4チーム全勝にはならなかったけど…/原ゆみこのマドリッド

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「あと、ちょっとだったのにね」そんな風に私がガッカリしていたのは月曜日、連休最終日だったのも相まって、チケット完売となったエスタディオ・バジェカスでラージョが初めて今季、勝ち点を落としてしまったセルタ戦を見た後のことでした。いやあ、前半はファルカオが何度もシュートを放ち、いつ先制点を取ってもおかしくない雰囲気だったんですけどね。そこで決めきれなかったのが災いしたか、後半はセルタも対等に競り合うように。そのうちファルカオに時間切れが来て28分には交代、セルタのGKディトゥロの活躍もあって、最後はスコアレスドローに終わったんですが、もちろん、それでも昇格組ながら、EL出場圏6位の高みを維持する弟分にまったく文句はつけられませんって。

ただ、ここでホーム6勝目を挙げて、勝ち点22となっていれば、土曜にサンティアゴ・ベルナベウで対戦するレアル・マドリーとはたったの2差でしたからねえ。大舞台で兄貴分を追い越すという、下剋上の可能性を失ってしまったのはちょっと、残念だったラージョファンもいたのでは?とはいえ、この日は「tres partidos seguidos, necesitábamos muchas piernas en el centro/トレス・パルティードス・セギードス、ネセシタバモス・ムーチャス・ピエルナス・エン・エル・セントロ(3連戦でウチは中盤に多くの脚力が必要だった)」と、イラオラ監督がチームの司令塔トレホを控えスタートにするぐらい、小さいクラブでは人事のやりくりが苦しいミッドウィークリーガの後の試合でしたからねえ。今度は逆にそれが、ヨーロッパの大会がなく、1週間丸々練習に当てられるという強みとなって、週末の試合で大先輩を驚かせることができるかもしれませんよ。

まあ、それはともかく、他のマドリッド勢の先週末の試合も振り返っていくことにすると、土曜にマドリッド勢のトップバッターを務めたのはマドリー。マルティネス・バレロでのエルチェ戦には疲れが溜まっているベンゼマを連れて行かなかったため、前節オサスナ戦でのスコアレスドローもあって、ゴール不足の懸念があったんですけどね。代理CFを務めたのも今季初出場となるマリアーノでしたし、序盤からシュート2本と張り切っていたロドリゴなど、早くも前半18分にはダウン。左太もも裏を痛め、アセンシオと交代になってしまった時には私も辛抱の展開を覚悟したものでしたが、全然、そんなことはなかったんです。そう、22分、モヒカのパスミスでボールを得たカセミロがマリアーノに繋ぎ、彼のtaconazo(タコナソ/ヒールキック)パスでビニシウスが一気にエリア内へ。そのシュートがGKカシージャを破り、先制点を奪っているのですから、感心じゃないですか。

とはいえ、追加点までは結構待たされて、後半19分、GKクルトワからのゴールキックを受けたクロースをラウール・グティが強烈なタックルで倒して2枚目のイエローカードをゲット。退場処分となり、エルチェが10人になった後、28分まで入らなかったんですが、ここでも主役はビニシウスでした。「Modric siempre pide que juegue sin balón, que el balón va a llegar/モドリッチ・シエンプレ・ピデ・ケ・フエゲ・シン・バロン、ケ・エル・バロン・バ・ア・ジェガール(モドリッチはいつもボールを持ってなくても動くように、ボールはきっと来るからと言っていた)」と後で告白していた彼がまさしく、そのモドリッチからスルーパスをもらい、カシージャのすぐ前でvaselina(バセリーナ/ループシュート)。これが2点目となって、マドリーの勝利は確定したかに思えたんですが…。

今季5試合、ホームでは負けのないエルチェも終盤、意地を見せたんですよ。それは41分、クロースをパス交換していたカセミロが足元を狂わせ、ベネデットに渡ったボールがルイス・ミジャへ。1対1でクルトワを破り、土壇場で1点差に迫ったんですが、同点までには至りません。まあ、アンチェロッティ監督も「Después de sólo dos días y medio de descanso no puedes jugar con intensidad y energía/デスプエス・デ・ソロ・ドス・ディアス・イ・メディオ・デ・デスカンソ・ノー・プエデス・フガール・コン・インテンシダッド・イ・エネルヒア(たった2日半の休みの後、激しさとエネルギーをもってプレーすることはできない)」と言っていたように連戦続きで、最強のマドリーを披露できたとは言えない試合でしたが、リーガ上位戦線にチームが密集している今、何より大事なのは結果ですからね。

