2026年北中米W杯。怪我で主力を欠き、決して万全とは言えない台所事情でありながらも、日本代表は1勝2分でグループステージの突破を決めた。

【画像】「サッカーよりも少子高齢化が大事ですもんね」「こちらも試合開始できるように頑張ります」…ブラジル戦の裏でナンパに熱を出す!? 渋谷に集う“日本代表サポーターの実情”に迫った写真を一気に見る

 3大会連続で決勝トーナメントに進出したのは、フランス、クロアチア、イングランド、スペイン、ポルトガル、スイス、ブラジル、アルゼンチン、そして日本のわずか9ヵ国のみである。日本はもはや、一過性ではなく、国際舞台において磐石な戦力を長期的に維持できる国に成熟したといっても過言ではないのかもしれない。他国のメディアからも、今大会の日本代表は不気味なダークホースとして確かな注目を集めていた。

深夜の渋谷に渦巻く異様な熱気

 そんな日本代表を、決勝トーナメント初戦という最高の舞台で待ち構えることになったのは、他でもないサッカー大国・ブラジルだった。世界最高峰の戦術眼を持つ監督、そして圧倒的な個の力を擁する優勝候補の一角。悲願である初のベスト8、そしてその先の「優勝」を目指す日本代表にとって、これ以上ないほど巨大で、残酷な壁が立ちはだかったかっこうである。

 それでも、2025年10月14日に行われた親善試合で日本が3-2でブラジルに歴史的な勝利を収めた記憶は新しい。そのこともあってか、決戦を控えた戦前の空気は、決してネガティブなものではなかった。

 深夜の渋谷に続々と集結する人たちからも、悲壮感や暗い雰囲気は一切感じられない。むしろ、異様なほど明るく、狂乱という言葉がぴったり似合う人たちがひしめき合う状況だった。

無法地帯と化した深夜1時のスクランブル交差点

 試合当日、深夜1時の渋谷。スクランブル交差点に近づくにつれ、地鳴りのような声と喧騒が大きくなってくる。試合開始前の時点ではまだ警察による厳密な交通規制が敷かれておらず、スクランブル交差点は無法地帯状態と化していた。


騒擾を楽しむ人々

「ジェットコースター乗るときくらいドキドキする!」

「でも、行くべ、行くべ?」

「うおー!」

 信号が青に変わるやいなや、叫びながら横断歩道を疾走し、中央付近では人が巨大な群れになり、飛び跳ねながら声にならない雄叫びを上げる。ただまっすぐ対岸へ道を渡ろうとするだけでも、後ろから猛ダッシュで駆けてきた人と何度か体が激しくぶつかった。アスファルトに転倒する危険を感じながらの、決死の横断である。

 グループステージ第3節でスクランブル交差点を訪れたときは、熱気こそあれどこれほどまでの騒動にはなっていなかった。試合開始時刻や、対戦相手のネームバリューの違いで、喧騒の性格は変わってくるだろうと想定こそしていた。それでも、これほどまでとは……。

 ボディペインティングが一際目立っていた、陽気な男性がいた。彼はこれからスポーツバー「HUB」で仲間と試合を観戦するそう。試合結果の予想を聞くと「100-0で日本!」と豪語する。あくまで取材班の印象にすぎないが、堅実な試合運びが予想されたスウェーデン戦時の渋谷と比べ、負けたら終わりのトーナメントでのブラジル戦、そのお祭り騒ぎ、騒擾そのものを楽しもうとする人が多いように感じられた。

 狂乱のスクランブル交差点を背に、センター街を松濤方面へ抜けた先。そこでは「○○○○のご利用は?」と通行人に声をかける男女の姿があった。どうやら近隣のクラブのスタッフによる熱心な呼び込みのよう。しかし、「さすがに今日はダメだよな、テレビないと」と、声かけの成果が上がらないことを嘆いていた。

