●僕はやっぱりメロンの人なんだ

『仮面ライダー鎧武』とは、2013年10月6日から2014年9月28日まで、テレビ朝日系で全47話が放送された連続テレビドラマである。計画都市「沢芽市」で活動するダンスチームのテリトリー争いから始まった本作のストーリーは、やがて巨大企業ユグドラシルに関わる人物たちの存在が明るみになってから不穏さを増していき、異世界「ヘルヘイムの森」の浸食による世界規模の脅威にまでスケールが拡大していく。数多いアーマードライダーそれぞれのキャラクターが深く描き出され、裏切りや策謀、共闘や決裂がうずまきながら怒涛のように進んでいくストーリー展開は、実にスリリングかつドラマチックであった。

久保田悠来(くぼた・ゆうき) 1981年生まれ、神奈川県出身。舞台『ミュージカル テニスの王子様』(2018年)『戦国BASARA』(2009年)などを経て、2013年『仮面ライダー鎧武』に仮面ライダー斬月(斬月・真)/呉島貴虎役で出演。スピンオフVシネマ『鎧武外伝 仮面ライダー斬月』(2015年)や舞台『仮面ライダー斬月-鎧武外伝-』(2019年)では主演を務めている。テレビドラマ『テッパチ!』(2022年)、『風間公親-教場0-』(2023年)、映画『鬼平犯科帳 血闘』(2024年公開予定)など多方面で活躍。出演舞台『BASARA』(2022年)では演出も手掛けている。 撮影:大塚素久(SYASYA)

本稿では『仮面ライダー鎧武』放送開始10周年を記念し、仮面ライダー斬月(斬月・真)/呉島貴虎を演じた久保田悠来にインタビューを実施した。10年もの長きにわたってファンの心をつかんで離さない『仮面ライダー鎧武』の魅力や、作品を通じて生まれた共演者たちとの絆について語ってもらった。

――今年は『仮面ライダー鎧武』放送開始から10年という節目の年ですね。

つい最近の話なのですが、ある作品で共演した女優さんから「息子がいま『仮面ライダー鎧武』を夢中になって観ているんです」と言われたことがありました。今はサブスクで過去の作品も気軽に観ることができます。そのお子さんにとっては『鎧武』がリアルタイムのヒーローというわけです。今や、ヒーローはテレビでオンエアして終わりではなく、時代を超えてリアルタイムで子どもたちを楽しませている。凄いことになっているなと思いました。

――それだけ『鎧武』のキャラクターやストーリーが古びず、常に強い生命力を持ち続けているということなんでしょうね。それとは別に、10年前『鎧武』を観ていた方たちが大人に成長し、共演者やスタッフとして久保田さんと共にお仕事をされたなんてことはありますか?

けっこう言われること、ありますよ。でも、ドラマの場合だとオールアップ(撮影完了)してから「実は観てました」みたいな感じで声をかけられるパターンがすごく多い(笑)。せめて最初のころに言ってくれたら「ああ、仮面ライダーのことを知ってくれていたのか」と、気持ちが楽になったのに。そして、『鎧武』時代の裏話とかもしてあげられたのになって、ちょっと残念に思いますね。あとは、普通にプライベートで外を歩いているとき、若い男の人に声をかけられたことがありましたね。そういう人に出会うと、10年前『鎧武』のイベントで、お母さんに連れられていたような子どもが、こんなに大きくなったんだなあって、時代の流れを感じます。まあ、あのころ子どもたちは紘汰(仮面ライダー鎧武/演:佐野岳)や戒斗(仮面ライダーバロン/演:小林豊)のところに寄っていくことが多く、僕(貴虎)のほうにはそんなに集まってこなかったですけど(笑)。

――当時、貴虎さんの大人の魅力がわからなかったファンの子どもたちも、10年経ってわかるようになったということかもしれませんね。

ただ、プライベートのときは僕を見かけても声をかけず、なるだけ見守っていてほしい(笑)。

――日常生活でふと「呉島貴虎であること」を意識される瞬間があったりしますか。

ほとんどないですけど、ときどき「ノブレス・オブリージュ(高貴なる者の義務)」という言葉を思い出すことがありますね。何か、高貴を感じさせる場面に遭遇したとき、ふいにノブリス・オブリージュとはこのことだな……なんて、脳裏に浮かんできます。あとは、斬月・真はメロンのライダーなので、街の青果店でメロンを見かけたり、喫茶店でメロンソーダとかを見つけたりすると、ああ嬉しいなって思うんです。僕はやっぱりメロンの人なんだと、そのとき強く思うんです(笑)。

