愛知県の鉱山から新鉱物「堀石」を発見…『楽しい鉱物図鑑』の著者・堀秀道氏の名を冠する鉱物が教えてくれる「鉱物の不思議」

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地面を構成する岩石は、最小単位まで分解すると「鉱物」という純物質にたどり着きます。鉱物は全世界で6000種以上発見されており、そのうちの160種以上の鉱物は日本で発見されています。このように、現在でも新種の鉱物「新鉱物」は発見され続けています。

東京大学物性研究所の浜根大輔氏などの研究チームは、愛知県北設楽郡設楽町にある田口鉱山の標本から新鉱物を発見したと報告しました。新鉱物は「堀石 (Horiite / ほりせき)」と命名され、その名称はIMA (国際鉱物学連合) の承認を受けました。この名は、鉱物学者の堀秀道氏 (1934-2019) に対する献名となっています。

堀氏は、日本の鉱物学の発展と普及に尽力したことで知られており、『楽しい鉱物図鑑』などの著書、テレビ番組等への出演などを通じて、一般の方へ鉱物の普及活動をしたことでも知られており、堀氏の名前を冠した鉱物の命名は話題となっています。

この記事では、基本となる部分を振り返りながら、堀石の性質と発見にまつわる背景について解説します。

(※…本記事における画像のうち、図1、図3、図5には、CC BY-NC-SA 4.0 (表示-非営利-継承) ライセンスで公開されている画像が含まれます。これらは東京大学物性研究所の許可を得て使用・改変しています。)

鉱物とは何か

まずは堀石の解説に入る前に、鉱物という用語について軽く解説します。

「鉱物」という用語の定義を簡単に言えば「生物が作らない天然物のうち、一定の化学組成と結晶構造を持つ物質」となります。例えば、サンゴや真珠は生物が作るので鉱物ではありませんし、人工物も鉱物とは呼びません。また、鉱物という用語は、よく「岩石」「鉱石」「宝石」と混同されますが、それぞれ以下のような違いがあります。

・岩石: 数種類の鉱物が集まった混合物。鉱物は純物質と言える。

・鉱石: 主に岩石のうち、経済的な価値を持つ資源を含むもの。経済用語。

・宝石: 希少性が高く美しい外観を持つ物質。鉱物とは限らない。

鉱物は化学組成と結晶構造を示せば1種類の化学物質として定義可能であるため、鉱物には種類という概念があります。このため、これまで天然環境では知られていなかった化学物質を発見し、それが鉱物に当てはまることを示すことができれば、新鉱物として提唱することができます。新鉱物を発見した場合は、その鉱物が新種であることを示す科学的な分析データと、その鉱物に付けたい名前をIMAに提出し、所定の審査を経て認定される必要があります。認定された場合、その鉱物は新鉱物として認められます。

余談ですが、鉱物を種類として分ける歴史はかなり古く、分類学の父と呼ばれるカール・フォン・リンネに遡ります。リンネは博物学の観点から、自然界を動物界・植物界・鉱物界の3界に分け、生物と同じように種を定めたという経緯があります。また詳細は後述しますが、生物には種の上に属や科があるように、鉱物にも族や超族というグループ分けがあります。

堀石はどのように “発見” された?

今回、東京大学物性研究所の浜根大輔氏などが見出した新鉱物は「堀石」と名付けられています。この名は、鉱物学者の堀秀道氏に対する献名となっています。

堀氏は欽一石 (Kinichilite) 、ストロナルシ石 (Stronalsite) 、アンモニオ白榴石 (Ammonioleucite) 、イットリウム岩代石 (Iwashiroite-(Y)) 、田野畑石 (Tanohataite) の5種類の新鉱物の発見に関わっています。また、鉱物同志会の設立、東京国際ミネラルフェアの開催、『楽しい鉱物図鑑』などの書籍、『開運!なんでも鑑定団』などのテレビ番組での石の鑑定士としての出演など、鉱物を一般に普及することに尽力したことでも知られています。

このような人物である堀氏の献名となった堀石ですが、これは少し変わった経緯で発見に至っています。というのは、堀石は新鉱物と気づかれるまで、実際には “発見済み” だったからです。

愛知県北設楽郡設楽町にある田口鉱山は、マンガンの鉱山として知られています。外見は真っ黒な石ですが、中を割るとピンク色の薔薇輝石や、紅色の結晶のパイロクスマンガン石が現れます。特に田口鉱山のパイロクスマンガン石はきれいな結晶がよく見られることで知られています。

一方で、暗緑色の角閃石 (ヤルマー閃石) の間にある黄褐色の結晶も注目を集めていました。これは「吉村石 (Yoshimuraite)」であり、1961年に新鉱物として登録されたものです。吉村石が最初に発見されたのは岩手県ですが、田口鉱山の吉村石はその2年後に発見され、田口鉱山の標本で詳しい化学組成や結晶構造が分析されたという経緯があります。

その後、鉱物愛好家の中で徐々に、角閃石と一緒に出てこない、薔薇輝石中の “吉村石” の産出が報告されるようになりました。そして1985年、これは吉村石とは別の鉱物であるという分析結果が学会発表されました。この分析を行った研究チームの筆頭が、後に堀石の名前となった堀秀道氏です。

