勝ち続けるアパレルは知っている--ファストリ出身者が明かす PL経営 4つの本質
本記事は、在庫分析サービス「FULL KAITEN」を運営するフルカイテン株式会社のプロダクトマーケティング部 部長の矢田陽平氏の寄稿です。<目次> PL経営を実践するための前提知識 儲かる企業のキーワード「先手でアクション」 勝てる企業の4つのアプローチ PLを軸にした全員経営の好循環へ そこにあるのは1店舗1店舗、一つひとつの商品
PL経営を実践するための前提知識
はじめに、PL経営実践の前提となる「在庫と利益の関係性」についてお話しします。恥ずかしながら、私はある役職に就くまではPLについてほぼ考えたことがありませんでした。特に店長やSVを担当していた頃は売上至上主義で、売上予算の達成と与えられている経費を予算内に収めることがすべてだと考えていました。その後、海外に赴任し営業・教育責任者として数値責任を追い、厳しい環境下で数年間経営の上流で商売を経験しました。海外赴任時の上司の問いが私の思考をPL経営へ導いてくれました。【上司からの問い】・企業は存続してこそ価値がある。何のために経営しているのか? PLを見て商売をしているのか?・企業のゴールとは、ズバリ「儲けること(利益を出して存続すること)」そこから本気でPL=「儲ける」に関して真剣に考えるようになりました。儲けないと事業が存続できないという環境が、より儲けることに対しての執着を強くするきっかけとなりました。経営においては、当然、ミッション、ビジョン、バリューの達成も非常に大事ですが、一義的には利益を出すことがもっとも大事だと考えています。以下では、私がPLを軸にして儲けるということを考える時に、口酸っぱく教育されてきたことや私自身が仲間に伝えていたことをもお話しします。まず、儲ける上で重要なのは「在庫」と利益の関係性を理解することです。儲けることを考える上で、「在庫」という存在は切っても切り離せません。一般的な小売ビジネスでは、商品を仕入れ、原価に値入れ価格をのせて販売します。
在庫と売上の関係性を表した図

在庫と粗利の関係性を表した図
もっとも重要なのは、在庫と営業利益の関係性です。一概には言えませんが、下図は在庫の仕入れが少ない方が最終的に残る営業利益が大きくなる傾向があることを表しています。
在庫と営業利益の関係性を表した図
在庫の仕入れが少ない方が最終的な営業利益が残る理由は、在庫量に比例してコスト(販管費)が大きくなるからです。コスト(販管費)というのは、人件費、保管費、物流費などです。コロナ渦の決算を見ると、仕入れを抑制した企業は営業利益が回復しています。このことからも、在庫とコストの関係性が一定理解できるのではないでしょうか。つまり、売上粗利を最大化するために多くの在庫を抱えても、計画どおりに売れないと粗利を大きく毀損し、かつ販管費増ともなるため利益が残らないということです。多くの企業さまを支援していても感じることですが、「欠品には敏感、一方で過剰在庫への感度は低い」というのも大きな課題だと思っています。私も例に漏れず同じ意識で商売を実践していました。ファーストリテイリングは定番商品も多いため、多くの社員が欠品を防ぐことに対して強い意識を持っていました。しかし、経営全体のリスクを考えると過剰在庫の経営インパクトが非常に大きいにも関わらず、なかなかアンテナが立っていないケースが多いのが実情でした。欠品と余剰はどちらも重要な視点なため、単純な二項対立ではありませんが、過剰在庫になると多くの悪循環に陥ってしまうことも念頭に置いていただければと思います。儲かる企業のキーワード「先手でアクション」
小売業ではトレンドの変化が大きく、 売れるタイミングは一瞬です。そのタイミングを逃さないように先手を打つことが重要です。ここからは、ファーストリテイリング時代にPL経営を実践する中で学んだ概念をご紹介します。商売は水物。迷ったらアクション
私が上司からよく言われていたキャッチフレーズ「迷ったらアクション!」ですが、最初はその言葉を深く解釈することなく、言われるがままに行動していました。ですが、徐々に言葉の「行間」が掴めるようになり、早い意思決定による成果実感(利益寄与)も感じるようになりました。小売業では発注、プロパー販売、倉庫出荷、店間移動、売価変更などさまざまなアクションがありますが、下図では一般的なアクション実施時期よりもタイミングを早めていることを感じ取っていただきたいです。結論から言うと、利益観点でいえば、早い意思決定、アクションが最終利益を最大化することに大きく寄与します。以下アクションごとの一例を紹介します。
早期の意思決定で売れる時期のアクションを表した図
儲かる売価変更とは?
