寿司の折り詰めに無料でついている「小分けパックのしょうゆ」の正体は?(写真:pu-/PIXTA)

70万部の大ベストセラー『食品の裏側』の著者、安部司氏が開発した8万部突破のレシピ集『世界一美味しい「プロの手抜き和食」安部ごはん ベスト102レシピ』に続き、待望の第2弾『安部ごはん2 ベスト107レシピ』がついに発売され、早くもベストセラーになっている。

『食品の裏側』発売後、全国の読者から受けた「何を食べればいいのか?」という質問に対する答えとして、安部氏が自ら15年かけて開発した膨大なレシピノートの中から、「簡単に時短に作れるレシピ」を厳選した渾身のレシピ集だ。

いまなお食品添加物の現状や食生活の危機をメディア等で訴え続けている安部氏が「日本人が知らない『激安醤油』の超残念な裏側」について語る。

*しょうゆシリーズ1回目:平気で「安い醤油」買う人の超残念な盲点【前編】
*しょうゆシリーズ2回目:平気で「安い醤油」買う人の超残念な盲点【後編】

*この記事のつづき:日本人が知らない「薄口醤油」の超残念すぎる裏側

「激安しょうゆ」の正体とは


前回の記事「平気で『安いしょうゆ』買う人の超深刻盲点【後編】」では、「伝統的な本醸造しょうゆ」と「速醸しょうゆ」の違いについて述べてきました。

値段で言えば「伝統的な長期熟成しょうゆ」が最も高く、「速醸」はよりリーズナブルな値段で買うことができます。

しかし、それよりさらに値段の安いしょうゆがあります。上記の2つよりさらにコストが安く、早くできるからです。

それが「混合醸造方式」「混合方式」のしょうゆです。

「混合醸造方式」「混合方式」のしょうゆとは、いったいどのようなしょうゆなのでしょうか。

では、それぞれ説明していきましょう。

「混合醸造方式」と「混合方式」の違いは次の通りです。

「混合醸造方式」も「混合方式」も工程が短い

【混合醸造方式】「本醸造」に比べて、大幅に工程が短縮でき、コストダウンをはかれる

麹に食塩水を混ぜて発酵・熟成させて作る「もろみ」(「平気で『安いしょうゆ』買う人の超深刻盲点【前編】」参照)にアミノ酸液などを加えて、「混合もろみ」を作ります。

このもろみをしぼって「生揚(きあ)げしょうゆ」を作り、火入れをして完成させるのが「混合醸造」です。

「本醸造」に比べて、大幅に工程が短縮でき、コストダウンをはかることができます。

【混合方式】アミノ酸液などをブレンドし「混ぜればできあがり」の超インスタントなしょうゆ

「本醸造しょうゆ」または「混合しょうゆ」によって作られた「生揚げしょうゆ」にアミノ酸液などをブレンドして作るのが混合方式

「混ぜればできあがり」超インスタントなしょうゆです。

混合醸造方式と混合方式、どちらも「アミノ酸液」を使うので、以下、まとめて「アミノ酸しょうゆ」と呼ばせていただきます。 

じつは「アミノ酸しょうゆ」は、加工に使われることが多く、市販の「めんつゆ」「白だし」などに使われるしょうゆも、この「アミノ酸しょうゆ」が使われている可能性があります。

しょうゆ単体としては一般にはあまり流通していませんが、私たちが目にするとしたら、寿司の折り詰めに無料でついている「小分けパックのしょうゆ」。あれは「アミノ酸しょうゆ」の場合があります。

「平気で『安いしょうゆ』を買う人が知らない真実【後編】」で「長期熟成の本醸造しょうゆ」と「速醸しょうゆ」を見分けるために「テイスティング」を紹介していますが、もし手に入るなら「アミノ酸しょうゆ」もそれに加えて、比べてみてください。「味の違い」にビックリするはずです。


「しょうゆ」にはさまざまな作り方があり、安いものには「裏側」がある(図表:筆者作成)

では、この「アミノ酸液」とはいったい何でしょう?

しょうゆの製造に、なぜ「塩酸」が使われるのか?

