【インタビュー】フットウェア「 キーン 」が新工場で国内製造を加速。それでも価格を上げない理由

記事のポイント
価格据え置きを宣言したキーンは、ケンタッキー州に新工場を設け米国製造比率を倍増させる。
中国生産ゼロとサプライチェーンの多様化により、関税の影響を最小限に抑えている。
理念主導の判断と顧客との誠実な向き合いが、ブランドの信頼と安定した売上を支えている。
価格据え置きを宣言したキーンは、ケンタッキー州に新工場を設け米国製造比率を倍増させる。
中国生産ゼロとサプライチェーンの多様化により、関税の影響を最小限に抑えている。
理念主導の判断と顧客との誠実な向き合いが、ブランドの信頼と安定した売上を支えている。
作業用ブーツで知られるフットウェアブランドのキーン(Keen)が、進行中の貿易戦争のなか、米国での製造体制を強化している。
2003年に設立されたキーンは、世界各地で製造を行っている。4月以降、米国外からの輸入品には一律10%の関税を支払っているが、同社にとって救いなのは、自社生産比率が33%にのぼる点だ。つまり、3足に1足は米国、ドミニカ共和国、タイにある自社工場で生産されている。「この体制が、我々に希少なレベルのコントロール力を与えている」と、COOのハリ・ペルマル氏はModern Retailに語っている。残りの66%はカンボジア、ベトナム、インドの提携工場で製造されている。
現在、キーンの生産量のうち約5%が米国内、主に作業用ブーツに特化した製品である。新工場の開設により、この比率を9%に引き上げることを目指している。なお、本社は引き続きポートランドに置かれ、製品価格は据え置かれる。キーンは5月6日、2025年末まで価格を上げないことを顧客および取引先に通知するメールを送付した。「価格を維持することで、消費者との強い関係性を保ち、キーンに期待されている価値と品質を今後も提供していきたい」とそのメールには記されている。
Modern Retailのインタビューで、ペルマル氏は新工場開設の背景、関税への対応、顧客との向き合い方について語った。以下はインタビュー内容をもとに、編集・構成したものだ。
──なぜ今、新工場を開設するのか?なぜケンタッキー州を選んだのか?
我々は市場のプレッシャーへの反応としてではなく、10年以上前に始めた戦略の一環として、米国での製造拠点を拡大している。2010年にオレゴン州ポートランドに最初の工場を開設したとき、それは生産量ではなく、理念、距離、品質、責任に重きを置いた判断だった。今回はその基盤のうえに、ケンタッキー州シェパーズビルに新たな施設を建てる。
現在、我々の米国内生産は全体の約5%で、主に作業用ブーツ、つまりユーティリティ製品で構成されている。今後はこれに加えて、アウトドア製品や、将来的にはランニングカテゴリーにも広げていく予定だ。新工場稼働後は、米国売上の最大9%をカバーできるようになる。また、2日以内に地上輸送で全米の80%の消費者に届くという点で、物流面でも大きな強みがある。
これは単にロジスティクスの勝利ではなく、カーボンフットプリントの削減や運用の俊敏性向上にもつながる。この新工場は、同じくケンタッキー州にある流通センターの隣に位置しており、ポリウレタンの供給元やベンダーにも近くなる。さらに、ケンタッキー州には有能な労働力も存在する。ポートランドでも確保できないわけではないが、ケンタッキーには製造業の基盤があり、倉庫スペースも豊富で、作業員の数も多い。すべての条件が、我々にとってより良い環境となっている。
──2025年末まで価格を上げないと宣言できた自信の根拠は?
それは我々の理念に根差している。20年以上前、アジアで津波が発生した際、我々はマーケティング予算100万ドル(当時のレートで約1億円)を全額寄付した。COVID-19のパンデミックが始まったときには、小売業者に対し、「支払いが難しければ最後で構わない」と伝えた。そして、コンテナ輸送費が高騰したのちに正常化して価格が下がった際にも、多くのブランドが高値を維持するなか、我々は価格を引き下げることを小売業者に伝えた。つまり、今回が初めてではない。我々は非上場で、理念主導の企業であるがゆえに、こうした判断が可能なのだ。
──米国外での関税が続くなか、どうやって価格維持が可能なのか?
現在、中国には一切の生産拠点を持っていない。それがまず有利に働いている。ただし、その他の製造国に対しても、一律10%の関税がかかっている。ではどう吸収しているのか?それは上流工程での効率性にある。つまり、製造工場が一部コストを負担し、1次サプライヤーが原材料コストの一部を吸収し、さらに2次サプライヤーがその一部を引き受ける。我々は長年にわたって築いてきた長期的なパートナーシップがあるため、こうしたコストをサプライチェーン上流で分担できるのだ。これはすべて、準備、パートナーシップ、そしてコントロールの賜物である。多様化されたサプライチェーンを構築してきたからこそ、選択肢と交渉力がある。
──価格据え置きの発表後、顧客の反応は? 売上は伸びているか?
キーンのSNSアカウントを見れば、我々の姿勢がいかに喜ばれているかがわかるだろう。正直なところ、多くの不安が渦巻いていた。関税が上がる前に買っておこうという動きがあり、3月には小売売上が急増した。だがキーンは、その波に乗らずに踏みとどまった。他ブランドが撤退するなか、我々のビジネスは安定している。これは売上やシェアを伸ばそうという目的ではなく、むしろ「キーンはちゃんと向き合ってくれる」という評価が結果としてもたらされているのかもしれない。
──2025年の消費者心理について、どのように見ているか?
今年に入って、消費者は価格に非常に敏感になっており、購入において価値を重視する傾向が強まっている。関税への不安定さもその一因だ。アリックス・パートナーズ(Alix Partners)の調査によると、消費者の約8割(78%)が価格を理由にフットウェアの購入を断念し、約半数が生活必需品を優先しているという。我々もその変化を肌で感じている。米国製を含む定価商品に需要が集中しており、サプライチェーンを多様化させた判断がコスト抑制につながり、それを価格転嫁せずに済ませている。
[原文:Shein cuts prices amid temporary US-China tariff relief]
Julia Waldow(翻訳・編集:戸田美子)
