制作費はわずか200万円…制作会社&タレントの地上波離れで進む「キー局頂点のヒエラルキー」の崩壊

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「フジテレビもとうとう、ここまで来たか……」

そう嘆くのは、テレビ番組制作会社のバラエティー番組担当プロデューサーのA氏である。旧知のフジテレビ局員から深夜番組の企画募集があり、制作費の予算を聞いて愕然としたのだという。

「なんと、200万円だというんですよ。正気の沙汰とは思えない……」

読者諸兄はピンと来ないかもしれないが、テレビマンならこれが“価格破壊”と言っていいレベルの金額だとわかるという。出演するタレントやメイク、スタイリスト、構成作家のギャラなどの人件費、セットや小道具代、ロケ車両代、弁当代、カメラ照明機材レンタル代、スタジオ使用料、編集費を200万円以内に収めて、利益もまかなえ、というのだ。

「1時間番組を作る際の制作費は、全盛期のフジテレビならプライムタイム(19〜23時)で5000万円、深夜帯でも1000万円はありました。それが……YouTuberのほうがよっぽどおカネをかけていますよ。200万円じゃ、ロクな番組が作れないことはわかってますけど、企画を出さないと仕事を振ってもらえなくなる。だからあえて、キー局が嫌いそうなコンプライアンス的に微妙な企画を出すことにします(笑)。だって企画が通っちゃったら、間違いなく赤字になりますから」(A氏)

昭和の時代から、日本のテレビ番組の多くが制作会社によって支えられてきた。企画の多くが制作会社発であり、現場に来る局員スタッフは数名、実務の大半を制作会社が担う――という構図がどの局にも見受けられた。だが、地上波テレビ局を頂点としたヒエラルキーがいま、崩壊しつつあるという。

バラエティーもドラマも、面白い企画はまずNetflixやAmazon、Disney+に持ち込むようになりましたね。外資系のプラットフォームは制作費を潤沢に出してくれるし、コンプライアンスにも寛容。同じ企画をキー局に持っていっても『予算がない』『コンプライアンス的に無理』と突き返されることが多いですから。

配信プラットフォームで企画が採用されるのは簡単なことではないけれど、通りさえすれば、地上波ではあり得ない二次利用の権利にも配慮した契約を結んでくれる。制作会社の多くが今、テレビより配信向けの企画を一生懸命考えていますよ」(A氏)

出演する側である、タレントたちの思考も変化しているという。

「若いタレント、とくに芸人は昔ほど地上波に執着していません。ぶっちゃけ、ギャラの問題です。テレビに出始めたばかりの若手芸人だと、収録で長時間拘束されてもギャラは多くて数万円。YouTubeなら、当たればその何十倍もの利益になりますからね。ほとんどの芸能事務所がタレントのYouTubeでの収益の取り分比率がテレビ出演のギャラより高い。100%タレントの取り分になる事務所もあるそうです。『鬼越トマホーク』や 去年の『M-1グランプリ』で優勝した『令和ロマン』など、地上波テレビの仕事は最優先じゃないと公言する芸人が増えています」(芸能プロ幹部)

新規の深夜番組の予算が200万円というのは事実なのか。その算定根拠は何なのか。フジテレビ広報部はフライデーデジタルの取材に

「制作の詳細はお答えしておりません。一般的に予算は番組の内容や長さにより様々ございます」

と回答した。A氏によると、フジテレビが制作費200万円で募集した深夜番組の企画テーマは「未来のプライムタイムでレギュラー化できる番組」だったというがーー地上波のいい“未来”はなかなか見えてこない。