社会人生活やこれまで出会った優秀なビジネスパーソンの分析から、「稼ぐ力」とは何かを紹介します(写真:takafoto/PIXTA)

「なんかスキルを身に付けなくちゃなぁ」「もっと給料上げたいけど、どんなスキルがあればいいのかなぁ」……。

テレビ番組「逃走中」「ヌメロン」などを企画したコンテンツプロデューサー、高瀬敦也さんの新刊『スキル』から一部抜粋。自身の社会人生活やこれまで出会った優秀なビジネスパーソンの分析から、今まで言語化されてこなかったスキルについて解説します。

「お金を稼ぐ力があれば苦労しないよ」と言われそうです。

ビジネスにおける結論的なスキルですよね。

私なんかより、比べ物にならないくらい稼ぐ力のある人はごまんといます。そういう人たちの話もたくさん聞いてきましたが、能力が高すぎたり特殊すぎたりして、実践しにくいことも多くありました。

しかし、そんな中途半端な私だからこそわかったことがあります。それをお話したいと思います。

成功者は稼ぐことに貪欲

稼ぐ力とは何か。結論から言えば、「お金を稼ごうとする意欲や貪欲な姿勢」です。

日本人のメンタリティには、「お金のことを話すのは下品」「お金にがめついのははしたない」など、お金にこだわったり、お金が欲しいという気持ちを公にすることをネガティブに感じる文化があります。

そういうメンタリティ自体は否定しませんし、私は奥ゆかしさや品性を重んじる日本人の性質は大好きです。

しかし、もう少し「稼ぐ」ということに欲を出して良いのではないかと思います。そもそも、「お金について公に下品に語る」ということと「お金を稼ぎたい気持ちを持つ」ということは別の話です。

成功者といわれる人に共通しているのは、「稼ぐことに貪欲」ということです。稼ぐこと、お金を生み出すことに対して意思があり、意欲的です。

一方で、多くの実業家や知識人が「お金は後からついてくる」といいます。私も最近、その意味が少しだけわかってきました。「お金は後からついてくる」というのは、「社会を良くするために働いたり、自分が楽しいと感じることをすることがお金を生む」という考え方です。

世の中のほとんどの人が「安全で、穏やかに、楽しく生活したい」と思っていますから、「社会を良くする」という考え方がビジネスとしても合理的なわけです。自己啓発本の類もこの文脈で語られることが多くありますよね。

しかし、理屈ではわかっても、少し浮世離れした考え方に「そうは言ってもなぁ」と感じている人も多いのではないかと思います。もしくは、大きなスケールでの考え方を実践できずに「うまくいかないな」と悩んでいる人もいるかもしれません。

それはむしろ自然な感覚です。実は「世のため人のため」を目的に事業をしている人も、その昔は「スモールビジネスで目先のお金を追っていた」人がほとんどです。

元手となるお金、いわゆる「種銭」ができてから、「世界平和や人類の未来」のことを自分事にできたり、自分の事業と接着できるようになっていくのです。

「商売」の楽しさを知る

では、改めて「稼ぐ力」をつけるにはどうすればよいのでしょうか。

まずは「稼ぐことに貪欲になること」そして「稼ぎ方を知ること」です。

お金を稼ぐ基本は「商売」です。「ビジネス」というと稼ぎ方も広いイメージになりすぎるので、「商売」という言葉でイメージを狭めて考えてみます。

商売の基本は「安く仕入れて高く売ること」です。いわゆる「せどり」とも言われます。もちろん「せどり」以外にも「新たな価値を創造して売る、使ってもらう」ということも商売ですし、そういう商売のほうが現代的な印象もあるかもしれません。

しかし、社会のお金の流れの多くは「安く仕入れたものを高く売る」という構造になっています。

しかも、近年はインターネットで誰とでもつながれますから、「せどり」で稼ぐことが以前に比べれば容易です。実際にメルカリなどのツールで、そうした副業をしている人も増えています。

