美輪明宏の「痛烈なダメ出し」が忘れられない…白いTシャツに黒いパンツ姿の阿川佐和子に放った"鮮烈な一言"
本稿は、阿川佐和子『年とる力』(文春新書)の一部を再編集したものです。

■閉経後に訪れる人生最高の“モテ期”
最近お会いした美容ジャーナリストの齋藤薫さんは、「閉経からが、むしろ人生最高のモテ期である!」とおっしゃっています。モテ期かどうかはわからないけれど、閉経後のほうが、活力はみなぎり、好奇心が高まり、行動的になるとか。その理由は、齋藤さんに言わせると、こういうことです。
そもそも女性の身体には女性ホルモンだけでなく、男性ホルモンも少なからずある。だから閉経して女性ホルモンが減少すると、相対的に男性ホルモンの占める割合が増える。男性ホルモンが優位になると、より逞しく潔く、闘争心を発揮して前進しようという意欲がふつふつと湧いてくる。
まあ、言い換えれば恥をかくことを怖れず、強くふてぶてしく、何ものをも怖れぬ存在になりかねないということでもあります。
いっぽうで、更年期を迎えた男性陣は男性ホルモンが減少し、女性ホルモンが優位になる。たしかにね。だから歳を重ねた殿方の中には、なんだかオバサンみたいに顔がふっくらして、性格もおとなしくなっちゃう人がいるのかなあと、妙に納得した次第です。
でもここで気をつけなければいけないのが、女性がすっかり開き直って、本来大切にしていたはずの慎ましさや気遣いや「美しくあろう」という気持を忘れてしまうことだと齋藤さんはおっしゃいます。
■美輪明宏さんに言われた「鮮烈な一言」
昔、同じようなことを美輪明宏さんに言われたことがありました。
「あなたたち女性は、女性であることにあぐらをかいて、努力を怠っているの!」
女性であれば、放っておいても美しいはずだと傲慢に構え、魅力的になろうという努力を何もせずにいたら、誰も相手にしてくれなくなりますよとおっしゃったのです。
当時、私は、できればお化粧をしたくない。肌の手入れなんて面倒くさい。若い頃からシワが多いけれど、まあ、シワの多い家系だからしかたないさ。お洒落な服は着たいけれど、そんなにセンスが良くないし、お金をかけるのは嫌だし、ことに「インタビュアー」という仕事は黒子的な存在だから、むしろ派手にせず、ごくシンプルなモノトーンの服を着ていたほうが、お相手に対して失礼にならないのだ。そういう考えで万事通しておりました。
そして美輪さんと対談をするためにご自宅へ伺ったときも、白いTシャツと黒いパンツ、上に黒いジャケットを羽織って参じました。
■「女であることにあぐらをかいている」
インタビューの途中、暑くなったので、ハンドタオルで汗をぬぐい、上着を脱ぎ、白いTシャツと黒いパンツ姿になりました。その格好で、質問を続けていた折、私が美輪さんのご本の中に、
「『色気のある女になりたい』と思うのなら、自分を美しく見せようという意識、些細な行動にもいたわりと思いやりをこめる生活習慣を忘れないことです」

