インベントリー(在庫)管理に悩む成長中の D2C ブランドは、どのようにベンダーを活用しているか?

記事のポイント
成長に伴い手作業での在庫管理が限界を迎え、予測精度が困難になる。
手頃な価格の在庫管理ツールが登場し、AI活用でリアルタイム予測が可能に。
データ共有の不透明さやツール未対応が課題で、小規模ブランドの完全自動化は難しい。
成長に伴い手作業での在庫管理が限界を迎え、予測精度が困難になる。
手頃な価格の在庫管理ツールが登場し、AI活用でリアルタイム予測が可能に。
データ共有の不透明さやツール未対応が課題で、小規模ブランドの完全自動化は難しい。
D2Cブランドが成長し、卸売業に参入するとその多くが、インベントリー(在庫)を正確に予測することがどんどん困難になることに気づく。
しかし、マーケットプレイスや実店舗のパートナーなどのチャネルが増えるにしたがい、インベントリー管理を手作業で正確に行うことが難しくなるという。
インベントリー管理システムの構築
ネットスイート(Netsuite)やエスエーピー(SAP)などの大手エンタープライズソフトウェアプロバイダーは、初期段階のスタートアップにとっては高価で、ブランドの規模にそぐわない余計なオプションが付いていることが多い。一部のブランドは、高価なソフトウェアが必要になるほど大きくなるまではゼロから構築したインベントリー管理モデルを使い続けると述べている。
しかしこの数年間、まだ1億ドル(約152億3000万円)の収益目標をかかげる規模であるD2Cブランドを対象に、より優れたインベントリー管理システムの構築を支援しようとする多くのB2Bスタートアップが現れてきている。
このようなベンダーのひとつが、2020年に設立されたトロントに拠点を置くモーゼル(Moeselle)で、初期段階のD2CおよびCPGブランドに自動インベントリー管理を提供している。同社は10月に、チームの拡大とツール構築の継続を目的とする210万カナダドル(約2億2600万円)のシードラウンドをクローズした。モーゼルのプログラムは、カバンメーカーのモノス(Monos)や、ビューティーブランドのエバリスト(Everist)やサハジャン(Sahajan)などのD2Cブランドで使われている。
モーゼルの創業者でCEOのラクビア・ジャイ氏は、効率的かつ収益性の高い方法でインベントリー(在庫)を管理するのに苦労していた小規模ブランドと仕事をしたことで、同社の構想が生まれたと語った。「当社はブランドの予測計画とインベントリー補充を支援するインベントリー自動操縦装置のようなものだと考えている」と同氏はいう。
モーゼルは、ブランドがインベントリーの仕入を計画し、毎日の販売データ入力による変更に基づいてリアルタイム予測を生成できる独自のAI搭載モデルを提供している。ブランドは、モーゼルをShopifyやAmazonストアのほか、独自のサードパーティロジスティクスと同期させて、このような作業を行うことができる。
大手のSaaSの多くは中規模から大規模の企業を対象としており、利用には数千ドル(数十万円)かかる。「当社は小規模な新興ブランドと協力し、市場に対して非常に慎重なボトムアップアプローチを取っている」とジャイ氏は述べた。同様のサービスを提供するモーゼルの競合他社には、コグシー(Cogsy)、セントロ(Centro)、シロップテック(Syrup Tech)などがあり、どれも起業して4年以内だ。モーゼルの料金は、D2Cブランドの場合月額250ドル(約3万8000円)からで、ブランドの二次チャネルの数が増えるほどカスタマイズ料金が上がる。
信頼できる過去のデータの正確性を確保
これまでのところ、新興のeコマースブランドからの需要は増加しており、モーゼルのクライアント数は2023年から2024年で2倍になった。同社が最近のシードラウンドで得た資金は、より多くのエンジニアを雇用し、より多くのパッケージ商品ブランドやアパレルブランドに役立つような、原材料調達などインベントリー計画の側面をサプライチェーン全体で管理できる新しいきめ細かいツールを構築するために使われる。
2021年のはじめに起業したヘアケアブランドのエバリストは現在、より大きな予測戦略の一環としてモーゼルをテストしている。エバリストの共同創業者のジェシカ・スティーブンソン氏は米モダンリテールに、「業務を改善し、変化するビジネスのニーズに合わせて柔軟に動ける方法を求めて、常に新しいツールに目を向けている」と語った。「現在直面している最大の課題は、成長するなかで信頼できる過去のデータの正確性を確保することだと考えている」。
スティーブンソン氏は法人向けビューティー業界出身で、この業界ではエスエーピーやネットスイートなどの予測ソフトウェアが使われているが、多くのスタートアップは自社の現状にもっと合ったシステムを必要としているという。「当社では、新しいツールやAIを追加する前にまず手作業によるプロセスを作成し、どのように機能するかを確認するというやり方をしてきた」と同氏は言う。
また、「現在は85%がD2Cだ」とスティーブンソン氏。しかし、同社は卸売業に参入するにあたり、正確な需要予測の基盤を築きたいと考えているようだ。D2Cに関しては、当初は週ごとおよび月ごとの売上データをエクセルのようなツールに手作業で入力するという方法で、年間2倍から3倍の成長に対応できていた。