しょうゆのうま味の素は「アミノ酸」です。本醸造方式では麹から作られる酵素が大豆や小麦のたんぱく質を発酵させることで、ゆっくりアミノ酸に変えていきます。

しかし、そんな手間をかけて発酵させなくても、「大豆のタンパク質から『アミノ酸』さえ作り出せば、しょうゆのベースができる」という発想から生まれたのが「アミノ酸液」です。

脱脂大豆を、塩酸を使って分解させると、手っ取り早く「アミノ酸」を取り出すことができるのです。

「塩酸なんて劇物を食品に使うのか」と驚かれる人もいると思いますが、塩酸分解は食品加工の世界では非常によく使われる手法です。

脱脂大豆の塩酸分解はいくつか方法があるのですが、一例を挙げると、脱脂大豆に塩酸を加えて8〜10時間加熱するとたんぱく質がアミノ酸に分解されます。これをアルカリ性の苛性ソーダで中和すると「アミノ酸液」ができるわけです。

中和することで塩酸は食品中には残らないということになっています。

このとき使われる大豆は脱脂加工大豆。大豆から油をしぼって残った部分です。油は残っていないけれど、たんぱく質はしっかり含まれています。

平気で『安いしょうゆ』買う人の超深刻盲点【前編】で説明しているので詳しくはそちらをご覧ください。

こうしてできあがったアミノ酸液。「うま味」はあるけれど、しょうゆ本来の色も香りも甘みも酸味もありません

「うま味」があるといっても、なめて「おいしい」というものではありません。しょうゆのうま味は「アミノ酸」ですが、それだけでしょうゆが成り立っているわけではないからです。

そこで登場するのが添加物です。

「化学調味料(うま味調味料)」「甘味料」「酸味料」「増粘多糖類」「カラメル色素」などさまざまな添加物でしょうゆっぽい味と色、香りを出していくのです。日持ちも悪いから保存料も使われます。

「アミノ酸しょうゆ」に潜む「クロロプロパノール類」問題


「アミノ酸しょうゆ」については『食品の裏側』にも詳しく書いているので、気になる人は参照してみてください。

さらにそれだけではない、「アミノ酸しょうゆ」には「もっと大きな問題」が潜んでいるのです。それが「クロロプロパノール類」問題です。

「クロロプロパノール類」とは脱脂大豆を塩酸分解するときに発生する有害物質です。

「クロロプロパノール類」という名前が示すように、主に2つの物質があるのですが、「発がん性」が疑われる物質もあります。

日本では基準値が設けられていないのですが、諸外国では基準値を設定して規制しているところもあります。なかでも一番厳しいのがEUです。

この「クロロプロパノール類」問題のために、「脱脂大豆」を使った日本製のしょうゆがEUに輸出できず、帰って来たということがありました。

国も「クロロプロパノール類」の有害性を認識していないわけではありません。農水省が下記HPなどで「クロロプロパノール」の実態を報告しています。

*食品中の3-MCPD及び1,3-DCPの含有実態:農林水産省 (maff.go.jp)

*食品中のクロロプロパノール類及びその関連物質の低減に関する国内の取組:農林水産省 (maff.go.jp)

これによると、かつては「クロロプロパノール」の濃度の高いものもあったが、近年は技術の向上により低減してきているとのことなのですが、そうであればなおさら基準値を作ってほしいと思います。

しょうゆの種類や製法について、これまで3回にわたって述べてきました。しょうゆと一口に言っても、じつにさまざまなものがあることがおわかりいただけたと思います。

もちろん、どのしょうゆにも、それぞれに「利点」があれば「欠点」もあると思います。

しょうゆは「和食の要」

私は、「伝統的な長期熟成の本醸造こそが本物のしょうゆ」だと思っていますが、それだって値段が高い、近くのスーパーなどでは手に入りづらいという難点があります。

それでもやっぱり、しょうゆこそは「和食の要」です。

同じ料理でも、「本当においしいしょうゆ」を使ったものと、「激安しょうゆ」を使ったものでは「別の料理?」と思ってしまうほど、「できあがりのおいしさ」が違います。

新作『安部ごはん2』で紹介しているレシピも、「どのしょうゆを使うか」によって、できあがりの味に大きな差がつきます。

とくに「超高級店の味を再現! 究極のすき焼き」「大行列店の味が家庭で作れる! 無添加 味わいしょうゆラーメン」「これはクセになる! こってり『とんてき』」などは「しょうゆの味」が決め手となる料理です。


『安部ごはん2』で紹介している、安部氏が開発した魔法の調味料「かえし」で簡単に作れる「超高級店の味を再現!究極のすき焼き」(撮影:佳川奈央)

せっかく料理をされるなら、ぜひ「本当においしいしょうゆ」を使って「最高においしい食事」を作っていただきたいと思います。

*しょうゆシリーズ1回目:平気で「安い醤油」買う人の超残念な盲点【前編】
*しょうゆシリーズ2回目:平気で「安い醤油」買う人の超残念な盲点【後編】

*この記事のつづき:日本人が知らない「薄口醤油」の超残念すぎる裏側

(安部 司 : 『食品の裏側』著者、一般社団法人 加工食品診断士協会 代表理事)