あなたは、“火葬場”と聞いて何を思い浮かべるだろうか。神聖な場所、近寄りがたい……。なんとなくのイメージは持ちつつも、どんな人が働いて、どんな仕事をしているのか具体的に知っている人は少ないかもしれない。

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『最期の火を灯す者 火葬場で働く僕の日常』(竹書房)などの著書もある元火葬場職員の下駄華緒さんは、自身のYouTubeチャンネル『火葬場奇談』で毎日のように火葬場にまつわる話を公開している。そんな下駄さんに、これまであまり語られてこなかった、火葬場のリアルな現場を伺った。(全2回の1回目/2回目に続く)


下駄華緒さん ©石川啓次/文藝春秋

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「火葬場職員の仕事って、何かええなあ」

――下駄さんが火葬場職員になった経緯を教えてください。

下駄華緒(以下、下駄) 直接のきっかけは、先輩が火葬場職員だったからですね。火葬場職員はなかなか身近にいなくて珍しいから、先輩に「どうやってなるんですか?」と聞いたら「求人誌で募集してる」って教えてもらいました(笑)。

 あと、同じ時期に僕のおじいちゃんの葬儀があったんです。お骨上げをしてくれた火葬場職員さんが、僕たち遺族の前でおじいちゃんの人生をねぎらってくれて、親族一同「じーん」としたんです……。その時に「火葬場職員の仕事って、何かええなあ」と思ったんですよね。そんなきっかけが重なって、自分から求人に応募しました。

――火葬場ではどんな方が働いているのでしょうか。

下駄 実は、火葬場はもともと公営のところが多かったんです。だから、職員歴何十年のベテランの火葬場職員は、元公務員が多いですね。最近は行政に委託される民間業者もどんどん増えていて、そういうところには20〜30代の若い人も結構います。

――仕事内容を教えていただけますか?

下駄 仕事は大きく2つにわけられます。火葬そのものと、お骨上げです。人によりけりなのですが、僕はどちらかと言うと火葬よりもお骨上げが好きでしたね。

人と関わるお骨上げには“ストーリー”がある

――なぜお骨上げの方が好き?

下駄 火葬は1人で黙々と作業することが多いので、火葬してて誰かに怒られることはない。一方で、お骨上げは人との関わりなので、全然マニュアルどおりにいかないことばかりなんです。でも僕はそういうところに“ストーリー”があっていいなと思うんですよね。

――お骨上げの最中には、具体的にどんなストーリーがあるのでしょう。

下駄 ほっこり系と怖い系の話があるので、それぞれお話ししますね。

 まずはほっこり系。ほっこりというか、ある意味困った話なんですけど。火葬場職員って、基本的に笑っちゃいけないんですよ。もちろん愛想笑いもNG。それを知ってか知らずか、ときどき職員を笑わそうとしてくる人がいるんですよ。

 ある時のお骨上げで、下顎がきれいに残ったご遺体があって。かなりご高齢の方だったのですが、歯もしっかり残っていました。それを見て、「わしの入れ歯、ここにあったんか〜!」とボケるおじさんがいて。

――それはきつい……。では、怖い系は?

下駄 人間的な怖い話なんですけど、遺族の中にはなぜか「骨壷を持ち帰った人が遺産を相続できる」と思い込んでいる方がたまにいるんですよ。実際にはそんなことないのに。それで、遺族同士で誰が遺骨を持ち帰るか、お骨上げの最中に争うことがあるんです。

 ある時、おばあちゃんとおじさんが2人で骨壷を奪い合い始めて。僕もなだめていたんですが、あまりに激しく奪い合った結果、おばあちゃんの腕の骨が折れて「ぶらーん」ってなったんですよね。

 それでもおばあちゃんは「骨壷は絶対渡さへん!」って譲らなくて。腕をぶらーんぶらーんさせながら。この時はさすがにびっくりしましたね……。

――本当に、お骨上げはマニュアル通りにいかないことだらけですね……。

下駄 そうですね。あとは、お骨上げで人と関わることが多いからこそ、「この職業に対する偏見はまだまだ残っているな」と感じましたね。

「こんな仕事しかできない人間になるぞ」と指をさされたり…

――偏見?

