「メルカリの数万円」も標的に! 9月本格稼働の国税庁「KSK2」のAIに狙われる危険な人
国税庁が昨年末に発表した所得税の調査結果によると、追徴課税額は過去最高の1431億円を記録した。これはAIを活用した調査の効率化の成果だという。
AIに加え、今年9月24日からは国税庁の基幹システム「KSK2」が本格稼働する。狙われるのは、脱税をたくらむ悪質な事業者だけではない。メルカリで稼いだ数万円、YouTubeの広告収入、夜のちょっとしたアルバイトなどもターゲットとなるのだ。「少額だから大丈夫」「直接現金でやり取りしているからバレないだろう」と油断している人は危ないかもしれない。
YouTubeチャンネル登録者数約117万人を誇るオタク会計士の山田真哉氏に聞いた。
AI調査が狙う「3つのタイプ」
KSK2とは国税総合管理システムと呼ばれる税務署の巨大なデータベースだ。’02年から稼働してきた旧システムが刷新され、所得税・法人税・消費税などの情報が一元管理されるようになる。KSK2をAIと組み合わせることで税務調査の精度が大きく上がり、税務署からのお尋ねや調査が増える可能性があるといわれているのだ。
その対象になりやすい職業には「3つのタイプがある」と山田氏は指摘する。
「SNSで活動実態が見えやすい人、海外プラットフォームで収益を得ている人、そして現金収入が多い人は特に注意が必要です」
「SNSで活動実態が見えやすい人」とは、自身の営業活動や私生活をSNSで公表している人を指す。インフルエンサー、美容師やネイリストなどの個人サロン経営者、個人コンサルタントといった職業が当てはまる。
「高級料理店や海外旅行へ行ったことを頻繁にSNSに投稿しているのに申告した所得が100万円となっていれば……当たり前ですが、AIのチェックに引っかかりますよね? ひと昔前は、密着ドキュメンタリー番組に出演すると税務調査が来るなんて噂がありました。映像には豪華な家具や高価な調度品が映っているのに、それに見合わない額の申告書が出された場合にチェックが入る、というわけです。今はそれがSNSの投稿になっているのです」
では「海外プラットフォームからの収入を得ている人」とはどんな人か。
「YouTubeやTikTok、Xなどの収益ですね。海外法人からの支払いとなるため、国内企業のような『支払調書(誰にいくら払ったかを国税に知らせる書類)』が自動的に提出される仕組みがありません。そのため、『税務署は把握していないだろう』とつい申告を忘れがちですが、それは大きな誤解です。
海外からの報酬は、最終的に国内の銀行口座へ送金されます。KSK2では銀行口座への海外送金データと確定申告の数値を突き合わせることが可能。『海外取引だからバレない』という時代は終わりました。むしろ、『海外取引だからこそ、AIによる監視の目はより厳しくなっている』と認識すべきでしょう」
3つ目が現金収入が多い職種だ。キャバクラ経営者、ホステス・ホスト、ブリーダー、そしてパパ活などで収入を得ている人も対象になりうる。実際に国税庁が発表した最新の調査結果(所得税等の調査状況)では、申告漏れ所得が高額だった業種の第1位はキャバクラ(店舗経営者)で、税務調査が入った際の「1件あたりの平均申告漏れ額」は4164万円に上った(ちなみに、キャバ嬢などの「ホステス・ホスト」も第3位の平均2968万円にランクインしている)。
「年間20万円以上の所得がある場合は申請が必要ということは、よく知られていますよね。実はパパ活による収入も雑所得に該当します。誰にもバレないと思われがちですが、なんらかのトラブルが発生した際に友人やパパ側からの情報提供で、発覚するケースがあります」
バレる経路はそれぞれ異なるが、いずれにせよ、これまで見逃されてきた申告漏れが表面化しやすくなるのだという。
「これまでは税務官の経験や勘で調査対象が選ばれていたため、見逃されてきた人も少なくありませんでした。その役をAIが担うようになったのです。これまで見逃されていた人たちも、これからは調査対象になる可能性が格段に上がるでしょう」
なぜバレる? KSK2の正体
KSK2の稼働で、AIの精度が上がるというのはどういうことなのか。
「KSK2は調査の対象選定作業にAIを使っているようです。KSK2の前身にあたるKSKというデータベースには人間がアクセスして手作業で調査していましたが、令和4年ごろからAIが導入され、格段に作業がしやすくなったそうです。これまで税務官が経験や勘で気づいていた申告のズレを、AIが膨大なデータを分析し、的確に見つけ出すようになったということです」
さらに大きな変化が「縦割りの解消」だ。
「これまでは、所得税、法人税、消費税が別々のシステムだったので、必要に応じてそれぞれデータを引き出して確認する必要がありましたが、今後はひとつの画面で見られるようになる。些細なことと思うかもしれませんが、縦割りがなくなったことで、業務のしやすさは格段に上がるでしょう」
この変化は、納税者にとってメリットにもなりうる。
例えば海外クライアントから報酬を得ている場合、海外取引は消費税の免税対象となるため、消費税の申告では売上としてカウントされない。そのため消費税の申告書だけを見ると売上が少なく見えてしまうが、所得税の申告書と合わせて確認すれば、海外取引があるためだとわかる。
縦割りのシステムではこの関連性に気づかず、不要な調査が来るケースが度々あったという。
