と社長の林氏は語る。
足元ではトランプ関税で本業の自動車事業の先行きは不透明感が漂う。その中でスポーツを核にしたトヨタ独自のアリーナビジネスが本業にどのような波及効果をもたらすのか。「電動化でも本気」というトヨタの手腕がスポーツの舞台でも試される。
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