売価変更での消化が必要な場合、1回の値引きで最終消化できることがもっとも効率的かつ効果的です。最初の値引きを、「どのタイミング(実施時期)」で「いくらにするのか(価格設定)」が極めて重要となります(値引きに関して、各社様々な制約条件があると思いますが、以下理論上儲かるアプローチを記載します)。多くの企業様を支援していると、販売ピークが過ぎ去った時期(期末)に値引きをするケースが多いですが、これは利益の毀損に繋がります。商品の売れる時期を逃した値引きは、いくら値引きを深めても売れず、売れないから深い値引きを繰り返すという悪循環に陥りやすいです。一方、売れる時期の値引きは浅い値引きでも販売数が大きく伸長し、浅い値引きで最終消化が可能になります。
<売価変更>の好循環と悪循環を表した図
儲かる店間移動とは?
店間移動も期末の値引き後に実施する企業さまが非常に多いです。値引き同様、売れる時期を過ぎた後始末では、コスト(物流、店舗作業、本部作業など)をかけて移動したのに売れず、儲かりません。一方、売れる時期(値引き前)の移動は当然売れやすく、かつ商品単価も高いため、儲かります。
<店間移動>の好循環と悪循環
儲かるプロパー施策とは?
儲かる企業は「仕入れた在庫を仕入れた価格で、最適な売り方で、可能な限り自店消化」します。特にチェーンストアでは店別・商品別の販売動向が全社へシームレスに共有され、現場で最適な売り方を早く見つけ、軌道修正・実行できるかが勝敗を分けます。しかし、実態は店別の販売動向が可視化されておらず、最適な売り方を発見し、実行できず、一足飛ばしに店間移動や売価変更の意思決定をするケースが多いです。他店の販売動向やベストプラクティスがスピーディに全社展開される仕組みが整っており、最適な実行ができていると、後始末の値引きや店間移動などの最小化にもつながります。
<プロパー販売>の好循環と悪循環を表した図
商売効率を向上させるには商売トレンドの「平準化」がマスト
商売効率最大化の観点では、季節商材などを扱っている小売業では繁閑差が大きいです。この繁閑差が大きいと言うのは、商売効率の観点ではよくありません。瞬間的な客数増や在庫増は多くのコストを発生させ商売の難易度を大きく上げるためです。イベント(マーケティング施策)や値引きなどの突発的な集客に頼らざるを得ない事情が存在するのは百も承知です。しかし、鮮度の高いプロパー商売ニュースによる繁閑差最小化は商売効率最大化の観点でぜひめざしたい点です。
繁閑差が少ない商売が理想であることを示した図
勝てる企業の4つのアプローチ
ここからは、ファーストリテイリング時代に事業経営でどのような改革を行ったのかお話しします。スリムドカン、One to Many、売場改革、3つの0という4つのキーワードをスローガンにしていました。1.スリムドカン
品番を大きく絞り込み(スリム)、一品番数あたりの在庫量を増やす(ドカン)という話です。小売業として、品番数削減はタブーのひとつであり非常にリスクが高い意思決定です。品番数を増やすと、当然顧客がほしい商品のヒット率は高くなります。一方、品番数の減少はその逆で客離れや売上減のリスクがつきものです。しかし、顧客がほしい商品のヒット率を担保する前提で前者の意思決定をしました。また、品番は絞りましたが、サイズとカラーの幅はより広くとり、在庫高は前年比で80〜90%ほど抑制しました。加えて、一品番あたりの在庫増は販売機会の最大化や仕入れコストの低減の観点でも、一品番あたりの粗利増に繋がります。売上を最大化させる商品ではなく、儲かる商品を「10大商品」として意図的に開発し、全社員で「売るぞ!」という共通認識を創りました。
スリムドカンのイメージを表した図
2.One to Many