 それでもスタッフは諦めず、精力的に道行く男性グループに声をかけ、たくさんの女の子が来場していることをアピールしつつ、「クラブとかバーでサッカー観るんじゃなくて、中で女の子お持ち帰りして、ホテルで(試合を)見た方がいいよ」と露骨に水を向ける。その気になった学生風の男性は、「サッカーよりも少子高齢化問題の方が大事ですもんね」「こちらも“試合開始”できるように頑張ります」とウィットに富んだ返しを残し、吸い込まれるようにクラブのエントランスへと向かっていった。渋谷の夜の欲望は、サッカーの熱狂と複雑に絡み合っている。

狂乱の先制点、ビールまみれの歓喜、そして…

 そして迎えた午前2時のキックオフ。ガラス張りの店内で試合映像を流しながら営業する路面沿いの居酒屋では、店の外の道路にまで人が密集し、日本代表を応援するチャントが大合唱される。ハイドレーションタイムには、店全体でジョッキを掲げて乾杯が交わされていた。

 道端から戦況を見守っていた男性に、なぜわざわざ深夜の渋谷で試合を見るのか尋ねると、「本当は生で見たいけど、金がないんでさすがにアメリカには行けないんです。いちばん生に近いのはココじゃないですか」と笑う。日本が点を取った瞬間か、歴史的勝利を収めた瞬間には、スクランブル交差点へと全力で駆け出す予定だという。

 すると前半29分、ついに試合の均衡が破れる。日本が佐野海舟選手の鮮やかなミドルシュートで先制したのだ! 途端に、街のあちこちから地鳴りのような大歓声が沸き起こる。たまらず走り出している人も少なくない。あるサポーターは、先制の瞬間は興奮のあまり「酒をかけまくって」大騒ぎになったと当時の狂乱を振り返った 。 

 この先制点以降、周囲の会話のトーンが少しずつ、しかし確実に変わってくる。

「このままいったら、ヤバくね?」

“日本代表の勝利”に対し、「これはもしかすると、本当に歴史が変わるのでは……」といったヒリヒリするような空気が漂ってきていた。

 その後、同点に追いつかれても、その期待感の空気はすぐには消えなかった。「相手はブラジル、これくらいは想定内」というわけだ。

「こっからこっからみたいな感じだった」。そう、ある男性が語ったように、日本代表も渋谷に集ったサポーターも希望を捨てていなかった。しかし、ピッチ上の現実は厳しく、ずっとじわじわ押し込まれる試合展開でもあった。 

夢の終わりと…

 そして迎えた、後半アディショナルタイム。時計の針が90分を回った土壇場で、日本はブラジルに痛恨の逆転ゴールを許してしまう。直後に無情にも響き渡った試合終了のホイッスル。結果は2-1、無念の逆転負けだった。

「静まり返っちゃってるねー。これじゃあ警察いらないよ」

 スクランブル交差点を目にした誰かがポツリと呟いた。沸き立ったスウェーデン戦後とは打って変わって、街は恐ろしいほどに静かだ。揚々と歓喜の声を上げているのは、少数のブラジルサポーターだけである。

 熱狂の渦から少し道を外れて、代表サポーターたちの生の声を聞く。写真の男性たちは、開口一番「シンプルに悔しいです」と沈痛な面持ちで吐露した 。ブラジルの強さを「柔軟に対応できるんですよ。どんなに日本が手を打ったとしても、ブラジルは自由なサッカーでそれを上回ってくる」 。戦術の枠に収まらない、王国特有の柔軟性が日本の前に立ちはだかったと試合を振り返る。

 また別のサポーターも、2対1と逆転されても「なんとか諦めたくなかった」と最後まで祈ったというが、残酷な結果を受けて「マジ悔しい」と深いため息をついた 。 敗戦のショックのなか、今日この後の予定を聞くと、「仕事す」というあまりに現実的な答えが返ってきた 。明け方まで続いた熱狂の夜から一転、鉛のように重い足取りで職場へ向かうのだという。

 男性は「もうブラジル応援するだけっす」と、潔く今大会の残りは自分たちを破ったブラジルに託す姿勢を見せた 。そして4年後の次大会については「まずベスト8っす。で、優勝でしょ」と力強く宣言してくれた 。

 大熱狂のち、深い静寂……。彼らは少しの悔しさと疲労を抱えながら、それぞれの現実へと静かに帰っていった。

(「文春オンライン」編集部)