仕事のマンネリも怖いが、新しい挑戦にも及び腰。そんな彼への安井さんのアドバイスとは(写真: 天空のジュピター / PIXTA)

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最近新しいことに対する挑戦心が、まったく湧かずに困っています。当方もうすぐ50歳の会社員です。仕事はそれなりにこなしていますが、年齢を考えても、この先も大きな変化はあまりないように感じています。そのためオフの時間に、例えば見知らぬ土地への旅行などを企画してみるのですが、どうしても腰が重く行動に移せません。

子供も大きくなり、機動性があるはずなのですが、旅行だけではなくそのほかに関しても、新しいことへの挑戦心が湧きません。このままだと仕事においても斬新なアイデアが出ずに、マンネリ化してしまいそうで懸念しています。オフでの挑戦を通じて、仕事にもいい影響を与えたいのですが、この先どうやって新しいことへの挑戦心を盛り上げていけばよいのでしょうか。

IM 会社員

日常を少しずつ変えてみる


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「新しいこと」を、やったことのないまったくの新しいことではなく、「現状の微調整や微修正」という形で捉えてみましょう。そのうえで、まずは日常を変えてみるのに慣れることから開始するのがよいでしょう。

新しいこと、イコール現状や日常の否定、と仰々しく捉える必要はありません。

ましてや、日常の変化は自分との対話であり、ほかに評価者が存在しないわけですから、失敗したときのことをあまり深く考える必要もないのです。

日々のルーティンや慣れていることを変えたくはない、または変える、ということについて考えたこともなかった、というヒトは非常に多いと思います。

朝起きてからの習慣、電車の乗る時間や、乗る位置、通勤で通る道順、ランチの時間、寝る前の習慣、など日常生活において意識する、または無意識のうちにルーティン化していることは非常に多いと思います。

人間は「習慣の生き物」ですから、慣れていることを変えたくはない、現状を維持したい、という気持ちがいろいろな場面で湧き上がってくるのです。

もちろんそれ自体は決して悪いことではなく、そのヒトの性格や生き方によるものですから、周りに過度に迷惑をかけていない限りにおいては、別に非難されるべきことではありません。

これは仕事、人間関係、趣味、など日常のあらゆる場面での生活に言えることです。

そしてそのような「習慣」に対して、心地よさを感じているヒトにとって、日常を変える、というのはストレスに感じることなのでしょう。

そして、そのようなヒトにかぎって、あるときふと「人生これでよいのだろうか?」と悩むものです。

「習慣化」をあえて避けるヒトの場合

それとは反対に、習慣化やルーティン化をあえて避けるタイプのヒトもいます。

その理由はさまざまでしょうが、柔軟な思考力を維持したい、つねに新しい発見を通じて学びたい、気分転換をしたい、などがあげられます。

そういったタイプのヒトにとっては、新しいことへの挑戦は日常ですから、そもそも新しいことをやっている、ということすら感じていません。

なぜならば昨日や一昨日と異なることをするのが日常であり、当たり前だと思っているからです。

つまり新しいことをするのに慣れているのです。

そういったケースでは新しいことへの挑戦や、新たな行動は「普通のこと」ですから、その行為にも慣れていますし、仮に失敗したとしても、たいして落ち込むこともなく次の工夫や挑戦に向かっています。

その一方で、習慣を変えたくないタイプのヒトは、いざ新しいことをしようとしたときに、慣れていないがゆえに、「まったくやったことのないこと」を狙おうとするように思えます。

現状の反対が新しいことである、という考え方ですね。

そういった場合は、新しいことをするハードル(これは心理的なハードルも含めてですが)が非常に高く、及び腰になる傾向があります。そして何よりも、新しいことをするのに慣れていないために、失敗する可能性も高いのです。

趣味を持っていなかった中高年がいきなり何かを始めて失敗したり、想像と違って挫折するパターンなどがそうです。

「やろう」と決意して、道具一式を整えて、やってみたら違ったため、道具だけが残った、というようなことはよく聞く話です。

そのような大きな挑戦だと、やはり失敗も大きくなりますから、余計に新しいことへの挑戦に億劫になってしまう、という循環になりかねません。

リスクを避けるべく、まずはスモールスタートを通じて、新しいことへの挑戦に慣れる、日常を離れた経験を積み重ねる、ということから開始したほうがよいでしょう。

新しいことへの挑戦は、何も現状や日常の否定である必要はないのです。

そうではなく、日常の微調整や微修正という形でのスモールスタートで、かつ「現状プラスアルファ」から始めてみるのが正解だと思います。

それならば心理的なハードルも低いでしょうし、時間・お金両方の初期投資も不要です。

電車の乗る位置を変えてみる、あえて最寄り駅の1つ前で降りて歩いてみる、という小さなことからで全然よいのです。日常を変えるということに慣れる、準備運動のようなものです。

小さなことを成し遂げない状態で、いきなり大きなことを成し遂げようとせずに、まずは体を慣らすことが大切です。

そうやって、自分の中で少しずつ日常を変えていけば、もしかしたら見える景色も変わってくるかもしれませんし、もっと大きな変化を自然と求め出すかもしれません。

旅行や趣味でも少しずつ変えてみる

いずれにせよ大切なのは、一歩踏み出す勇気を持ち、変化にまずは慣れる、ということです。

これは何も日常だけではなく、旅行でも言えることです。いきなり遠くや海外に行こうとするのではなく、まずは自転車で1時間ぐらいのところに日帰りで行ってみる、などやることのハードルを低くしてスモールスタートから開始したほうがよいでしょう。

趣味に関しても同様で、いきなり道具一式を整えるのではなく、雑誌などで研究したり、やっているヒトの話をまずは聞いてみて、レンタルから始めてみる、というような工夫が大切です。

いずれにしても、いきなり大きな変化を求めて、短期的に成果を出そうとするのは失敗のリスクもさることながら、一歩を踏み出すハードルが高いのでやめたほうがよいでしょう。

小さな変化を積み重ねることが、大きな変化を生み出す第一歩です。まさに急がば回れ、です。

長い人生において、数カ月や数年は、たいした時間ではありません。大切なのは、「変えよう」と思った最初の気持ちを忘れずに持ち続けること、そして最終的に「なりたかった自分」に確実になることです。

自分を変える、ということに対しては競争相手もいませんし、評価者もいません。ようは自分次第なのです。

小さな調整をし、自分との対話を続ける

だからこそ、小さな調整を通じて、自分との対話を続け、自分を知り、そのうえで変化の道筋や、あるべき方法論を見出したほうがよいでしょう。

変化、といっても短期的に目に見える変化のみが変化ではないのです。長い目でみて、日常をちょっと変えてみる。それも立派な変化ですし、その後に続く大きな変化へのファーストステップなのです。

そのような考え方で、IMさんがまずは現状への微調整、微修正を通じて、将来的な大きな変化や新たな挑戦へと続く、一歩を踏み出すであろうことを応援しております。

(安井 元康 : 『非学歴エリート』著者)