佐藤健の「熱望」でNetflix実写化も…「あの少女小説」の作者が今アツい…!

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なつかしの少女小説ブームが再来…!

1980年代から90年代にかけて、女子中高生読者を中心に大きな市場を築いた少女小説。集英社のコバルト文庫や、講談社のティーンズハートなどに代表される少女小説レーベルからはヒット作が多数生まれ、若年層の熱烈な支持を受けた。

そんな懐かしの少女小説が令和のいま、にわかに注目を集めている。往年の名作のコミカライズやドラマ化、あるいは傑作シリーズの復刊などが相次いで発表され、少女小説最盛期の作品群にあらためて脚光が当たる機運が生まれつつあるのだ。

例えば近年、各所で特集や企画展示が組まれるなど再評価が進んでいるのが、往時の少女小説を代表する作家・氷室冴子である。彼女の伝説的な古代ファンタジー『銀の海 金の大地』は、2025年1月から集英社オレンジ文庫での順次復刊が決まり、大きな話題を呼んだ。スタジオジブリで映画化された『海がきこえる』のように広く耳目を集める作品なども含め、氷室作品への見直しが大きく進みつつある。

あるいは小説家・津原泰水が津原やすみ名義で少女小説作家として活躍していた時代の全作品も今秋、電子書籍での復刊がスタート。入手困難で価格も高騰していた『あたしのエイリアン』シリーズをはじめとする作品群が、現代の読者に向けて蘇ることになった。

佐藤健の熱望により実現した『グラスハート』実写化

これら少女小説に関するニュースの中でも、とりわけ激震が走ったのが今年2月、若木未生の小説『グラスハート』がNetflix製作で実写ドラマ化されるという発表だった。佐藤健、宮崎優、町田啓太、志尊淳、菅田将暉といった錚々たる顔ぶれがキャスティングされ、主演の佐藤健自身が共同エグゼクティブプロデューサーにも名を連ねるという、渾身の企画だ。

『グラスハート』は1993年にスタートし、コバルト文庫から幻冬舎バーズノベルスに移籍して2009年に完結したシリーズである。「女だから」という理不尽な理由でバンドをクビになった西条朱音は、「ロック界のアマデウス」と呼ばれる天才ミュージシャンの藤谷直季にスカウトされ、彼が結成したバンド「テン・ブランク」に加入した。実力派ギタリストの高岡尚、複雑な家庭の事情を抱えたキーボードの坂本一至、そして鬼才の藤谷ら個性豊かなメンバーの中で、朱音は持ち前のセンスとガッツを発揮し、必死に食らいついていく。そんな朱音の成長と、音楽をめぐって起こるさまざまな衝突や葛藤、さらにはバンドを取り巻く複雑な人間模様を綴る青春音楽小説だ。

佐藤が本作について語る、「グラスハートとは20代前半の時に出会いました。それから今日までたくさんの漫画や小説を読んできましたが、ぼくにとってグラスハートの登場人物たち以上に魅力的なキャラクターに出会うことはありませんでした」という言葉からも、作品への強い思い入れが伺えるだろう。大好きな登場人物・藤谷直季を演じるために一役者にとどまらず、プロジェクトに深く参画するほどの“『グラスハート』ガチ勢”である佐藤を筆頭に、豪華キャストとスタッフで制作されるドラマは2025年の注目作となるのは間違いない。

若木未生作品に関するビックニュースは、『グラスハート』の実写ドラマ化だけでは終わらなかった。このニュースの熱も冷めやらぬうちに、彼女の代表作であり、32年の時を経て2021年に完結した学園サイキックファンタジー小説『ハイスクール・オーラバスター』(以下『オーラバ』と記す)の新コミカライズ企画も告知され、「今は本当に令和なのか?」とファンたちを驚かせた。コミカライズを手掛けるのは佐々木柚奈+可で、タイトルは『ハイスクール・オーラバスター・エンゲイジ』。小学館の「フラコミlike!」で5月からスタートし、現在も連載は継続中である。

『オーラバ』まさかの再漫画化

佐藤健の熱意によって『グラスハート』の実写化が実現したように、『オーラバ』の新コミカライズが始動したのも、“オーラバ古参”を自認する佐々木柚奈の存在があったからだろう。若木はXで、佐々木柚奈と初めて会った時から彼女が『オーラバ』を漫画化したいと公言していたエピソードを紹介し、全力で夢を叶えた佐々木に熱いエールを送ってみせた。

一方の佐々木も、もともとオーラバオフ会に参加するほどの“ガチオタ”であった。そんな佐々木はX上で、『オーラバ』のワンエピソードではなく、第1作『天使はうまく踊れない』から最終巻の『最果てに訣す』までを漫画化する気満々だと公言する。30巻弱にもおよぶ長編シリーズを、フルでコミカライズしたいと意気込む姿からも、並々ならぬ“『オーラバ』愛”が伝わるだろう。

