「無名」ブランドから躍進 BYDが自動車業界の根本を変える ボノ・ゲ氏:英国リーダー賞 #AUTOCARアワード2026
飛躍を遂げたBYDの英国事業
英国の自動車業界ウォッチャーの中には、中国の大手自動車メーカーが英国市場で急速に躍進していることを、他社よりも低価格で先進的なクルマを販売できる能力に支えられた、いわば「努力をせず一夜にして成し遂げられた成功(unearned overnight success)」と見なす傾向がある。
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この見方には一理ある。何よりも、数十年前から中国政府が世界の電動車市場が将来覇権を握ることになると認識し、国内企業を成功させるための環境を整えてきたことが挙げられる。しかし、この壮大な野望に向けて中国自動車メーカーが最近示している目覚ましい進歩の裏には、長年にわたる汗と苦労、挫折、失敗、過ち、そして行き止まりと、数々の困難があった。

BYD英国部門を率いるボノ・ゲ氏
多くの中国メーカーの中でも最も注目を集めているのが、テスラを凌いだBYDだ。
こうした飛躍には何が必要なのか。それを如実に物語っているのが、BYDの英国部門責任者であるボノ・ゲ氏の経歴だ。彼は昨年9月、英国が中国以外でBYD製品にとって最大の市場になったと誇らしげに発表した。2011年にBYD UKを設立したボノ・ゲ氏は、当時について「クルマについては何も知りませんでした」と明るく振り返っている。
年間10万台規模も目の前?
昨年、同社は英国で5万台強を販売したが、これは2024年の販売台数の約6倍に相当する。ボノ・ゲ氏は2026年の見通しについてはあえて予測を避けているが、間もなく登場する6車種の新モデル(普及向けブランドのBYDと高級ブランドのデンツァの両方)を考慮すれば、遅くとも2027年までには販売台数が6桁台に達すると予想されている。その段階になれば、トヨタを追い抜き、ヒョンデやキアといった韓国企業に肉薄し、フォードやBMWと真っ向から勝負することになるだろう。
ボノ・ゲ氏は2008年に大学を卒業してすぐにBYDに入社し、当時は主力事業であったバッテリーやバスの事業に携わっていた。その後、海外展開のために採用された12人の若手新卒者からなるタスクフォースの一員として、欧州へ赴任した。

BYDアット3エボ
彼らはバッテリーとバス事業で成功を収めた(現在、ロンドン交通局は約2800台のBYD製電動バスを運行している)。しかし、2013年にタクシー会社グリーン・トマトと提携して『E6』という平凡なEVを投入しようと試みたものの、プロジェクトが本格的に始動する前に中止されてしまった。
ボノ・ゲ氏は欧州各地でエネルギー貯蔵システムの事業に携わっていたが、電動化への関心の高まりを受け、BYDが英国での自動車販売を本格化させることになり、再びこの地へ戻った。
オープンマインドの英国消費者
最初に試みたのは、スペインのテストコースにさまざまなBYD車を持ち込み、ディーラー(特にディーラーグループの責任者)を招待して試乗してもらうことだった。反応はおおむね好意的だったが、学ぶべきことが山ほどあることに気づいた。まず流通や規制対応が複雑な課題として立ちはだかった。また欧州の消費者は、後部座席が広すぎ、トランクスペースが狭すぎると感じた。中国人が慣れ親しんでいるデジタル機能にも戸惑いの声が上がった。設計改良が必要だった。
欧州は単一の市場ではなく、最大30もの販売地域に分かれており、クルマの仕様も地域ごとに変える必要があった。国によっても需要は異なっていた。ディーラーは、BYDがどのようにブランドを構築していくのかを知りたがっていた。

BYDドルフィン
「BYDは、誰も聞いたことのない最大のブランドでした」とボノ・ゲ氏は振り返る。
「テレビCMも少し流しましたが、何よりもまず、見つけられる限りのデータを収集することに注力しました。また、有益なアドバイスに耳を傾けるよう努めました」
ボノ・ゲ氏によると、周囲からは「英国市場は欧州で最もオープンだ」と繰り返し言われていたが、実際その通りだったという。
「英国に来てみると、多くのアジア企業がここに本社を構えていることに気づきました。その理由は明らかでした。消費者はオープンマインドで、新しいものに興味を持ち、コストパフォーマンスに魅力を感じています。ドイツやフランスではそう簡単にはいきません」
大きな期待が寄せられるデンツァ
BYDの英国事業は過去3年間で爆発的な拡大を見せているが、ボノ・ゲ氏はまだ改善の余地がかなりあると感じている。130か所あるディーラーネットワークは、より迅速に拡大する必要があるのだ。ボノ・ゲ氏と、中国国外のBYD事業全体を統括する上司のステラ・リー氏は、今年末までに英国国内で160か所のディーラー網を整備することを目指している。
「とはいえ、適切なストーリーを伝えることは、かなりうまくやれたと思います。人々はわたし達をテクノロジーブランドとして認識してくれています」

デンツァZ9 GT
これからも多くの課題が待ち受けている。最も重要な課題の1つは、高級車ブランドのデンツァ(騰勢)の立ち上げだ。ポルシェ・タイカンと競合する『Z9 GT』はデビューを間近に控えており、今年中にさらに2車種が追加される可能性もある。
ボノ・ゲ氏によれば、デンツァはBYDにとって、フォルクスワーゲンにおけるアウディのような存在であり、その販売台数は相当な規模になる可能性があるという。さらに、その先には別の高級車ブランド、ヤンワン(仰望)の展開も視野に入っているが、2026年に同ブランドが英国市場に投入されるかどうかは現時点では不明だ。
欧州ブランドの「敵」なのか
1つ確かなのは、好むと好まざるとにかかわらず、BYDとそのきょうだいブランドが英国の自動車業界の様相を根本から変えつつあるということだ。
筆者はボノ・ゲ氏に、デリケートな質問を投げかけた。愛され続けてきた欧州ブランドの将来を覆す存在、いわば「敵」のような存在として見なされていることについて、どう思うか、と。

BYDは英国をはじめ、欧州各地域で事業を拡大している。
彼はため息をついた。明らかに、この件について問われるのは今回が初めてではないようだ。「今日、わたし達は非常にダイナミックなグローバル市場に生きています」と彼は言う。
「市場は常に姿形を変え続けており、次の変化を予期しなければなりません。50年前に戻ることはできません。それではうまくいかないでしょう。それに、英国の人々はオープンマインドで、自由市場を好んでいます。当社の製品は最も安いわけではありませんが、コストパフォーマンスは抜群です。選ぶのはお客様次第です」
(翻訳者注釈:毎年恒例のAUTOCARアワードで、英国の傑出したリーダーに贈られる「アウトスタンディング・リーダー賞2026」にBYD UKのボノ・ゲ氏が選ばれました。本稿はその受賞に際して行われたインタビューの内容をまとめたものです。)

