「買い物がやめられない」など、大人になってからの問題は子ども時代の経験によるものかもしれない(写真:CORA/PIXTA)

「お酒やタバコがやめられない」「恋人への依存心が強い」など、人には言いにくい悩みを抱えている人は、実は少なくありません。ただ、それはその人の心の問題だけではないかも。子ども時代の経験が、いかに大人になってから現れるかについて、心理療法士として長い経験を持つシュテファニー・シュタール著『「本当の自分」がわかる心理学』より一部抜粋・編集して紹介します。

子ども時代に「ありのままの自分」でいられた人

私たちは自分のことを“自らの力で人生を築いていく自立した大人”だと思っています。しかし実際には、私たちの認識、感情、行動の多くは自立したあなたというより、あなたの中にいる「内なるこども」が決めています。

「内なる子ども」とは、“人の無意識の中の核となる部分”であり、子ども時代に親など身近な人との経験を通じて刷り込まれた事柄(悪い刷り込みと良い刷り込み)の集合体のことです。

なぜ今、大人になった私たちの行動や感情が、この「内なる子ども」に影響されるのでしょうか。

私たちは誰もが、「自分の身が守られ、安心でき、快く受け入れられている」と感じられる居場所を必要としています。

子どものころに自宅がそのような場所であったら、それに越したことはありません。親から受け入れられ、愛されていると感じている子どもは、「温かい家庭」という居場所を持つことができます。その温かい家庭は“ありのままの自分でいられる場所”で、その子が大人になってからも、いつでも優しく迎え入れてもらえる「心の拠りどころ」になっていきます。

また、心の拠りどころを持つ子どもは、「自分が生きているのは基本的に良いことだ」と思うようになり、大人になってからもこの感覚を持ち続けることができます。そして、この世界の中で、「自分は守られている」と感じることができ、自分を信じることができ、他者を信頼することもできるようになります。

この感覚は、「基本的信頼感」と呼ばれています。基本的信頼感は、人間関係における心の拠りどころです。

子ども時代のトラウマや刷り込みがトラブルの元に

ただ、子供のころに嫌な経験ばかりして、それがトラウマになっているという人も少なくありません。また、自分の子ども時代は至って“普通”だった、あるいは“幸せ”だったと思っていても、実はそう思い込んでいるだけという人もいます。

子ども時代に身近な人からの拒絶や不安を経験して、「心の拠りどころ」が持てず、基本的信頼感がきちんと育まれていないと、そのことが日常生活に影響を及ぼします。

自己価値観(自分に価値があるという感覚)が低くなり、たとえば、話している相手やパートナー、上司、あるいは知り合ったばかりの人が自分のことを本当に好ましく思っているのか、自分を快く受け入れてくれているのか、つねに懐疑的になります。

自分のことを心から好きになることができず、不安ばかり感じ、人間関係をうまく築いていくことができません。基本的信頼感が育まれなかったために、自分自身の中にしっかりとした「心の支え」がないのです。

だからその代替として他者から自信と保護と安心感、いわば、心の拠りどころを与えてもらおうとします。たとえば、他者からの承認を過剰に求めたり、恋人に依存したりすることはもちろん、お酒やその他の嗜好品に依存したり、買い物が止められなくなったりもします。しかし、そこで得られる安心感はほんの一時的なものでしかないので、毎回がっかりすることになるのです。

他者や特定の行動に依存するような人たちは、「自分の心の中に拠りどころを持っていない人は、外の世界でも拠りどころを見つけることはできない」ということを気づいていません。

このように、遺伝的要素だけでなく、子ども時代に刷り込まれた事柄も、私たちの性格と自己価値観にとても大きな影響を与えます。

ネガティブな刷り込みが大きな影響を及ぼす

心理学では、その影響を受けた人格部分を「内なる子ども」と呼んでいます。子ども時代の経験のほとんどは、顕在意識ではなく無意識(潜在意識)の中に保存されていて、そこには、子ども時代に感じた不安や心配、苦しみなどのネガティブな刷り込み、さらに、あらゆるポジティブな刷り込みも存在しています。


ただ、ポジティブな刷り込みよりもネガティブな刷り込みの方が、大人になってから大きな影響を及ぼします。なぜなら、子ども時代に受けた侮辱や傷を二度と味わうことがないように、「内なる子ども」がいろいろな対策をとるようになるからです。

これ以上傷つかないようにしようとする「内なる子ども」のこうした対策は、「怒り」になったり、「拒絶」になったりして、人間関係のトラブルの種になります。

また、「内なる子ども」は、子ども時代に満たされなかった「守ってもらいたい」「認めてもらいたい」といった願望を、大人になってから満たそうとするようになります。

子どものころの不安と渇望は、大人になってからも無意識下で作用しているのです。そして、その影響力は私たちが思っているよりもずっと大きく、無意識が私たちの経験と行動の80%〜90%を操っているということは、科学的にも証明されています。

無意識はまさに絶大な力を持つ心の裁判所のようなもの。だからこそ、子ども時代をどう過ごしたか、どのような経験をしてきたかが、「今の自分」にとって大きな影響力を持つことになるのです。

(シュテファニー・シュタール : 心理学者、心理療法士)