日本人のパスポート保有率「2割以下」――世界で変わる海外渡航の“ルール”
夏休みを前に、全国各地のパスポートセンターには多くの申請希望者が訪れていた。そのワケは、7月から始まったパスポートの申請手数料の引き下げだ。政府はパスポート保有率を高め、海外渡航の回復を後押ししたい考えだ。そんな中、世界では今、“電子渡航認証の導入”など入国管理を見直す動きが広がっている。
(NNNバンコク支局 小島陸)
■パスポート「値下げ」で申請が急増
政府は7月1日からパスポートの申請手数料を最大7000円引き下げた。手数料の引き下げを受けて、初日から全国各地のパスポートセンターの窓口には申請希望者の列が出来ていた。外務省によると、この混雑によって申請から交付まで通常よりも倍の約1か月かかる見込みだという。
日本のパスポートは世界188の国と地域に事前ビザ(査証)なしで渡航でき、世界でもトップクラスの利便性を誇る。ビザ取得に数週間から数か月を要する国も少なくない中で、費用や時間を節約して海外渡航できる点は大きなメリットともいえる。
こうした利便性を持つ日本のパスポートだが、近年、日本人の取得率は低迷している。
■パスポート保有率は「2割以下」
日本は今、「国民の海外離れ」という大きな問題に直面している。国土交通省が発表した2025年の1年間の外国人入国者数および日本人出国者数のデータによると、日本を訪れた外国人観光客の数は過去最高を記録した一方で、日本人の海外渡航者数はいまだコロナ禍前の数値まで回復していない。また外務省によると、2025年末時点での日本人のパスポート保有率は約18.9%と、2割以下にとどまっている。アメリカでは約半数がパスポートを保有しているなど、他の主要国と比べても低水準にある。
背景には、近年の円安や海外に対する安全への懸念があるとみられている。対ドルの為替は歴史的な円安水準を記録し、航空運賃に上乗せされる燃油サーチャージの値上げが続くなど海外旅行にかかる費用が以前よりも高くなった。加えて、国民の「国内志向」も要因の1つに挙げられる。国土交通省によると、2025年の日本人の国内旅行消費額は26兆7845億円にのぼり、過去最高値を記録した。
こうした状況を受け、政府は今回の手数料引き下げを通じてパスポート保有率の向上と海外渡航の回復を後押ししたい考えだ。
■世界で変わる“ビザ免除のカタチ”
一方、世界では今、外国人旅行者に対する入国管理を見直す動きが広がっている。EU(ヨーロッパ連合)では今年後半を目標に電子渡航認証制度「ETIAS」を30か国で導入する予定だ。電子渡航認証制度とは、ビザ(査証)が免除されている国と地域に対し、渡航前にオンライン上での申請が必要となるもので、すでにアメリカやカナダ、オーストラリアで導入されている。イギリスでも今年2月から電子渡航認証制度「ETA」の対象国を、ビザが免除されているほぼ全ての国へと拡大した(日本人は2025年1月から対象)。
申請の際には渡航目的や滞在先など基本情報のほかに、国によってはこれまでの犯罪歴や伝染病の病歴を記載する必要もあり、その内容をもとに政府機関が審査を行う。航空会社によっては「承認が確認できない渡航者の搭乗を許可しない」など厳格な措置も講じている。
制度導入の目的には、不法滞在や水際対策など安全保障の強化と、データ管理による入国審査の待ち時間の短縮がある。しかし、その多くはビザ(査証)と同様に申請に時間と費用が発生する。たとえ「ビザ免除国」であったとしても、以前のようにパスポートだけで渡航できる時代ではなくなりつつあるのだ。
■タイも「量より質」の観光政策へ

また東南アジアでは、入国時の「出入国カード」をデジタル化にする国が増えていて、これまで問題視されていたセキュリティー対策の強化と入国手続きの効率化を図る狙いがある。さらに日本人も毎年多く訪れる観光立国・タイでは、今年からビザ免除制度の大幅な改変が行われる。
タイ政府は2024年、新型コロナウイルスで落ち込んだ観光業の回復などを目的として93の国と地域を対象にビザ免除での滞在期間を「30日」から「60日」に延長した。しかし、この緩和措置を悪用した不法就労や国際犯罪が問題となり、タイ政府は制度の見直しを決定した。
新制度では各国を複数のカテゴリーに分類し、それぞれ異なるビザ免除期間を設定する方針としていて、日本人のビザ免除滞在期間は「30日」に戻される予定だ。また、入国審査では渡航目的や滞在計画などの確認をこれまで以上に厳格に行うとしている。タイ政府は今後、単に観光客数を増やすだけでなく、本来の観光目的で訪れる「質の高い観光客」を重視する姿勢を打ち出していて、安全保障と観光振興の両立を目指している。
このように今、世界では入国管理に対する見直しの動きが広がっている。
■日本も2028年度に「JESTA」導入へ
日本でも2028年度を目標に、電子渡航認証制度「JESTA」を導入する予定だ。不法滞在者やテロリストへの対策など安全保障の強化に加え、日本渡航後のスムーズな入国審査による待ち時間の大幅な削減を期待しての措置としている。
また、政府は2030年までに訪日外国人旅行者数を6000万人とする目標を掲げていて、急増する訪日外国人旅行客をシステムで管理することで効率的な入国管理を可能にし、安全で円滑な入国を目指している。
■海外渡航は新たな時代へ…
「ビザ免除制度」は面倒な書類の準備を必要とせず、気軽に旅行を決められる「利便性」を実現することを目的としている。しかし今、世界で進んでいる入国管理の動きはセキュリティー対策などと引き換えにその利便性を失いつつある。
海外渡航を取り巻く環境が大きく変わる中、今回のパスポート値下げが日本人の海外渡航を後押しするきっかけとなるのか。その効果が注目される。