おまけに今週もマドリーには水曜午後6時45分(日本時間翌午前2時45分)から、サンティアゴ・ベルナベウでのグループ首位が懸かったCLシャフタール戦が入っているため、この試合で結構、役に立つことを証明したマリアーノが顔面から地面に落下。鼻を骨折して、10日間はお休みになるのは痛いですが、ベンゼマは戻ってきますからね。同じく鼻血を出してエルチェ戦を終えたカセミロは重傷ではなかったようですし、もうこれでリーガ7ゴールと、ベンゼマの9ゴールに続く、ピチチ(リーガの得点王)ランキングの2位に躍り出たビニシウスはどういう訳が、11月のブラジル代表戦に招集されておらず、その間、ゆっくりできるのも朗報かと。10月の代表戦週間の後、始まった6連戦もあと2試合だけですし、それまではこれ以上、ケガ人が出ないといいですよね。

そして翌日曜にはアトレティコがワンダ・メトロポリターノにベティスを迎えたんですが、これが大雨の中の試合となってねえ。昔、ビセンテ・カルデロンでプレーしていた時には、記者席に屋根はあっても雨漏りや横から吹きつける水滴が気になったものですが、ワンダではスタンド最前列にでもいない限り、全然平気。前節レバンテ戦での退席処分で1試合のベンチ入り禁止となり、パルコ(貴賓席)観戦していたシメオネ監督同様、私も快適に過ごすことができたんですが、もしやキックオフ時にはすでにズブ濡れになっていたのと、早々にカルバーリョの強烈シュートをGKオブラクが弾いてくれたのが、最近は眠ったまま、ピッチに立つことが多かったアトレティコの選手たちの目を覚ましてくれた?

ええ、それからは積極的に攻める側に回った彼らはグリーズマン、この日はジョアン・フェリックスを押しのけて先発入りしたコレア、デ・パウルらが次々とゴールを狙い、GKクラウディオ・ブラボに仕事を与えることに。ようやくその成果が現れたのは27分、コレアからパスを受けたカラスコがエリア内左から切り込むと、モントーヤをかわしてシュート。しっかり決まって先制点となってくれたから、悪天候にも関わらず、スタジアムに応援に駆けつけて、キックオフ前など、Fondo Norte(フォンド・ノルテ/ゴール裏北側)の3階席に陣取ったベティスサポーターたちと一緒に「Puta Sevilla, puta Sevilla/プータ・セビージャ(セビージャへの悪態)」のカンティコを互いに歌い合って、盛り上がっていたファンたちも大喜びでしたっけ。

後半のアトレティコも3分にはエルモーソのゴールがVAR(ビデオ審判)のオフサイドで認められなかったり、ルイス・スアレスのシュートがparadon(パラドン/スーパーセーブ)されたりとアクティブで、しばらく時間はかかったんですが、18分には待望の追加点をゲット。グリーズマンの蹴ったCKをヒメネスに先んじてクリアしようとしたペッセーラが不可解にもヘッドを自軍のゴールに撃ち込んでのオウンゴールで2点目となったんですが、ここ2試合、2-2で引分けていた彼らですからね。34分にもスアレスと交代でピッチに入ったジョアンがカラスコからスルーパスをもらい、GKとの1対1を制して今季自身初ゴールを決め、ダメ押ししてくれたのは助かりましたっけ(最終結果3-0)。

まあ、その最後のゴールはVARがオフサイドの判定を覆してくれるのに時間がかかったせいか、ちょっとハラハラさせられたんですが、これでアトレティコもようやく今季のホームゲーム3勝目。ベティスのペレグリーニ監督が今週は木曜にELレバークーゼン戦、週末にはセビージャとのアンダルシアダービーを控えていることを勘案したか、フェキルをベンチ待機にしてくれたおかげもあったかと思いますが、「El partido más regular seguro. En todo momento se jugó el partido que quisimos/エル・パルティードー・マス・レグラル・セグロ。エン・トードー・モメントー・セ・フゴ・エル・パルティードー・ケ・キシモス(一番、コンスタントな試合だったのは確か。全ての時間、ウチがやりたいプレーができた試合だった)」(シメオネ監督)というのも事実だったかと。

加えてヒメネスなど、「直近の4失点はそのうち3つがPKで、あと1つはカウンターだった。El trabajo defensivo ha sido igual de los partidos anteriores/エル・トラバッホ・デフェンシーボ・ア・シードー・イグアル・デ・ロス・パルティードス・アンテリオーレス(守備の仕事は前の試合と同じだったよ)」と言っていたものの、サビッチが戻ったことにより、4試合ぶりの無失点も達成できましたしね。ただ、それだけに怖いのが次戦、水曜午後9時(日本時間翌午前5時)からのCLリバプール戦で、ええ、サビッチの出場停止処分4試合の最後がこれに当たるんですよ。その上、負傷のリハビリ中のコンドグビアは微妙、レマルとマルコス・ジョレンテは間に合いませんしね。

