【尾形 拓海】「ファミコン時代にクソゲー量産」東映、ゲーム事業リベンジなるか…目指すはインディーゲームの”美味しいとこ取り”
2026年4月21日、東映が「東映ゲームズ」、サンリオが「Sanrio Games」としてゲーム事業への参入を同じ日に発表したことが話題になりました。発表が重なったのは偶然にすぎませんが、性質の全く異なる2社が同じタイミングでゲーム事業に踏み込んだことは、今コンテンツ業界で起きている構造変化を象徴しています。
ゲームへの「越境」あらゆる業界で
近年、コンテンツ企業が本業の外側へ踏み出す動きが相次いでいます。
最もわかりやすい例は、任天堂が映画事業へ進出したことでしょう。同社は「ミニオンズ」などで知られる米イルミネーションと共同で映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』や『ザ・スーパーマリオギャラクシー・ムービー』を製作し、両作とも世界的な大ヒットを記録しています。2027年には、『ゼルダの伝説』の実写映画も控えています。
最近では、U-NEXTがアニメ制作会社のGoHandsを買収するなど、自らの専門領域を飛び越える「越境」が業界全体で進む中、その有力な進出先として特に注目を集めているのがゲーム事業です。
ゲームビジネスの特徴として、圧倒的な市場規模が挙げられます。2024年の世界のゲームコンテンツ市場は約31兆円に達し、過去4年間で5割も拡大しました(CESA「ゲーム産業レポート2025」)。2024年の世界の映画興行収入は約4.5兆円、2024年のアニメ市場でも約3.8兆円であり、ゲーム市場はその7〜8倍に相当する規模を誇ります。
また、ゲームはグローバル展開をしやすいことも大きな魅力となっています。
Steamといったゲーム配信プラットフォームが世界的に普及したことに加え、近年はAI翻訳技術の向上によって、多言語へのローカライズを低コストかつ迅速に行える環境が整いました。さらに、アニメや漫画と比較して、ゲームはアクションなどの「非言語的なゲームプレイ」が体験の中心になるため、言葉の壁を越えやすいという強みもあります。
「IPのファンを育てる力」に優位性
さらに、ユーザーとの深い接点を構築し、IPのファンを育てる力という点でもゲームは優れています。映画の鑑賞時間が2時間から3時間程度にとどまるのに対し、ゲームのプレイ時間は数百時間にも及びます。IPとインタラクティブに関わるため、作品やキャラクターに対する愛着が生まれやすく、グッズ販売や映像化、イベントといった二次展開を支える基盤となります。
こうした特徴を背景に、ここ数年で異業種からのゲーム事業への参入が相次いでいます。2022年には集英社が「集英社ゲームズ」を設立したほか、2024年には松竹が、2025年8月にはパルコが「PARCO GAMES」を立ち上げるなど、ゲームとは一見関わりの薄かった出版、映画、小売といった多様な業種が次々と参入をしています。
東映とサンリオが同日に発表したゲーム事業への参入も、まさにこうした流れの中に位置づけることができます。しかし、この両社の動きを単純に「IPを保有する企業によるゲーム事業への進出」という言葉で一括りにしてしまうと、それぞれの取り組みが持つ本質を見誤ることになります。
両社がゲーム事業に踏み出した狙いは、全く異なる方向を向いています。
東映が乗り出すのはインディーゲームのパブリッシング事業であり、その目的はゼロから新しいIPを創出することにあります。これに対して、サンリオが手がけるのは自社制作であり、その目的は自社がすでに保有している強力なIP群のマネタイズと、そのさらなる拡張です。ここからは、それぞれの戦略について詳しく見ていきます。
東映が注力する「インディーゲーム」とは
まずは東映が注力するインディーゲームの領域について整理します。
東映にとって、ゲーム事業への挑戦は実は初めてではありません。かつて東映動画(現・東映アニメーション)時代、ファミコンブーム期にゲーム市場へ参入したものの、代表作である『北斗の拳』をはじめとする版権キャラクターの知名度に頼った作品を発売し、当時は「北斗現れるところクソゲーあり」などと揶揄される苦い歴史を残しました。
今回のインディーゲームへの参入は、当時のような大型版権の人気に依存するやり方とは正反対のものです。自社IPの知名度に頼るのではなく、全く新しいオリジナル作品を発掘し、自社のプロデュース力で世に送り出すという座組が、35年前の失敗を拭うことができるのでしょうか。
インディーゲームとは、個人や少人数の開発チームが大手の資本に依存せず、自ら作り上げるゲームを指します。世界的な社会現象となった『Among Us』がわずか3人のチームから生まれ、国内外で高い評価を獲得した名作『Undertale』がほぼ1人の開発者によって生み出されたように、尖ったアイデアや、開発者の強い作家性が最大の魅力です。