「ちゃんと確定申告していれば不要な調査がなくなる。きちんとしている人にとっては、KSK2の登場はメリットとなるのです」
「20万円以下だから安心」が一番危ない
ちゃんと確定申告をしていれば怖くない。ただ、会社員の「副業の収入は20万円以下だから申告しなくていい」という感覚にも、落とし穴があるという。
「副業での所得が20万円以下なら『所得税』の確定申告は不要というルールがあります。そもそも、このルールができたのは税務署が人手不足で対応しきれなかったからなんです。AIの導入が進んだ今、この免除ルール自体が必要なくなるのではという議論があってもおかしくない。
また、これまでは『白色申告は調査が来にくい』と言われてきましたが、AIが調査対象を選ぶ以上、白色か青色かは関係なく、ズレがあれば調査対象になるということも予測できます。現時点では、これらに関する発表はありませんが、今後、出てくる可能性は十分あるでしょう」
では、実際に税務署からの連絡はどのような形で届くのか。
「数十万円のズレの場合は簡易な接触、つまり『お尋ね』という形で封筒が届きます。それを無視すると本格的な税務調査に発展します。お尋ねが来た時点で、すぐに修正申告をすれば、特に問題はありません」
お尋ねは軽い確認で、重大な問題があれば最初から税務調査が来る。お尋ねが来たとしても慌てる必要はないが、無視だけは絶対にしてはいけない。
また、税務署が把握できるデータの範囲は、思っている以上に広い。銀行口座はもちろん、電子決済システムや各種プラットフォームも、必要があれば調査できる環境が整いつつある。
「メルカリやBASEといったプラットフォームは日本の企業なので、税務署から求められればデータを出さなければいけません。ペイパルやスクエアなどの電子決済も同様です。
ハンドメイド副業をしている場合、売り上げが複数サイトに少額ずつ分散していても、合算して調査されます。海外口座であっても、CRS(共通報告基準)により、口座残高や収入情報が自動的に日本の税務署に共有されます。また、報酬をポイントで受け取った場合も雑所得に該当します」
私たちがAIを使って作業効率を高めているように、税務署内でもAIによる効率化が進み、これまで見逃されてきた申告漏れが調査対象に上がってくる時代になった。「少額だから」「現金だから」「海外だから」という認識は今すぐ改めたほうがよさそうだ。
今すぐできる! 必須の「自衛策」
では、今からできる自衛策は何か。山田氏は口座とアカウントの整理を勧める。
「一緒にしていると、『全部プライベートの支出じゃないの?』と言われる可能性があるので、まずは口座やクレジットカードを仕事用とプライベート用に分けるといいでしょう。AmazonなどのECサイトのアカウントを分けるのもおすすめです」
手間に感じるかもしれないが、いざ調査が来たときに説明できるかどうかの差は大きい。
次に、経費の処理についても知っておきたいコツがある。確定申告書に添付する『青色申告決算書』や『収支内訳書(白色申告)』には『本年中における特殊事情』という記入欄があり、経費の理由や事業の背景を書き添えることができる。活用している人は少ないが、怪しまれそうな経費がある場合は特記事項を書いておくことで、不要な調査を防ぐことができるという。
「経費の理由をメモするのが面倒であれば、とりあえずボイスメモなどに録音しておいて、あとでAIに要約してもらうという方法もあります。あと、AIに『この理由の経費は通りますか?』と相談するのもいいでしょう」
税務署もAIを使う時代なのだから、納税者側もAIを活用して備える。この発想の転換は覚えておきたい。
一方で、絶対にやってはいけないこともある。
「請求書の数字を書き換えたり、売上を別の口座に入れたりする『改ざん』です。重加算税という重いペナルティの対象になります」
扶養から外れないようにパート収入を親族の口座に振り込んでもらっていたケースや、支払調書の金額を修正テープで書き換えて申告したケースが、実際に発覚している。いずれも重加算税の対象となり、パートの事例は扶養から外れることになった。「バレないだろう」という甘い考えが、より深刻な事態を招くことになったのだ。
では、もし税務調査が来た場合はどうすればよいのか。
「自分で対処できる場合は、正直に対応してください。もし、一人で対処する自信がなかったり、忙しかったりする場合は、税務調査の対応を専門にしている税理士や会計事務所を頼るのもいいと思います。個人で対応するより税理士が関わったほうが、追徴課税の額がより適正な金額に落ち着く可能性があります。
税務調査と聞いて身構える人もいますが、きちんとしていれば怖がる必要はありません。落ち着いて対応すれば大丈夫です」
税務まわりの変化が重なる今年、一度立ち止まってルールを確認しておこう。
▼山田真哉 公認会計士・税理士。芸能文化税理士法人会長。芸能・アニメ・音楽・出版・YouTuberなどエンタメ業界専門の会計事務所を率いる。著書『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』は165万部超のベストセラー。YouTubeチャンネル「オタク会計士ch」の登録者数は117万人超。テレビ出演やドラマ監修など幅広く活動している。
取材・文:安倍川モチ子
WEBを中心にフリーライターとして活動。また、書籍や企業PR誌の制作にも携わっている。専門分野は持たずに、歴史・お笑い・健康・美容・旅行・グルメ・介護など、興味のそそられるものを幅広く手掛ける。
