川島がアンバサダーを務める「グローバルアスリート英語サッカースクール」【写真:荒川祐史】

写真拡大 (全2枚)

川島がアンバサダーを務める「グローバルアスリート英語サッカースクール」とは

 今、異色のサッカースクールが脚光を浴びている。「グローバルアスリート英語サッカースクール」。関東で20校に展開しているスクールの最大の特徴は、すべて英語でレッスンを行うことだ。アンバサダーを務めているのは、ワールドカップ(W杯)3大会に出場した日本代表GK川島永嗣(ストラスブール)。海外3か国のリーグでプレー経験を持ち、実に7か国語を操り、日本人アスリートとして異端の才能を発揮する守護神だ。

 語学堪能な日本代表GKをアンバサダーにした英語サッカースクール。その肩書を聞くと、語学力にも競技力にも長け、未来のサッカーエリートを作りたい理念があると思いきや、実態は「サッカーだけをやりたい子は遠慮してもらう」という。しかし、生徒数は増え続け、開校4年で計500人を突破した。いったい、何がそこまで惹きつけるのか。「THE ANSWER」はスクールを運営する一般社団法人グローバルアスリートプロジェクト代表理事・田中隆祐氏に迫った。

 ◇ ◇ ◇

 吐く息も白い東京・神宮外苑の夜のフットサルコートにサッカーボールを蹴る音と、威勢のいい英語が響いていた。走り回っているのは、小さな子供たち。懸命にボールを追い、コーチが英語で指示を出す。このコートだけ、異文化が築き上げられている。そんな風景を眩しそうに見つめながら、川島を筆頭に多くのプロアスリートのマネジメントを手掛けてきた田中氏は「型破り」を自称するサッカースクールを設立させた経緯について語り始めた。

「川島が10年に海外移籍する時、各国のエージェントの売り込むと『その日本人のGKは何か国語、喋れるんだ』と聞かれた。川島は当時、すでに英語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語を話せた。それが答えられなかったら、今でも彼はJリーグでプレーしていたと思う。その時に外国語ができないと海外移籍のチャンスすらないと感じた。僕がマネジメントしていた選手はほかにすでに海外に出ていたので、どんな苦労があるのか聞いてみると、苦労も何も『そもそも外国語ができないとプレーできない』と。

 選手のマネジメントを10年以上やってきたけど、実は選手のサポート以上に大事なことがあると思った。今の子供たちはJリーグ、プロ野球で活躍するより、海外サッカー、メジャーリーグに夢を描く子が多い。だったら、語学を勉強しないといけない。最初は『グローバルアスリートプロジェクト』という企画を立ち上げて海外挑戦する日本人選手の語学サポートを始めた。まずは語学から。語学教材の会社がスポンサーになって無償提供して勉強してもらう。選手サポートの一環がきっかけだった」

 実際にサポートした200人以上の選手と話し、共通していたのが「子供の頃に英語の勉強しておけば良かった」と誰もが言うこと。なぜ、日本人は英語が喋れないのか。興味を持ち始め、「英語は全然ダメだった」という田中氏自身も一から勉強。語学学校に通い、あらゆる参考書をやり尽くした。しかし、年に7、8回の海外出張で簡単なコミュニケーションは取れるようになっても、ビジネス英語のレベルに到達するのは困難だった。その過程で、日本の英語教育の問題を感じるようになった。

「どうやったら日本人が英語を喋れるようになるのか。机の上の勉強はやっても伸びない。だって、今の大人世代は中学から英語を習い始め、受験勉強して高校、大学もあるし、10年間は英語に触れることができるのに、それだけじゃ喋れないのが現実。サッカーを10年間習ってリフティング3回しかできなったら大変なこと。算数の授業を10年間受けて九九を覚えられなかったら先生もクビになる。でも、英語の先生は喋れるようにさせてくれない。喋れるようにさせないと意味ないんじゃないかと」

英語で学ぶサッカースクールではなく、サッカーで学ぶ英語スクール

 こうした思いが募って14年に立ち上げたのが「グローバルアスリート英語サッカースクール」だ。田中氏も勉強嫌いで5分と椅子に座っていられず、スポーツなら3、4時間でもやっていられるスポーツ少年だった。大学時代にサマーキャンプで1週間、海外に滞在し、スポーツを通して現地の学生と一緒にスポーツすると英語は分からなくても、グラウンド内でコミュニケーションを取れるようになった。「英語しか喋れない環境なら子供たちはマスターするんじゃないか」と感じ、スポーツと英語学習を融合させることを考えた。

「ここはサッカースクールだけど、プロのサッカー選手を作ること、第2の川島永嗣を輩出することが目的じゃない。川島永嗣のようなグローバルな日本人を作りたい、ということ。サッカーは頑張っても、ほとんどの人はプロ選手になれない。なったとしても、川島のような日本代表レベルになるのは0.00何%の世界。でも語学があれば、可能性は広がる。僕らがやっているのはスポーツをツールに英語を学ぶ。サッカーが目的じゃなく、スポーツを通して英語を学ぶ。英会話教室で学ぶようなことをやるということ」