――高杉真宙さん演じる仮面ライダー龍玄/呉島光実との「兄弟の確執」がシリアスなドラマを生みました。役としては緊張感がただよっていましたが、実際の高杉さんと久保田さんはとても仲良くされていたとうかがっています。もしも高杉さんのような弟が本当にいたら、久保田さんとしてはどんな接し方をされますか。

真宙みたいな弟がいたら楽しいでしょうね。真宙はマンガやアニメに詳しいし、今どんな作品が面白いかオススメを教えてくれますから(笑)。僕は次男だし、真宙は長男なので、実生活にない兄弟関係を演じることができて、とても新鮮な感覚がありました。

●若い俳優たちが何かを学んでいった1年



――久保田さん、高杉さんを含め『仮面ライダー鎧武』のキャスト陣はとてもチームワークがよい印象です。現場の雰囲気はどんな感じだったのでしょう。

ムードメーカーは豊でした。戒斗は誰に対しても心を開かないライバル的な役柄なんですけど、演じる豊はまったく違って気さくで明るいタイプだったので、現場の雰囲気がいつもやわらかで、朗らかな感じでした。岳や豊を中心にした若者チームと、僕や波岡(一喜:仮面ライダーシグルド/シド役)さんたち大人チームに分かれていましたけど、みんな和気あいあいとして、いい意味でまざりあっていた感じでした。

若者チームは最初、ずっとワイワイ騒いでいて、ちょっとうるさいなと思ってたんですけど(笑)、やがて大事なシーンの撮影をする際には、ピリッとした緊張感を漂わせるように変化していきました。やっぱり先輩たちの姿を見て、若い俳優たちが何かを学んでいった1年だったように思います。じっくり時間をかけて、彼らが俳優として大きくなっていく様子を見ることができました。

――テレビシリーズ全47話では、ミニマムなダンスチーム同士のテリトリー争いから始まって、やがて人類の存亡を脅かす世界規模の危機がやってくるというシリアスな物語が繰り広げられました。あのようなドラマ展開について、久保田さんの持たれた印象を聞かせてください。

『鎧武』のように、壮大なスケールの作品に出ることができて、本当によかったです。1年間にわたり、それぞれのキャラクターたちがぶつかりあい、成長していく。このキャラクター群像劇はとても濃密で、見ごたえがあったと思います。

――『鎧武』とは、自らの信念を持った複数のアーマードライダーが、人類の危機を食い止めるため死力を尽くす物語でした。その中でも貴虎は多くの人々を救い、平和をもたらしたいと願い続け、最初から最後までまったくブレることのない「責任ある大人」のヒーロー像を貫き通されました。改めて貴虎を演じていたころの思いについて教えていただけますか。

物語において重要なピースのひとつになってくれたらいいと思って、ストーリーを盛り上げるべく力を込めました。役者・久保田悠来としては、貴虎の人気が出てほしいと思いながら演技をしていましたけどね(笑)。

――いわゆる「変身ヒーロー」を1年間演じたことによって、久保田さんのファン層もいくらか変化したのではないでしょうか。

『鎧武』に出てから、SNSにコメントをいただくことが多くなってきたというのはありますね。このエピソードのこういう場面を観てファンになりました、なんて言われると、役者冥利に尽きるなあって(笑)。違う作品ではありますが、ときどき「えっ、そんな一瞬の何気ない場面を観てファンになってくれたんですか?」と驚くこともあるんです。

――『鎧武』キャストのみなさんで、最近集まったりしたことはありますか。

今でも何人かで集まって、食事に行く機会がありますよ。つい先日だと、池袋のサンシャイン劇場で朗読劇『極楽牢屋敷』(2023年8月12日)をやったとき、岳とゆーみん(志田友美)に会えました。真宙ともちょこちょこ連絡を取り合っていますけど、最近は会えていないかな。みんな忙しいのでなかなか集まれませんが、またそういったチャンスがあればいいなと期待しています。

――改めて『仮面ライダー鎧武』で貴虎を演じられた10年前をふりかえり、ご感想をお願いします。

仮面ライダーに変身することのできる俳優は、そんなにたくさんいるわけではありませんから、僕が歴史ある仮面ライダーの一員として名を連ねることができるのは、改めて嬉しいことだと痛感しています。『仮面ライダー鎧武』に出演したことによって、いろんな人たちの心の中に残る「ヒーロー」になれた。その喜びはとてつもなく大きいものなんです。