前述したとおり、スリムドカンで品番を絞るのはリスクがつきもので、買上率や来店客も減少する可能性を懸念する方も多いと思います。これらのリスクを回避するには、顧客を飽きさせず、品番は減ったのに欲しい商品がいつもあるような演出や、鮮度の高いニュース発信が生命線です。欲しい商品がいつもあるような演出をするアプローチとしてOne to Manyの概念が登場します。これは、ひとつの商品に対して、トータルコーディネートやライフスタイルの提案などさまざまな方法を用いる手法です。ひとつの商品(特に10大商品)に対し、年間、半期、四半期毎に戦略的な商売ニュースを立案します。ここで新色が非常に効果的に作用します。新商品ではなく、新色を軸に鮮度の高いニュース発信と売場開発をしました。特にマーケティングやVMDとの連携が重要となります。
3.売場改革
前述した、One to Many(トータルコーディネートやライフスタイル提案)を実現するためのひとつとして、売場改革を行いました。まず、スリムドカンで在庫を大きく圧縮しているため、店舗の什器構成(売場の箱サイズ)を見直す必要があります。出店段階の売場什器配置の整合性が合わなくなるため、コストをかけ、このタイミングで思い切って什器撤去・差し替えなどの売場改革を断行しました。従来は、高層什器で多くの商品を積み上げる陳列をしていましたが、低層什器に変更し奥行きが見えるように改良しました。売り場の導線もすべての店舗で0から設計し、その店舗で見せるべきトータルコーディネートやライフスタイル提案ができるように改革しました。
4.3つの0
バックルーム0在庫を大幅に削減したので、店舗オペレーションの大改革(販売員は店頭へ)を実施し、人時生産性を向上させる一大プロジェクトに取り組みました。在庫削減を店別でシミュレーションした結果、繁忙期でもバックヤードの在庫0を実現できると分かり、毎週の日曜最終時点でバックルーム在庫0(すべての商品が売場に)の方針を掲げました(RFIDの電子タグ導入により、バックルームと店頭にある在庫数も本部でモニタリングが可能)。バックルーム0というのは見ればわかるので、店舗に方針を浸透させる上で、非常に単純明快で筋のいい方針だと実感しました。3つの0のなかでこの方針が全社をドライブする上でもっとも効果的だったと感じます。投入可能欠品0店頭の在庫量を前年比80〜90%にしているため、構造上欠品が発生しやすいです。そこで在庫量を減らしても欠品が発生していないかをモニタリングするために「投入可能欠品0」という指標を商品部(特にディストリビューター)の重要KPIに設定しました(倉庫に在庫があるにもかかわらず店舗への出荷漏れが発生していないかを確認する指標)。営業時間外0店舗の販売員が店頭業務に集中できる時間を最大化し、理想的な働き方を実現するため、営業時間外の勤務を最小化しました。これまでは、多くの在庫が入荷してしまうため、営業時間外に多くの人員を手配し、営業時間外で多くの作業を実施していました。これを最小化する意図です。在庫の大幅削減を皮切りに、店舗のオペレーション改革を数年続け、改善に向かいました。大事なことは「管理」ではなく、定量目標に対して「ゲーム性」を持たせながら、健全な競争原理を働かせることです。また、本部と店舗の垣根なく同様の目標をめざすことも重要な要素です。
PLを軸にした全員経営の好循環へ
経営の戦略が最も集約されているのはPL予算(全社計画)です。各部門長を中心に売上予算だけではなく、PL予算組のストーリーを全社員へ詳細に浸透させることにも注力しました。
PL予算を中心としたチームの有機的な繋がりを表した図

全店舗を黒字にするための個店特性に合わせたPL戦略立案
店長は自店のPL戦略を作成するだけではなく、毎月のPL報告会で経営陣に発表する場を設けました。この場は単なる進捗共有ではなく、自店の商品構成や倉庫からの出荷数量など、店長が自店目標を達成するための問題点を経営陣にプレゼンし、その場で本部が改善に動くというものです。現場課題解決のために経営陣・本部社員みんなが本気で知恵を絞りました。そこにあるのは1店舗1店舗、一つひとつの商品