 英語で学ぶサッカースクールではなく、サッカーで学ぶ英語スクール。川島がアンバサダーを務めていることで誤解されることもあるが、スクールの本質は英語だ。「そこが一番の特徴」と田中氏は言い、川島とも理念は共通している。だから、サッカーだけをやりたい子供には保護者に理解してもらい、遠慮してもらうこともある。一方、川島はオフを利用し、年に1度、生徒との交流会に参加。子供たちにとって大きな刺激になる。スクールの理想となる川島のグローバル性について、田中氏はこう話す。

「僕がマネジメントしてきた選手に共通するのはグラウンドから離れた時の社会性。スポーツ以外であっても、しっかりと社会人として会話をすることができる。グラウンド内はもちろん、それ以外の場所の質が圧倒的に違う。川島は特にそこがずば抜けている。出会った22歳の頃からそうだったけど、どんどん成熟されてきている。だから、この場所では彼のように、人間性の人間を増やしたい。社会性やインテリジェンスがあり、語学力もあってグローバルに活躍できる日本人に」

 では、実際にどんな指導が行われているのか。生徒は3歳〜年少、年中〜年長、小学生の3クラスに分かれ、週1回、各60分の授業が行われる。コーチは全員、英語が話せるサッカー経験者。サッカースクールでは珍しく、正社員採用している。その代わり、スクールの営業活動など、コーチ自ら主体となって動き、責任を与えることで指導の質も上がっていく。コーチスタッフのクオリティは絶対の自信を持ち、ただのサッカーコーチより英語教育や幼児教育などの教育に携わりたいというスタッフが集まっている。何よりも肝心なのは、英語の指導。技術指導ではなく、コミュニケーションがメインとなる。田中氏が狙いを明かす。

「観光旅行で必要になるものの大抵は“要求”。マクドナルドでハンバーガーを注文したかったら『Can I have a hamburger please?』と言う。子供たちがサッカーをやるのも一緒。ボールが欲しいとか、GKをやりたいとか。『Can I have a ball please?』『I wanna be goalkeeper』みたいな感じ。これを『ボール』を『ハンバーガー』に変えればいい。そういう日常的に街で使えるものをグラウンドの中で教えていく。コーチも全部、英語。行動を指示されるので言われたことに反応しないといけない」

 例えば、コーチから「Go to the right!」「Get your soccerball!」と言われたら、それに適切な行動を取らないとレッスンは進まない。できたら「Goodjob!」と褒められ、自分の行動が正しかったと理解できる。リアクションを求められることが少ない、学校の英語授業とは異なる。しかも、スポンジのように吸収する子供だからこそ、指導の価値は高い。コーチたち自身も子供の成長に驚きを与えられることの連続という。

「楽しく、好きに、夢中にさせる。あとは勝手にうまくなる」

「英語を勉強している感覚はこの子たちに一切ない。でも、物凄い量の英語のシャワーを浴びているので、気づいたら理解している。理解しないと動けないから。凄いと思うのは大人でも答えられないだろうと思う質問によどみなく反応したり。性格も驚くくらいに変わる。他のサッカースクールと違うのは子供側が話す量が多いこと。普通のサッカースクールで話すのは指導者ばかり。うちは子供側が言葉を発しないとプレーを進めない。そういうところから積極性は身に付いていく」

 開校から4年で関東で20校。生徒は500人を超えるまでに成長した。こうした評判を聞きつけ、無料体験を希望する子供と保護者が絶えない。「サッカーだけをやれるスクールはごまんとある。だから、ここではサッカーやらせたいお父さん、英語を習わせたいお母さんの思いが合わさって来ることがある」と明かす。まだ開校から4年。反響が広がっていく異端の英語スクールは、どんなゴールを描き、今後展開していくのか。

「究極は“スポーツインターナショナルスクール”になっていくこと。そして、この子たちが10、20年後に大学を卒業してコーチで帰ってきてほしい。サッカー選手になって活躍するよりも高校、大学で留学してアップル本社に入社したとか、グローバルな人間が生まれてくれるとうれしい。僕自身も英語で苦労したので、同じような苦労をしてほしくない。ここがきっかけで英語を使った仕事をしたり、グローバルに活躍したりしてくれたらうれしい」

 サッカースクールと英語教育に一石を投じる取り組みでもある。田中氏もサッカーと英語を通して“人を育てる”思いも熱い。

「川島は語学の天才でしょ、他の人とは違うからと思われるけど、彼は親も日本人で公立中学高校出身。学生時代に留学経験もないし、帰国子女でもない。自分の努力次第で7か国語くらい喋れる。逆に彼がやったのは毎日休まずに語学の勉強を10年続けるという行動。大抵の人はできないけど、彼はできる。努力を努力と思わないで継続できる能力を持っている。何かスペシャルなことをしたかというとそう思わないけど、凡人からしたらスペシャルなことやっている。

 サッカーも英語も継続すれば最低限のレベルまで行く。普通のサッカースクールは巧い子ばかりに指導の対象も偏ってしまうもの。でも、この場所には巧い子はいらない。この年代、技術指導なんてどうだっていいよねと思っている。それより楽しくやることが大事。英語の勉強は続かない仕組みだから、うまくならないけど、続ければうまくなる。まずは楽しく、好きにさせる、夢中にさせる。あとは勝手にうまくなるよね、と思っているので」(THE ANSWER編集部)