実はこの「安く仕入れて高く売る」という稼ぎ方はとても現代的なのです。まずは何でもよいのでやってみてください。すると、まず「商売の楽しさ」がわかります。

「いくらかお金が手に入る」ということもそうですが、「売れたこと」が純粋に「うれしい」と感じます。そうなってくると、より売れるように工夫したくなります。さきほどのメルカリの例でいえば、魅力的な商品に見えるように写真の撮り方や載せ方を変えたり、説明文をわかりやすくしたり、キャッチコピーを考えたりします。

そうした工夫がまたうまくいったりすると、さらに楽しくなって見せ方に別の工夫をするようになります。これは立派な「広告」のスキルです。

こうしてたくさん売れてくると、たくさん仕入れることになります。たくさん仕入れると、以前よりも安く仕入れられることに気づきます。安く仕入れることができると、利益が増えます。そうすると、もっと商売が楽しくなってきます。

売値を下げて、ライバル商品より優位に立つようにするかもしれませんし、増えた利益を使ってスペックを上げたり、デコレーションしたりして類似商品よりも良いモノにしようとしたりします。これが「競争力をつける」「付加価値をつける」ということです。

競争力や付加価値がついてきて、お金もたまってくると、他者から仕入れるのではなく、イチから製造する気になってきます。これが「ブランドをつくる」ということです。

ここまで来ると仕入れ方と売り方だけでなく、法務、税務、人事などバックオフィスの実務もより高度に知ることになります。このように、ただの「せどり」だと思っていたことから、あれよあれよという間に、立体的なビジネスができたり、幅広い経験やノウハウが手に入ります。

ここまで進むかどうかは別として、稼ぐことに貪欲にならないと、このような展開にはなりません。

ちなみに、ここでお話したいのは、「副業をしよう」とか「起業しよう」ということではありません。会社員でも「会社が稼ぐことを自分事にしたほうがいいですよ」ということです。

会社員は、会社が稼いでいてもいなくても、基本的には急に給料が変わることはありません。しかし、稼ぎ方に興味を持つと、自分の仕事の解像度が各段に上がります。自分がいる会社の「稼ぐ構造」をより知りたくなるでしょうし、自分と関係しない部署の動きも気になってきます。

「ここがこうなったらもっと儲かるのに」とか、「もっとムダが省けるのにな」と感じるようになります。「全社を俯瞰で捉えて、自分の仕事を進める会社員」なんてめちゃめちゃ優秀ですよね。

それがいきすぎると一部の上司からは疎まれる危険性があるので、注意が必要ですが(笑)。少なくとも経営陣から見ると、どう見ても出世させたい頼もしい存在です。

「会社を稼がせる」意識を持つ

私はテレビ局で19年間、会社員をしていました。

番組企画の仕事をする前、最初は営業の仕事をしていました。仕事内容は番組のCM枠を広告代理店やスポンサーに売る仕事でした。会社員ですから売ろうが売らまいが給料は変わらなかったのですが、「売ったぶんだけ数字が積みあがっていくこと」を楽しく感じていました。

一生懸命売っていてもすべてのCM枠を売り切ることができないときもあります。放送日が近づくと、より売れなくなります。あるとき「余ったCM枠をまとめてパッケージにして売れないか」と考えました。

当時は「CDバブル」といわれていた頃で、レコード会社が音楽のCMをたくさん放映していました。レコード会社のCMは若い人をターゲットにしていましたが、当時の勤めていたテレビ局は若い人に訴求できる媒体として評価を得ていて、相性の良い間柄でした。

音楽ビジネスは“水モノ”といわれますが、ヒット曲が出ると、急に広告宣伝費を増やすことがよくあります。

そこで、余ったCM枠のうち、若い人に支持されている番組だけをまとめて商品にしました。放送まであと数日というタイミングでしたが、それはあっという間に完売しました。その後ほかの放送局も追随して、一般的な広告商品になっていきました。