ここであらためて、『オーラバ』のストーリーを確認しておきたい。主人公の崎谷亮介は、見えるはずのないものが見えるという厄介な力を持つ高校生。彼は自分の能力を隠し、他人とも距離を取りながら孤独に生きていた。そんな亮介の前に、水沢諒という謎めいた転校生が現れたことで日常が一変する。

太古より、人間の心の闇に取り憑く〈妖の者〉と、〈妖の者〉を退治する力をもつ〈空の者〉は戦いを続けてきた。この戦いに巻き込まれた亮介は、妖力や術力を消し去る中和能力者であることが判明する。水沢諒をはじめ、七木冴子、里見十九郎、和泉希沙良ら亮介の前に現れた高校生たちは、〈妖の者〉と戦う異能を持つ術者だった。彼らに指示を出しているのが、術者を輩出する斎伽一族の若き長であり、〈空の者〉総帥・伽羅王をその身に宿す斎伽忍。初めて仲間を得た亮介は、彼らとともに〈妖の者〉との戦いに身を投じていく――。

多彩なキャラクターと、壮大なスケールで展開されるストーリーが魅力の『オーラバ』。高校生術者が活躍するサイキック・アクション小説であり、少年少女が悩み葛藤をしながら成長を遂げる青春小説という一面も持つ本作は、少女たちを虜にして爆発的な人気を得た。『オーラバ』はさまざまなメディアミックスが行われたことでも知られており、コミカライズやOVA、ドラマCDやイメージアルバムなども多数制作されている。

若木未生の快進撃が止まらない…!

また、『オーラバ』を語るうえで、挿絵の変遷も重要なエレメントといえよう。初代の挿絵担当が杜真琴、その後を引き継いだ高河ゆん、シリーズが徳間書店に移籍したのちは東冬と、時期によってタッグを組む描き手が移り変わっていく。初代の杜真琴はコミカライズ『ハイスクール・オーラバスター』と『オーラバスター・インテグラル』を手掛けたこともあって、『オーラバ』といえば彼女のヴィジュアルを思い浮かべる人は多いだろう。とはいえ、代々の挿絵担当それぞれの特徴・魅力があり、一口に『オーラバ』読者といっても、どの時期に作品に触れたかによって、イラストへの思い入れはまちまちである。それだけに、『オーラバ』のヴィジュアル面をあらためて担うことは容易ではないはずだ。

こうした状況の中で、新たなコミカライズに挑む佐々木からは、並々ならぬ覚悟がうかがえるし、シリーズファンとしては彼女の挑戦を心から応援したい。令和にスタートした新コミカライズ『ハイスクール・オーラバスター・エンゲイジ』は、オールドファンへの配慮も感じさせつつ、新規読者を取り込むためのさまざまな工夫がなされているのが特徴だ。その方針は、コミカライズの始まりに選ばれたストーリーからも読み取れる。

コミカライズの通例であれば、第1作『天使はうまく踊らない』からスタートするだろう。だが『ハイスクール・オーラバスター・エンゲイジ』は、シリーズでも屈指の人気キャラクターであり、従兄弟同士という強い絆で結ばれた里見十九郎と和泉希沙良にフォーカスした番外編の「見えざる玩具」から始まった。二人はともに〈妖の者〉と戦う術者であり、十九郎は結界を張る静の能力、希沙良は攻撃をする動の能力と対照的な力を持つ。シリーズの導入となる補完も的確に行いつつ、〈妖の者〉との激しいバトルや、十九郎と希沙良の密接で少しこじれた関係性を美麗な作画で魅せたことは、従来のオーラバファンのみならず、新たな読者への大きなアピールになったことだろう。「見えざる玩具」は無事完結し、本編の『天使はうまく踊れない』も幕を開けた。『オーラバ』を彩るキャラクターが勢揃いする本編から、コミカライズは一層加速していく。

その後も若木作品の快進撃は止まらず、7月からは朔田浩美による『グラスハート』の新コミカライズが『グラスハート 音楽は何処に?』というタイトルで、「comicブースト」で始まった。多くの人々を熱狂させてきた若木未生作品が、令和を迎えて再注目され、新たな展開をみせているのはなんとも喜ばしい。これはまた、若木作品のみならず、少女小説というジャンルへの追い風でもあると感じている。少女小説とは、たくさんの名作が眠る鉱脈である。その鉱脈の存在に、一人でも多くの人が気づいてくれることを願ってやまない。

エンジェル・ハント、ここはグリーン・ウッド、プライベートアイズ…平成の少女漫画いくつ知ってますか?