「Hoy pensábamos que podíamos compensarlo con dos delanteros y un esfuerzo más colectivo/オイ・ペンサバモス・ケ・ポドリアモス・コンペンサル・コン・ドス・デランテーロス・イ・ウン・エスフエルソ・マス・コレクティボ(今日は2人のFWとより集団で努力することで補えると考えた)」シメオネ監督はまさに、ベティス戦では守備にも熱心なグリーズマンとコレアを使うことで成功していましたが、同じトリックが果たしてアンフィールドでも有効なのかどうか。何はともあれ、現在、ポルトと同じ勝ち点4でグループ2位の彼らだけにリバプール戦でどんな結果が出ても、決勝トーナメント進出はミランとポルトと対戦するラスト2節で争うことになりそうですね。

え、それで日曜に兄貴分の次の時間帯でプレーした最下位爆走中のもう1つの1部弟分、ヘタフェはどうだったのかって?いやあ、別に大雨を予想していた訳ではないんですが、いくらgoogle mapが車で20分ちょっとと言っていたって、ワンダからコリセウム・アルフォンソ・ペレスへの移動は大変そうだったため、その日の私は梯子をせずに直帰。近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)でエスパニョール戦の後半を見ることにしたんですが、メトロで移動中だった前半から、どうやらトルコ人FWのエネス・ウナルが大活躍していたよう。ええ、2本ぐらい惜しいシュートを放った後、31分にはCKからのプレーでコフィが落としたボールを一旦、胸でトラップすると、自作自演chilena(チレナ/オーバーヘッドシュート)で先制点を奪っているって、彼ってそんなに凄いテクニシャンだった?

それでも最寄り駅を出る頃はやはりCKから、元ヘタフェのカブレラのシュートはゴールポストに弾かれたものの、セルジ・ゴメスに決められて、同点に追いつかれていたヘタフェだったんですが、お店に入る直前だった後半11分、またしてもウナルがgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)を披露。今度はアレニャが敵DF陣の頭を越えるボールを送ると、落ちて来たところをワンタッチで蹴り込み、勝ち越し点を奪ってくれたとなれば、前節グラナダ戦の先制ゴールもありますしね。これはヘタフェにとうとう、頼りになる得点源が出現したと言っていいかと。

とはいえ、それ以上はゴールが生まれず、何せ、後半ロスタイム7分に2年前までのヘタフェの熟年エース、39才のホルヘ・モリーナに同点ヘッドを撃ち込まれ、グラナダに土壇場で1-1の引分けに持ち込まれた彼らですからね。すでにワンダからも、マドリッド中心部からも去った大雨が降りしきるコリセウムの芝の状態も心配でしたし、必死でリードを守るヘタフェの選手たちを私もドキドキしながら見守っていたんですが、とうとう後半45分が過ぎ、ロスタイムが電光板に。それが何と、「Cuando han añadido siete minutos no sabíamos ni que hacer/クアンドー・アン・アニャディードー・シエテ・ミヌートス・ノー・サビアモス・ニー・ケ・アセル(7分追加された時、自分たちは何をしたらいいのかもわからなかった)」と後でGKダビド・ソリアが告白していたように、まるで木曜のデジャブだったんですよ。

でも大丈夫、この日のヘタフェは雨にも負けず、応援してくれた4800人のファンに応えることができました。2-1のまま逃げ切って、12試合目にして、ようやく今季初勝利をゲット。ただし残念ながら、まだ最下位脱出はしておらず、折りしも月曜にはレバンテがグラナダに0-3と完敗したため、19位と同じ勝ち点にはなったんですけどね。残留ゾーン17位のカディスとの勝ち点差は3のため、日曜のビジャレアル戦でも積み増せれば、かなり前進できると思いますが、さて。

ちなみに相手は火曜にバルサ(ディナモ・キエフ戦)、セビージャ(リール戦)と共にCLヤング・ボーイズ戦をこなさないといけないため、休養という面ではヘタフェに分がありますが、まだビトロやヤンクトの負傷が治って、プレー可能になってくれるかは不明。「Teníamos un corazón muy roto, y la mezcla con las ganas ha generado una fuerza interior/テニアモス・ウン・コラソン・ムイ・ロトー、イ・ラ・メスクラ・コン・ラス・ガナス・ア・ヘネラードー・ウナ・フエルサ・インテリオル(ウチはかなりハートが破れた状態だったが、それと意欲のミックスが内面の力を生み出した)」と試合後、話していたキケ・サンチェス・フローレス監督も使える戦力が増えれば、今度こそ、上昇気運をつかむことができるかもしれませんね。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。