阪神電鉄が磁気定期券を廃止します。背景には、ICカードやスマホの定期券が普及するなか、磁気券のデメリットが顕在化していることが挙げられます。

京阪に続き阪神も磁気定期券を廃止

 阪神電鉄が磁気定期券を廃止します。2022年3月14日(月)をもって自動定期券発売機での取り扱いを、7月末には有人窓口での発売も終了。障害者割引適用の定期券を窓口で発売するなどの一部例外を除き、定期券のサービスは、IC定期券(PiTaPa、ICOCA)に集約するといいます。


阪神電鉄の8000系電車(画像:写真AC)。

 同社だけでなく、関西の私鉄では磁気定期券が縮小傾向にあります。京阪電鉄が2021年3月に磁気定期券を廃止したほか、同年9月には大阪メトロ、南海、泉北高速、北大阪急行、大阪モノレールが社局をまたがる磁気連絡定期券の取り扱いを終了しました。各社局ともIC定期券への変更を呼びかけており、阪神電鉄も磁気定期券の廃止にあたり、2月から4月にかけ「IC定期券購入キャンペーン」を実施します。

「定期券利用者のうちIC定期券をご利用のお客さまの割合が高くなっていることに加え、新型コロナウイルス感染拡大後は、キャッシュレスや非接触サービスであるICカードのニーズが大きくなっている」。阪神電鉄は発表資料でこう説明しています。

 同社は、乗車券類のデジタル化とともに、定期券に限らない“脱・磁気券”化を進めています。というのも、磁気券のデメリットが顕在化しているのです。

デジタル化できない磁気券 駅の機器もだんだん「IC専用」に

 磁気券は「デジタル界に羽ばたけない」−−阪神電鉄で次世代乗車券の検討を担当する松本康弘さんは、2021年9月にナビタイムジャパンが開催したモビリティ勉強会にて、こう話しました。ICカードやスマートフォンを活用した乗車券は、インターネット経由での購入が可能になった一方で、普通のきっぷや磁気定期券などは、券面情報を専用端末で書き込むため、ネット経由での販売ができないのだそうです。

 加えて、磁気券を処理するためのコストも課題です。磁気券対応の自動改札は、IC専用改札に比べて機械的に複雑なため、保守に多額の経費がかかり、券詰まりのトラブル対応にも時間と費用を要します。このため駅では、磁気券も使えた改札がだんだんと「IC専用」に置き換わっています。

 駅ではきっぷ販売の機械化が進んだものの、「検索(運賃表を見る)・決済・販売の方法は大昔とさほど変わっていない」――阪神電鉄の松本さんは先の勉強会でこう指摘しました。同社では、デジタル対応と磁気券のデメリット解消の双方を図るべく、2020年から21年にかけ、利用者のスマートフォンを活用したQRコード乗車券の実証実験なども行っています。

 磁気定期券の廃止後、阪神電鉄においては普通乗車券(1回限りの乗車)、一部の回数券と企画乗車券が磁気券として残るといいます。これらについて廃止する具体的な予定はないとのことですが、今後、いわゆる「きっぷ」の利用はさらに減少していくかもしれません。