スティーブンソン氏は「今年は9倍から10倍の成長を遂げたため、二次的なツールを導入してテストをしている」は述べた。同ブランドは、モーゼルのプログラムを自社のシステムと並行して動作させ、どのように機能するかを確認することにした。同氏によると、ビューティー業界には処方の変更やバンドルされたSKUなどインベントリーに関して細かい課題があり、これが複雑さを引き起こすことがあるという。そのほかにも、今後の在庫注文を計画する際に、手元にキャッシュフローを用意しておかなければならないという課題もある。
一方、「規模が大きくなるなかで、いくつかの小売パートナーを優先し、これらのパートナーがシームレスな体験を得られるようにしてきた」とスティーブンソン氏は付け加える。つまり、エバリストのD2Cサイトでは一時的に在庫切れになる商品があり、いつ在庫が補充されるかについて顧客の期待に応えなければならない。「卸売の予測は、通常はかなり前に立てておく」と同氏は言うが、ビューティー小売業者は数週間以内の出荷を期待しているため、難しい問題になる。
スタートアップにとって完璧なソリューションとは
今年のはじめにエバリストは、同社にとって初の大手小売パートナーとなる高級食料品店チェーンのホールフーズ(Whole Foods)の500店舗で販売を開始した。ホールフーズは同社の主要ディストリビューターであるUNFIと連携するようブランドに求めており、これによって複雑さがさらに増している。「小規模な取引先を管理するほうが、迅速な意思決定と緊密な連携が可能になるので簡単だ」とスティーブンソン氏は語った。
新たに加わる卸売パートナーごとに独自の習慣や複雑さがあるため、スタートアップにとって完璧なソリューションは存在しない。そのため、手作業によるソリューションを使い続けるスタートアップもある。
スキンケアスタートアップのヒューロン(Huron)でオペレーション担当シニアディレクターを務めるケイティ・ウィリアムズ氏は現在、同社のロジスティクス、配送、顧客体験を監督している。同氏の役割は、毎週および毎月の売上に基づいて需要を予測し、インベントリーレベルを管理することにある。ヒューロンの売上の約55%はAmazonから、45%は自社のD2Cウェブサイトからもたらされ、残りはジムと専門店からきている。
現在、ヒューロンのアプローチは完全に手作業によるプロセスだが、過去にはデジタルツールをいくつか試したこともある。「毎週最初にすることは、前週の売上とAmazonに転送する注文書をすべて取り込むことだ」とウィリアムズ氏は述べた。「すべてが、毎週更新するこの巨大なGoogleスプレッドシートに入っている」。
また、「現在の当社のSKUは25個だ」とウィリアムズ氏は言う。「しかし、これが65個になったら、今やっていることはどれも機能しなくなる」。
「結局のところ、ツールに求めるのは、手作業でできるすべての作業を多額の初期投資や時間をかけずにできるかどうかだ」と同氏は語った。現在までにヒューロンが検討したインベントリー管理ツールはすべて、大規模なeコマース企業向けに構築されていた。「これらのツールは、我々のような小規模なブランドの成長と拡大を支援しようと追いかけてくるが、今のニーズには合っていない」とウィリアムズ氏は述べている。
同氏は、商品原価管理に関してはマンドレル(Mandrel)というサードパーティベンダーの力を借りている。「エクセルシートをすべて集めてプラットフォーム上でシステム化してくれるため、本当に助かっている」という。それでも、ヒューロンの製品ラインが拡大し、より大きな卸売パートナーと契約するようになれば、何らかの自動化プロバイダーが必要になるだろうとウィリアムズ氏は述べた。
インベントリーデータの共有
予測に関しては、より高度なモデルが構築されても、リソースの少ない小規模ブランドの前に立ちはだかる関門がある。大きな課題は、多くの小売業者、特に大手チェーンが、モーゼルのようなシステムにフィードできるリアルタイムのインベントリーデータを共有したがらないことだ。「これは、我々にとっても課題だ」とジャイ氏は述べた。「もっと時間をかけて小売業者と良好な関係を築きたいが、同時に不公正な行為には声を上げていきたい」。
エバリストのスティーブンソン氏は、パートナーから提供される情報に不透明性があると、計画の精度に大きな影響が出る可能性があると述べた。「これまで、多くの小売業者が完全な売上データを共有してこなかったため、ギャップがあったと思う」と同氏は言う。
ブランドが小売業者のパートナーを増やせば、機械学習と自動化ツールへの投資が必要になる。それでも、ウィリアムズ氏は「インベントリー管理の大きな柱になるのは、特に小規模ブランドでは、100%の精度を実現することは決してできないと理解することだと思う」と述べている。
[原文:DTC Briefing: How scaling brands are tackling inventory management]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:島田涼平)