と書かれていたことに感銘を受けたとお伝えし、
「私、色気がない、色気がないって、いつも言われるんです。どうすればいいのでしょう」
すると美輪さん、
「上品な優しさが大事なのよ。それは、あなた持っているから十分よ」
そう褒めてくださったあと、
「でも、あなたって動きがまるで憑き物がついたみたい。なんかヒョコヒョコしてるじゃない。でも、それとこれとは別。十分色気はあるぞよ」
太鼓判を押してくださったあと、しばし私を上から下まで観察なさるので、
「どうか言葉を選ばないで、全部おっしゃってください」
叱られることを承知で向き合うや、「お、言わいでか、覚悟しや。その格好(白いTシャツと黒いパンツ)ったら、何もかも諦めちゃった体育の女教師みたいなものだわよ!」
ショック。でも、なんと言い得て妙であることか!
まだ更年期も閉経も迎えるはるか以前の話です。まあ、それはさておき、美輪さんに言われた、「女は女であることにあぐらをかいている」という言葉はその後もずっと頭に残りました。
■80歳を超えた紳士が掲げる「3つの目標」
その後、ゴルフ仲間のお一人である80代の紳士F氏から言われた言葉も印象的です。
「僕はね、男が80を過ぎたら目標に掲げるべきことが三つあると思っているんですよ」
すなわち、
1.エージシューターになること。
2.娘と同世代のガールフレンドを見つけること。
3.お洒落であること。
エージシュートとは、18ホールを回ったスコアが自分の年齢と同じ、ないしそれ以下になることですが、シロウトのゴルファーにとってはそれが一つの夢です。ただし、若い頃にそれを達成するのはなかなか難しい。すべてパーで回って72ですから、70歳で達成するとしても、アンダーパーにならなければなりません。
私なんぞ、ゴルフを始めてすでに20年が過ぎましたが、今までのベストスコアで89です。今後、80より少ないスコアで上がることはほとんど不可能。多少腕が上がったとしても、それに反比例して体力気力はどんどん落ちて、飛距離も落ちていくいっぽうです。
この分だと、もし私がエージシュートを達成できるとしたら、90歳を過ぎた頃、あるいは100歳になるまで無理です。はたしてそこまで生きていられるか。でも、無理とわかっても目指したい夢の一つです。
■若い異性の目を意識してお洒落する
F氏はエージシュート達成の他に、娘と同世代のガールフレンドを作ることとおっしゃいました。それはなにも深い関係になることを望んでいるわけではない。若い女性とご飯を食べたりお喋りをしたりするだけで生きる気力が湧いてくるということです。

そして三番目が、お洒落であること。もちろん、そんな若い異性とデートをしようとすれば、だらしない格好はできない。いい男に見られたいという意識が働いて、お洒落に気を遣うようになるという寸法です。
年を取るにつれ、心身ともに衰えていくのはいたしかたないこと。でも、その衰えをカバーするためにも、エージシュートを目指して白いボールを懸命に追いかける気力体力と、若い女の子との会話についていこうとする向上心。さらに、老いて情けなくなったと思われないようにするためのお洒落。この三つを生きる目標に掲げていると、カッコいい高齢者になるだろうというのがF氏のご意見でした。
■残る人生を楽しく笑って過ごすカギ
それを聞いて、これは男性の目標に留まらず、女性にも当てはまると思いました。
息子ほどの年齢のボーイフレンドがいれば、会うと決まったとき、
「なにを着て行こうかしら」
「口紅は濃すぎないかしら」
などと身なりに気をつけるだけでなく、おのずとウキウキするものです。そしてエージシュートに関しても、無理と最初から諦めず、コツコツ続けていれば、もしかすると叶うかもしれないではないですか。
基本的には人生に夢も目標も掲げないことをモットーとしていた私ではありますが、女であることにあぐらをかけるようなホルモンが消え去った今からは、最低三つの目標を掲げて、ヨレヨレになりつつある身体に優しい鞭を打って生きていきたいと思いました。
気は心? じゃなくて、病は気から。残る人生、楽しく笑える毎日をできるかぎり多くするためにも、まずは、やる気とその気。気は大事ですね。
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阿川 佐和子(あがわ・さわこ)
エッセイスト
1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部西洋史学科卒業。報道番組のキャスターを務めた後に渡米。帰国後、エッセイスト、小説家として活躍。2012年に刊行した『聞く力』が170万部を突破して、年間ベストセラー第1位に。14年、菊池寛賞受賞。主な著書に『強父論』『ウメ子』『婚約のあとで』『正義のセ』などがある。テレビでは「ビートたけしのTVタックル」などに出演中。
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(エッセイスト 阿川 佐和子)
