ドゥンガインタビュー(3)


現在の日本代表について語るドゥンガ氏。photo by Fujita Masato

(1)◆ドゥンガが日本でプレーしていた当時、「いい選手だな」と思った3人は?>>

(2)◆ドゥンガが語る、ジュビロ磐田が再び躍進するために必要なこと>>

――ドゥンガさんは日本を離れている間も、日本代表を見ていたとのことですが、現在の日本代表については、どう感じていますか。

「昔のJリーグは(ハイレベルな外国人選手も多く)競争力があったけれど、日本代表はまだそれに追いついていなかった。でも、今は逆に日本代表がすごく競争力のあるチームになっている。

 ただ、今の日本代表に足りていないのはリーダーだ。多くの選手がヨーロッパに渡り、レベルが高いリーグや、そのなかでも強いクラブでプレーしているから、たくさんの経験がある。でも、それぞれのチームには優れたリーダーがいて、自分たちを引っ張ってくれているんだ。

 だから、その選手が日本代表に帰ってきた時には、自分がリーダーにならなければいけない。これが、ひとつ足りないところだね」

――リーダーというのは、その資質を持った選手でなければ務まらないものですか。

「リーダーには、ふたつタイプがある。ひとつは、生まれ持ってのリーダー気質の人。そしてもうひとつは、『こういうふうに練習に取り組まなきゃいけないんだよ』というように、ずっと自分がお手本を示し続けることで、みんながリーダーと認めてくれる人だ。

 それぞれが所属するいろんなクラブに、それぞれのリーダーがたくさんいるわけだから、その人たちを見て学び、日本代表に帰った時に自分の学んだことをやって見せることでリーダーは生まれるはずだ」

――それが、日本代表がもう一段階レベルアップするために必要なことだ、と。

「そのとおりだ。ただし、ひとりではなくて、2人、3人の強いリーダーが必要だ。

 試合のなかではリーダーが中心となって、『今はもっと攻撃的にいこう』とか、『今は少し落ちつかせよう』とか、そういうことを選手同士で話さなければいけない。ハーフタイムになって監督が指示を出すのを待っていたら、試合が終わってしまうし、その間に失点してしまうこともあるからね。だから、ピッチのなかの監督になれるようなリーダーが必要なんだ」

――現在日本代表を指揮する森保一監督も、ドゥンガさんが磐田でプレーしていた当時は、まだサンフレッチェ広島の現役選手でした。印象に残っていることはありますか。

「彼に限ったことではないけれど、あの頃の日本人選手全体に言えることとして、『なぜ、そこで集中力がきれてしまうのか』というのは感じていた。50mのロングパスはうまくコントロールするのに、2mのパスを簡単にミスしてしまう。それは、集中力の問題。日本人選手には全体的にそういう傾向があったね」

――当時と比べて、今の日本人選手はどうですか。

「もっとよくならなければいけない。たとえば、ロシア(2018年ワールドカップ)でのベルギー戦にしても、せっかく2−0で勝っていたのに、あそこで逆転負けしてしまうのは集中力の問題だ。

 2点をリードした時に、勢いに任せてサッカーをしてはいけない。『今は相手の攻撃に耐える時間だ』とか、そういう(試合の流れに応じた)メカニズムのなかでプレーしなければいけなかったんだ」

――とはいえ、ドゥンガさんもブラジル代表として出場していた1998年大会以来、日本代表は7大会連続でワールドカップに出場し、ベスト16にも3度進出しています。それなりに成長しているのではないですか。

「自分だけではなく、日本を知っているブラジル人選手はみんな、日本代表が今のようにワールドカップに出場して戦えると思っていたからね。むしろ自分は、グループリーグで敗退するとか、グループリーグを突破したら(すぐに決勝トーナメント1回戦で敗退して)終わるというのではなく、もっと上まで決勝トーナメントを勝ち上がっていけるようになると思っていたんだけれど......」

――まだ物足りない、と。

「日本は今、どこの国の代表と対戦してもいい試合ができるんだからね。ワールドカップに行けることに満足しちゃいけない。グループリーグを突破することに満足しちゃいけない。もっともっと上に行けるようになっていかなければいけない。いい試合をしているだけでは何も解決しないのだから、勝たなければいけないね」

――最後にドゥンガさんの近況についても聞かせてください。現在はブラジルで、どんな活動をされているのですか。

「自分で建設会社を持っているのと同時に、慈善活動にも力を入れている。その他にも講演会に呼ばれることが多くて、いかにチームをまとめるかという、リーダー論についての話をよく頼まれるよ」

――慈善活動とは、どんなことをしているのですか。

「子どもやお年寄りの施設に食料を配ったり、学校の施設を修繕したり、そのための寄付を集めるというようなことだね。あとは、ブラジルは保険の制度が日本と違うので、お金がなくて手術が受けられないとか、検査が受けられないという人たちのサポートもしているんだ。

 最近は自然災害も多いので、洪水で家をなくしたり、家財道具をなくしたりした人たちのために、家を建てたり、家具や洋服を届けたりということもしている」

――何か慈善活動を始めるきっかけがあったのですか。

「現役時代、イタリアやドイツでプレーしていた時に、そういう活動を見てきたし、日本にいた時も、自然災害で大きな被害が出ると日本のみんながお互いに助け合う精神を、自分も実際に見て学んできた。

 自分はサッカーによって多くのものを得たのだから、それを社会に還元したいなと思ったのがきっかけだね。ジュビロでプレーしていた時にも、日本でイベントを行ない、その収益をブラジルに送って、小児がんの専門病院のために使ってもらったりということをしていたよ」

――しばらくサッカーから離れていますが、もう監督をやるつもりはないのですか。

「そうだなあ......、今は4歳と1歳半の孫の面倒を見るのが大変だからな(笑)。でも、意欲がないわけではないから、興味が持てる話があれば、またぜひやってみたいね」

(おわり)

ドゥンガ
1963年10月31日生まれ。ブラジル出身。ブラジルの名門クラブでプレーしたあと、イタリア、ドイツのクラブで活躍。ブラジル代表でも奮闘し、1994年W杯ではキャプテンを務めてチームの優勝に貢献した。1995年夏、ジュビロ磐田入り。強いリーダーシップを発揮して、1997シーズンにはジュビロを初のリーグ王者へと導いた。引退後は、ブラジル代表監督など指導者として手腕を揮った。