【中川 寛子】品川でもなく、恵比寿でもなく、なぜ「大井町トラックス」だけ”一人勝ち”したのか…再開発で成功する街、失敗する街の決定的な差

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2026年3月28日にまちびらき(開業)したJR大井町駅直結の複合施設「OIMACHI TRACKS」(大井町トラックス)が好調だ。まちびらき当日には敷地内で最も広い4600平方メートルのTRACKS PARKが人で埋まっているように見えるほど賑わっており、今もその状態は続いている。なぜ、ここまで人を集めているのか。いくつかの観点から見ていこう。

無料で気持ちよく長居でき、誰かと会える公園の存在

まずは賑わいを実感できるTRACKS PARKから。この広場はオフィス棟や東急大井町線の高架などに囲まれた場所にあり、緑の芝生は座ったり、ごろごろしたりするには最適だが、この風景、どこかで見たことがないだろうか。

たとえば消滅可能性都市と言われた豊島区に変化をもたらした南池袋公園(2016年)、これからの商業施設の在り方を変えると言われた立川のグリーンスプリングス、世田谷区下北沢のボーナストラック(いずれも2020年)、都心ど真ん中にこんな公園がと驚きの声で迎えられたグラングリーン大阪のうめきた公園(2024年)など近年話題になる施設には同様に中心部に緑の、人が入れる空間がある。

これまでも公園はもちろん、大型の複合施設でも緑の空間は作られてはきたが、中心というほどの位置づけにはなっておらず、特に芝生内への立ち入りには制限があることも少なくなかった。

ところが、近年生まれてきている公園や複合施設内の公園的な空間は自由に入れる場で、無料で長居できる。どこからも見える視認性の高い場所でもあるため、安心して寛げ、Wi-Fiも使える。人の気配が感じられ、誰かと知り合うこともできる場になっているのである。

この変化は前述の南池袋公園などから始まって広まり、それを受けた2022年の国土交通省の「都市公園の柔軟な管理運営のあり方に関する検討会」提言で明確になった。

それまでの都市公園は屋外における休息、レクリエーションの場、都市環境の改善や生物多様性の確保等に役立つ緑地、地震等災害時における避難場所(都市公園運用指針から抜粋。むやみに硬い)とされていた。

だが、最近の公園はそれらに加え、居心地が良く、誰もが安全・安心で、快適に過ごせる空間であることが求められるようになった。まちづくりの一環として、多くの人たちのサードプレイスとして、それぞれが好きなように過ごせる空間。それが今どきの公園の定義なのである。

となれば最新の公園の居心地が良いのは当然のこと。しかも、これまでの大井町駅周辺には今までこうした場所がなかった。品川区の区立しながわ中央公園は一応、大井町駅が最寄りだが、率直なところ、ちょっと遠く、分かりにくい場所にある。

そこにこんなに気持ちの良い空間ができたのである。広場周辺にはテイクアウトできる店も多く、広場の一角にはスマホ用のソーラー充電器も。これでご近所の人達が行かないわけがない。

ちなみにこの広場は日常的に楽しめる場であるだけではなく、非常時には逃げ込める場ともなっている。大井町駅周辺にはこれまでそうした空間もなかったのでTRACKS PARKはダブルで意味のある場といえる。

「地元の人達の利便性」、「暮らしやすさ」を意識

大井町トラックスでは広場のみならず、商業施設その他も賑わっている。その賑わいの背景には開発のコンセプトがある。JR東日本が出した大井町トラックスのプレスリリースには「地域のさらなるエリア価値向上」「一体的なまちづくり」「地域防災力の向上」「エリア全体の賑わいの創造」などという言葉が並ぶ。地元の歴史、生活に寄り添った開発、地元の人達の利便性、暮らしやすさが強く意識されているのである。

その意識は商業施設のラインナップにも反映されている。たとえば大井町にはかつては映画館が6館もあった。だが、1999年に大井武蔵野館が廃業して以来は映画館ゼロ地帯になっていた。となれば、地元の人達が久しぶりの映画館誕生に沸き立つのは無理もない。

そのTOHOシネマズ大井町の売りは轟音上映。爆音上映と違い、単に音が大きいというより低音が振動とともに響く、音の大小がクリアといった特徴があり、アクション映画、SF映画、戦争映画にはお勧めだ。うるさいんじゃないかと敬遠されているようなら一度試してみて欲しい。

飲食店では地元の人気店でハリウッドスターも訪れたという立飲み8、大井町トラックスの近くに本店のあるそば道、地元品川区のメディア頻出店・おにぎり戸越屋などが出店。

それ以外にも地元の企業がいくつか出店しており、例に挙げた店舗のラインナップからも分かる通り、普段使いできる店が中心になっている。大井町は飲み屋(立飲みも多数)が軒を連ねる路地で知られている通り、気取らない雰囲気の強いまちだが、そこにマッチした店が揃えられており、それが地元を中心に、近隣の人たちを集めているのである。

都心近くの大型開発では世界のトップブランド、新しさを売りにしたテナントが揃えられがちだが、一生に一度、年に一度買うか、買わないかの店は地元の人を集めるためには不要。それよりは週に一度以上利用するかもしれない店を集めたほうが良いという判断だろう。

後編記事『品川でも恵比寿でもない…「大井町最強説」が現実味を帯びてきた納得の理由』に続く。

【つづきを読む】品川でも恵比寿でもない…「大井町最強説」が現実味を帯びてきた納得の理由