これは、とても刺激的で高揚感のある体験でした。以来、私は「会社を稼がせる」ということに強い意欲を持つようになりました。

私が企画した「逃走中」という番組では、有名になる前からDVD化やゲーム化をしたくて、社内外にしつこく働きかけていました。当時は人気もなく定期的な放送が約束されていないコンテンツでしたので、むしろ「ゲーム化などで収益が上がること」を理由にして放送させてもらうように会社にお願いしていました。

アプリゲームでは国内2位(当時)のダウンロード数を記録した「ヌメロン」という番組も、ゲームアプリでお金を稼ぐことを目的として企画しました。

私に課せられた仕事は「番組で視聴率を獲ること」でしたが、むしろ「会社を稼がせること」に強い関心がありました。もう15年以上前の話ですが、今でいうIP(Intellectual Property)を創出してお金を稼ぐことが、近い将来のテレビ局で必要なビジネスと考えていました。

その結果、番組制作の範疇を超えたコンテンツビジネス、海外へのフォーマットセールス、ゲームの作り方、おもちゃの製造、著作権にいたるまで、幅広い経験とノウハウを得ることができました。

会社員でも「お金を稼ぐ構造」がわかってくると、「働いたぶんだけ給料を貰う」という意識から、「会社を稼がせたり、会社に価値を与えたことの対価として給料をもらう」という意識になってきます。

これは「雇われている」という意識から解放されることを意味します。組織の中で自立した心持ちでいられると、精神衛生上もとても健全に過ごせます。

「売れている商品」を見ると悔しい

私は、「売れている商品」「はやっているサービス」「うまくいってる事業」を見ると、悔しいと感じます。

以前はそんなことはありませんでした。しかし、「お金を稼ぐ構造」を知れば知るほど、「それは自分にもできるんじゃないか」と思うようになってきました。

「今できなくても、これがあればできるな」とか「アレが足りないから、そこだけ埋められれば同じように稼げるかもしれない」と感じます。とはいってもほとんどは感じているだけですし、「やれそうだと思うこと」と「実際にやって結果を出す」のは雲泥の差がありますから、あまり偉そうなことも言えないのですが(笑)。

成功しているビジネスを自分事にできるようになると、社会全体に対する解像度が各段に上がりますし、何よりビジネスの話がとても楽しくなります。守備範囲が広くて、意欲的なビジネスパーソンとして、一段階上がれます。

1つ注意したいのは、冒頭でお話した「欲」とは「お金に対する欲」ではなく「お金を稼ぐことに対する欲」だと言うことです。

言わずもがな、まったく違いますよね。

「お金そのもの」に欲があっても、生産することはできません。

よくある「楽して稼ぐ」的なインチキ広告に釣られてしまいます。大きく間違えば、詐欺のような犯罪に関わってしまうかもしれません。「お金そのもの」にだけ欲を持っても、まったく意味がありません。非生産的なばかりか、リスクをはらんでいます。

稼ぐ力は身を守ってくれる

「稼ぐ力」を持つと、自分の身を守ることにもつながります。


仕事を選ぶときも「将来性が無い仕事やリスクの高い仕事」を避けることができます。リスクが高くても、リスクの高さを構造的に理解したうえで立ち向かうのと、そうでないのには大きな差がありますよね。

お金を増やそうとするときも、「稼ぐ構造」に興味をもってするのが「投資」ですが、「お金そのもの」だけに興味をもってするのが「投機」です。「お金を稼ぐ構造」がわかっていれば、ありえないウマい話や詐欺まがいの話にうっかり乗ることもないでしょう。

「お金を稼ぐ」ということに欲を持って向き合い、お金が生み出される仕組みを知って自分事にすること。結果として世の中のあらゆる仕事に対する解像度を上げて、ゆくゆくは世の中のために働く力をつけていくこと。それが「稼ぐ力」というスキルです。

(高瀬 敦也 : コンテンツプロデューサー)