当時の学会発表の要旨から、堀氏らは、この鉱物をバフェルチ石 (Bafertisite) という鉱物の成分違いであると分析し、新鉱物として申請することを検討していたことが窺えます。もし申請していれば、この鉱物は産地に因んで “田口石” となっていた可能性があります。しかし詳細は不明ながら、結局のところ申請は行われませんでした。そしてこの種類の鉱物は、別の研究チームが1989年にザンビアの標本を基準として申請後、新鉱物として承認され、「ヘイトマン石 (Hejtmanite)」と名付けられました。

しかし、この話はここで終わりませんでした。堀氏は “田口石” =ヘイトマン石とは別の、未知の鉱物があることに気付いていたのです。この話は、鉱物研究家の井上真治氏へと伝っていました。井上氏は、堀氏が設立した鉱物科学研究所で長年活動した門下生でもあります。そして2024年11月、井上氏が浜根氏に対し、田口鉱山の褐色の鉱物の同定を依頼したことをきっかけに、本格的な分析が開始されました。

この黄褐色の鉱物は、一見するとヘイトマン石のように見えます。しかし透過電子顕微鏡、ラマン分光法、電子マイクロプローブ分析などを通じて多角的に分析することで、これはヘイトマン石ではない未知の鉱物であることが判明しました。まさに、堀氏が指摘した未知の鉱物がそこにあったことを科学的に裏付けたのです。

この新鉱物は、分析を依頼した井上氏によって「堀石 (Horiite)」という名称が提案されました。分析結果と名称をIMAに申請した結果、2025年8月14日付のニュースレターにて、この鉱物が新鉱物の堀石であると承認されたことが発表されました。堀氏への献名であるのは、堀氏に対する感謝や敬意と共に、これが未知の鉱物であることを見抜いていた先見性も理由の1つとなっています。

堀石が教えてくれる「鉱物の世界の奥深さ」

改めて、堀石についてもう少し深掘りしましょう。

堀石は黄褐色の光沢がある半透明板状結晶であり、石英の中に埋まっています。個々の結晶は最大で長さ0.3mm×幅0.1mm×厚さ0.02mmほどあります。

Ba2Mn2Mn4Ti2(Si2O7)2(PO4)2O2(OH)2という化学組成を持ち、セイドゼル石超族のバフェルチ石族に分類されます。鉱物の族や超族とは、生物の属や科と似たような概念であると考えてください。

先ほど名前が出てきた吉村石やヘイトマン石は、堀石と同じバフェルチ石族に分類されます。お互いに見た目が似ているのは偶然ではなく、化学組成や結晶構造がお互いに似ていることも関係しています。ただ、3者を見比べてみると、堀石とヘイトマン石はほとんど区別がつかないほど似ているのに対し、吉村石はヘイトマン石と比べれば比較的簡単に区別がつきます。実際、堀石とヘイトマン石の結晶がお互い並行して並んでいる場合もあり、実質的に混ざり合っているような標本もあります。

しかし興味深いことに、化学組成や結晶構造の類似性で比較すると、堀石と近いのは吉村石です。堀石とヘイトマン石を比べてみると、同じ族に属するとはいえ、原子レベルではそれなりに違いがあります。一方で堀石と吉村石は原子レベルではお互いに似ているにも関わらず、見た目は比較的区別が付きます。

堀石などの結晶構造は、たとえて言うならばサンドイッチに似ています。サンドイッチは様々な組み合わせの具をパンにはさみ込むことで種類が決まると言えばイメージしやすいでしょうか。このたとえで行くならば、堀石は “ベーコン・レタス・トマトを食パンで挟んだもの” 、吉村石は “ベーコンとレタスを食パンで挟んだもの” くらいの違いなのに対し、ヘイトマン石は “ハムを全粒粉パンで挟んだもの” くらいの違いがあります。

こう聞けば、堀石と吉村石の見た目が似ていないのに対し、ヘイトマン石とは見た目が似ているというのが不思議であるという意見も理解できるかと思います。堀石は、鉱物の世界の奥深さの一端を見せている事例だと言えるでしょう。

堀石の原産地である田口鉱山は立ち入り禁止であり、現在は採集することができません。しかし、田口鉱山の標本は市場に出回っているため、堀石を含む標本もあるかもしれません。ただし先述の通り、肉眼での確実な判定は実質的に不可能であるため、確実な同定には分析を行うしかありません。

なお、今回の堀石の詳細はJournal of Mineralogical and Petrological Sciences誌に掲載されている他、2026年9月26日に開催される日本鉱物科学会年会の一般普及講演会でも取り上げられます。

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【参考文献】

・Ferdinando Bosi, et al. “IMA Commission on New Minerals, Nomenclature and Classification (CNMNC) - Newsletter 86”. European Journal of Mineralogy, 2025; 37 (4) 549-553. DOI: 10.5194/ejm-37-549-2025

・Daisuke NISHIO-HAMANE, et al. “Horiite, Ba2Mn2Mn4Ti2(Si2O7)2(PO4)2O2(OH)2, a new mineral of bafertisite group in seidozerite supergroup, from the Taguchi mine, Aichi Prefecture, Japan”. Journal of Mineralogical and Petrological Sciences, 2026; 121 (1) 260301. DOI: 10.2465/jmps.260301

・“愛知県田口鉱山から新鉱物・堀石(Horiite)を発見 ー日本の鉱物学を支えた堀秀道博士への献名ー”. (Jun 16, 2026) 東京大学物性研究所.

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