このインディーゲーム市場は、ゲーム業界において数少ない成長領域となっています。開発費の高騰や主要タイトルの固定化が進み、コンソールゲームやソーシャルゲームへの参入ハードルが極めて高くなる一方で、インディーゲーム市場は大きく躍進しています。
世界のインディーゲーム市場規模は2020年の約21億ドルから2025年には約48.5億ドルへと、5年間で2倍以上に成長しており、2031年には約108億ドルに達すると予測されています。ゲーム配信プラットフォームのSteamにおいても、全体の売上に占めるインディーゲームの割合は2018年の約25%から、2024年には約48%にまで拡大しています(Game World Observer)。
この急成長の背景には、技術進化によってゲーム開発のハードルが下がり、才能あるクリエイターがインディーゲーム市場に集まってきていることが強く影響しています。「Unity」や「Unreal Engine」といった高度なゲームエンジンの普及に加え、開発プロセスにおける生成AIの活用が進んだことで、個人や数人のチームであっても高品質なゲームを制作できる環境が整いました。
「パブリッシング機能」が成否を分ける時代
一方で、インディーゲーム市場においては、あまりにも作品の数が増えすぎているため、優れた作品を開発してもプレイヤーに見つけてもらえない「作品の埋没問題」が深刻化しています。
そこで重要になるのが、ゲームの流通や販売、宣伝を担う「パブリッシング機能」です。東映は、外部の開発者が制作したインディーゲームの流通、販売、宣伝などの役割を全面的に引き受ける「パブリッシング事業」に参入しました。作家が執筆した原稿をもとに、出版社が編集や流通、プロモーションを担う関係性をイメージすると、その役割が理解しやすいでしょう。
現在、Steamには年間で2万本近い新作ゲームが投入されていますが、2024年にSteamでリリースされたゲームにおいて、パブリッシャーが関与した作品の売上高中央値が約1万6000ドルであったのに対し、開発者が個人で販売した作品の売上中央値は約3000ドルにとどまっています(Over Powered Game Marketing)。ここには5倍以上の差が生じており、パブリッシング機能の有無が、作品の成否を分ける決定打になっていることがわかります。
東映という企業は、この「優れた企画やクリエイターを発掘し、作品を世に送り出すためのプロデュース力」を、長年にわたり本業の映画事業で培ってきました。映画の配給や宣伝活動で磨き上げたプロモーション力、観客を惹きつける予告編をはじめとした映像制作のノウハウ、国内の興行・イベント運営から海外展開に至るまでのネットワークは、いずれもインディーゲームのパブリッシング業務で求められる機能と重なり合います。
「リスクを抑えながら新しい種をまく」
そして、ゲームがヒットした際に得られるリターンが非常に大きいことも見逃せません。日本のインディーゲーム市場におけるパブリッシング業務では、知的財産権そのものはクリエイター側に残りますが、グッズ化や書籍化、映像化といったライセンスビジネスにおいては、パブリッシャーがその交渉やマネジメントに有利な立場で関わることができるケースが多いです。
パブリッシング事業は、自社で開発スタジオを構えたり、多数のエンジニアを直接雇用したりする必要がなく、低リスクで参入することができます。一方で本業の専門性を活かしやすく、当たれば二次展開の恩恵まで大きく取り込める。
このように「美味しいとこ取り」ができるビジネスモデルであるため、異業種からのゲーム事業への新規参入は、パブリッシング形式を取ることが多いのが実態です。2020年以降に参入を表明した企業を見渡しても、集英社の「集英社ゲームズ」、講談社の「講談社ゲームクリエイターズラボ」、松竹の「松竹ゲームズ」、そしてパルコの「PARCO GAMES」に至るまで、そのすべてがパブリッシング型を選択しています。
そして、こうした「リスクを抑えながら新しい種をまく」アプローチは、すでに多くの成功例を生み出しています。たとえば集英社ゲームズが支援した『都市伝説解体センター』は、発売からわずか3か月で30万本を売り上げるヒットを記録(電ファミニコゲーマー)したほか、日本ゲーム大賞2025において優秀賞を受賞しました。
さらにこの成功を起点に、ゲーム原作の小説化や漫画化といった、二次展開へのメディアミックスも順調に進行しています。また、講談社が支援した『違う冬のぼくら』などのインディータイトルも、シリーズ累計で130万本を超える大ヒットを記録(4Gamer)するなど、パブリッシング型からでも、新しいIPが十分に生まれることが実証されています。
一方で、サンリオが選択したのは、真逆のアプローチである「自社制作」だった。はたしてその成否は――。引き続き【後編記事】『サンリオ「マイナーキャラにもスポットライトを」多額の資金を投じて《ゲーム自社制作》に乗り出した3つの理由』で解説していく。
【つづきを読む】サンリオ「マイナーキャラにもスポットライトを」多額の資金を投じて《ゲーム自社制作》に乗り出した3つの理由
