【歳川 隆雄】ホントはやらないはずだったのに…経産省がソフトバンクなどと組んで「国産AI」にチャレンジすることになった裏事情
米金融大手がソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長に接近している。なかでもJPモルガン・チェースはみずほ銀行を抜いて、SBGへの融資額でトップに躍り出た。こうした融資を集めつつ、孫氏はAI・半導体関連のプロジェクトでアドバルーンを上げ続けている。
前編記事『みずほ銀行を抜いて首位に躍り出た!対米投資目当て?ソフトバンクグループに巨額を貸し込むJPモルガンの思惑』より続く。
「ホラ吹き」が一変
孫氏のビジネス手法にかつて煮え湯を飲まされてきた経済産業省は一時期、同氏を「ホラ吹き」呼ばわりしていた。だが、ここに来て一変した。それが、経済産業省(藤木俊光事務次官)主導の「国産AI連合」の誕生である。
〈国産の人工知能(AI)基盤の実現へ官民プロジェクトが動き出す。経産省は30日、最大1兆円規模の支援事業の対象にソフトバンクなどの企業連合を選んだと発表した。米中がAI開発で先行するなか、技術主権の確立を狙う〉(日経新聞7月1日付朝刊記事のリード全文)
記事冒頭に言及されたように、AI開発の基盤はSBG傘下のソフトバンクとホンダ、NECとソニーグループの4社を中核に設立された会社「Noetra(ノエトラ、旧日本AI基盤モデル開発)」と、同省が所管する産業技術総合研究所(産総研)が共同で手掛ける。Noetraへの出資企業は日立、富士通、日鉄、川重工、村田製作所、3メガバンクなど44社に及ぶ。
そもそも国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業」に採択されたので、1兆円の予算が付いた。まさにオールジャパンなのだ。
それは、ほんの7週間前のことだ。これまた日経新聞(6月9日付朝刊)である。同紙4面の政治・外交欄に「AI『純国産は非現実的』―自民が提言、製造業や医療に集中促す」の見出しを掲げて、〈…自民党デジタル社会推進本部AI・Web3小委員会(平将明委員長)が、あらゆる領域で「純国産」を目指す従来戦略の再考を求めた〉と報じているのだ。
「ラピダス」と一緒
この記事にもあるように、日本は米中から周回遅れどころか逆立ちしても追いつけないから、間違ってもキャッチアップなんて口にするな――というのが、これまでのAI関係者の共有する認識だったはずでは? と、筆者は声を大にして問いたい。
いや、それでは自身の知見の無さを披歴するだけだ。最後はファクト・ベース。これで分かるはず。経産省商務情報政策局(野原論局長・1991年旧通産省)内に「チーム奥家」と呼ぶべき強者たちがいる。
メンバーは、奥家敏和同局審議官(95年)をヘッドに、金指壽同局総務課長(98年)、渡辺琢也情報技術利用促進課長併デジタル経済安全保障企画調整官併AI産業戦略室長(04年)、南部友成情報産業課長併高度情報通信技術産業戦略室長(02年)である。
金指、渡辺両氏は東京大工学部卒業の技官採用。南部氏は昨年までJETROニューヨーク事務所産業調査員(奥家氏もNY産業調査員を歴任)。
彼ら「チーム奥家」が、Noetraの社長となった丹波廣寅SBG執行役常務を始め民間企業各社のエンジニア・専門家から産総研の研究者、さらには海外で「AIのゴッドファーザー」とされる著名なコンピューター学者と交渉を重ね、このプロジェクト参画に同意を得たという。
最先端の学術研究と基盤モデル開発への貢献者は少なくない。密かに進めてきた同プロジェクトが花咲くことを期待したい。
筆者にレクしてくれた経産省中堅の秀逸な幹部は最後に小声で言った。
「このプロジェクトにはもちろん、リスクはある。懸案のラピダスも同じです。要は、Nothing ventured, nothing gained.(果敢に挑まなければ、何も得られない)ですから」
得心しました。
さらにソフトバンクグループの孫正義氏は米国でデータセンターへの巨額投資も表明している。あわせて読みたい。『今回ばかりは様子が違う? ソフトバンク・孫正義会長がぶち上げた米データセンター80兆円投資の本気度』
【はじめから読む】みずほ銀行を抜いて首位に躍り出た!対米投資目当て?ソフトバンクグループに巨額を貸し込むJPモルガンの思惑