下駄 そうです。例えば、火葬場内で走り回っている子どもを遺族の方が注意する時、「人に迷惑かけているとこんな仕事しかできない人間になるぞ」と指をさされたり……。

 ほかにも、僕が働く火葬場の近くに住んでいる方から「お兄さん火葬場で働いているでしょ?」と声をかけられたこともあります。僕がその辺のコンビニで働いている人だったら、多分声をかけなかったと思うんですよね。

 火葬場職員が“特異”な仕事だと思われているから、いつも火葬場に出入りする僕の存在が気になって声をかけてきたはず。小さいことかもしれないけど、それもこの仕事に対する偏見だと思うんです。

――“無意識の偏見”みたいなものですね。

下駄 ネット上ではいまだに「身分の低い人がやる仕事だ」と言ってくる人もいますし。実際にはコンビニやスーパーで働くのとあまり変わらない、身近な仕事の1つだと思っているんですけどね。

 それに僕は、火葬場が大事なインフラの1つだとも思っているんです。例えば、東京では年間10万人前後の人が亡くなります。1日にしたら約300人。でも日常生活で、例えば道路とかにご遺体が転がっていることなんてあり得ないじゃないですか。それはつまり、火葬場がしっかり整備されている証拠なんです。

 人が亡くなるのは自然なこと。だから火葬場もそこで働く人も、別に特別ではない。“普通”なんです。

――実際に働いていた下駄さんは火葬場もそこで働く職員も“普通”だと認識されていますけど、そう思っていない人もまだまだたくさんいるんですね。

下駄 そうですね。時々、火葬場職員に憧れて応募してくる方もいるのですが、ある意味、彼らも偏見を持っているのかもしれません。

 本木雅弘さん主演の映画『おくりびと』が流行った時があったじゃないですか。あの作品自体は納棺師を題材にしたものなんですが、映画の影響で火葬場にも「人の最期を見送る仕事に感動しました」という就職希望の方が増えたんです。

 でも映画では、人の死のきれいな部分しか映していないんですよね。エンターテインメントなのでしょうがないのですが……。

下駄 実際のご遺体は、もっといろんな意味でリアルなんです。手触りも臭いもある。高い志を持って入社される方ほど、そのギャップにショックを受けて数日で辞めてしまう方が多くて。

 意外と、「家の近くで通いやすいから応募しました」くらい気軽なノリで応募した方のほうが長く続くことが多いです。

 そういう方は「火葬場も近所のコンビニやスーパーとたいして変わらない」というくらい火葬場の存在を特別視していないので、実際に仕事をしてもギャップを感じないんでしょうね。

「普通じゃないんじゃないか」と勘ぐられる

――下駄さんはよく「火葬場の情報をもっと伝えていきたい」とおっしゃっていますよね。現状ではクローズドな部分が多いからこそ、特別視してしまう風潮があるのでしょうか。

下駄 これまでほとんど語られてこなくて、クローズドで内情がわからないから、「普通じゃないんじゃないか」と勘ぐられるんだと思います。それは、火葬場職員とご近所さん、遺族との関係だけじゃなく、遺族同士でもそうです。

――遺族同士でも?

下駄 火葬場職員になったけど、どうしてもご遺体と向き合えなくて早々と辞めてしまう人がいるように、遺族の方の中にもお骨上げがどうしても苦手な人がいるんです。

 それは本来、まったく悪いことではないんですよ。人によって得意不得意はあるので。僕だって「バンジージャンプしろ!」って言われても無理なものは無理やし。

 でも、お骨上げを辞退すると、別の遺族から「最期なのにひどい」と言われてしまう。それで無理して参加して、倒れてしまう方もいるんです。身近な人が亡くなったショックで、ただでさえ心身ともに疲れ切っているところに苦手なことを強要されたら、そりゃあ倒れますよね。

 火葬場もお骨上げも、普通の日常の一部なんです。「火葬場は特別だから、苦手なことでも無理しなきゃ」とか思わなくていいんですよ。

写真=石川啓次/文藝春秋

【2回目に続く】

「あの出来事があってから『幽霊は本当にいるのかもな』と…」元火葬場職員・下駄華緒が語る、覆された“死生観” へ続く

(仲 奈々)