この寄稿でもっともお伝えしたい箇所です。私はファーストリテイリングで「全社という実態はない、そこにあるのは1店舗1店舗、一つひとつの商品」ということを教わりました。商売をしていると特に本部社員は全社という数値のみに精通し、それを元に意思決定・実行しがちです。ただし、全社という実態などは存在しません。現場、現物、現実で、個店で発生している問題をきちんと見にいく。次に、この個店の問題は全社的にも発生しているのではないか? と抽象度をあげて思考をめぐらす。商売は全社からの逆算ではなく、積み上げで考える必要がある。これは私自身が今でも大事にしている考え方です。加えて、店長、スタッフ、本部社員が個人と個人で繋がることも重要視してきました。我々は人なので、何か伝えるにも、相手の顔が見えているかで心の障壁が大きく変わります。組織が大きくなると、本部と店舗の壁が次第に大きくなり(顔が全く見えなくなり)現場の実態がどんどん見えなくなります。そこで、お店ごとに担当本部社員を任命し、定期的に店舗へ足を運び、店舗で仕事をしてもらうようにしました。大事なことは、本部社員は現場に最大限のリスペクトを払うということです。上記のように思ったエピソードを紹介します。私が海外に赴任した際、当時の海外事業のCEOが全社課題を売場で確認する「売場確認会」というものを店舗で開催していました。そこでの光景が私には忘れられないものでした。CEOや本部社員がその店舗に到着するなり、店舗のスタッフや店長は本部社員が来るのを楽しみにしていて、「あれを言いたい」「これを言いたい」と沢山のフィードバックを本部社員に話していました。本部の方のコミュニケーションをみると、所作・発言すべてから店舗へのリスペクトが汲みとれるものでした。また、入店するや否や店舗で一緒に開店作業をしながら店舗業務を通じて、一緒に汗を流し「アレもコレも教えてください」とコミュニケーションをとっているのです。この光景を見た時に、私は心を揺さぶられ、すぐに行動を改めるべきだと強く思いました。実際、このような文化風土が根づいている事業は業績もよく、顧客満足を最大化できています。これが「あるべき商売だ」と確信めいたものに変わりました。
個店経営から全員経営の好循環を表した図
また、店長、スタッフを中心(主役)にした土壌(文化・風土)があると、スタッフからの声が多く集まります。これらは会社の非常に重要なアセットです。特に商品開発の観点では、定量データだけでなく、顧客の最前線にいる現場の声(定性情報)が極めて重要です。前述したスリムドカンを実現するためには、商品企画が生命線になるため、このような風土・文化情勢は商品のヒット率を上げる上でも大きく寄与しました。また、企画した商品は計画通りに売れないケースが多いです。販売進捗を把握しながら、現場で「売り込む(販売)」必要があります。この「売り込む(販売)」力を軽視してはいけません。現場の力はすごいのです。現場の力を最大化させるためには、意思を持って主体的に売り込んでもらう必要があります。この点において、我々の意見が反映されて企画された商品には否が応でも売り込む力学が働き、現場の販売力を最大化させる点でも大きく寄与しました。
実商売では販売が最も重要であることを示した図
ここまでの記述も含め、最後に伝えたいことです。経営とは実行してこそ価値があります。小売業の唯一の収益源は店舗で、いかに店舗のスタッフ・店長の主体的な実行を引き出すかが重要なポイントになります。そのためには、店舗が小さな成功体験を実感できるようなデザインが必要です。会社として、店舗に最大限のリスペクトを払い、成功体験のデザインにアンテナを張ることや、成功体験を決して見逃さず、会社の価値あるアセットとしてフォーカスすること。これらが、変化の大きい小売業が生き残る術だと考えています。矢田陽平(やた・ようへい)フルカイテン プロダクトマーケティング部 部長株式会社ファーストリテイリングに入社。ジーユー日本事業で店長やSVを経験した後に、海外(中国・台湾)で営業・教育責任者として、全店舗の統括、採用・育成プログラムやインシーズンの商売立案を担当。その後、HR-Techスタートアップでカスタマーサクセスを経験しフルカイテンに入社。カスタマーサクセスチームのリーダーとして多くの顧客支援に従事し、現在はプロダクトマーケティング部部長として新規サービス企画開発や市場拡大に従事。
