無痛分娩、がん治療に影響も…麻酔薬「アナペイン」が不足 減りゆく在庫に“不足の連鎖”も 医療現場に広がる不安

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今、医療現場では、がん治療や出産などに使われる麻酔薬の供給が滞り、不安が広がっているという。その対策に乗り出している医療の現場を取材した。

麻酔薬「アナペイン」5月頃から納品不安定に

11月に生まれる予定の赤ちゃんの姿が映るモニター。無痛分娩で出産予定の女性には今、不安なことがあるという。

11月に無痛分娩で出産予定の女性:
(麻酔薬が)少なくなってると聞きました。ゾッとしました。(無痛分娩)できるよね、大丈夫だよね…できなかったらどうしようって。

出産や、がんの治療などで使われる麻酔薬「アナペイン」が、全国の医療現場で不足する非常事態が起きている。

東京マザーズクリニック 林聡院長:
5月頃から注文しても納品が滞る状況。将来的な計画が立てづらく、我々自身も不安になりますね。

東京・世田谷区にある産婦人科クリニック「東京マザーズクリニック」では、毎年約600人が出産し、うち9割が痛みを抑える「無痛分娩」を選んでいるという。
しかし、無痛分娩や帝王切開の際に使う麻酔薬「アナペイン」の納品が、5月頃から不安定になっていた。

薬を保管している棚を見せてもらうと…。

東京マザーズクリニック 林聡院長:
必要の最低限というところで何とかやっていますけれども……。

現在は、使用量を調整して対応しているというが、この状況がいつまで続くのか懸念していた。

東京マザーズクリニック 林聡院長:
今のところは診療に影響する状況ではないが、今後、出荷制限がさらに厳しくなる可能性を考えるとちょっと不安にはなります。

出産を控えた女性たちからも、“早く通常通りに戻ってほしい”と切実な声があがる。

2025年3月に無痛分娩で出産予定の女性:
3月予定なので、そこまで麻酔薬が足りるのかという不安がすごく大きい。

11月に無痛分娩で出産予定の女性:
せっかく(無痛分娩を)選んだからこそ(麻酔が)潤沢に入ってくれたら安心できる。

がんの治療現場にも影響…1本を“3分割”

なぜ、供給不足が起きたのか。

国内唯一の販売会社「サンド」によると、アナペインの製造所を海外から国内に移す過程で不具合が発生。在庫を切り崩して対応したが、出荷を制限せざるを得ず、供給が不安定になったという。

影響は、がんなどの治療現場にも及んでいる。

浜松医科大・麻酔科医 成瀬智さん:
胃がんや大腸の手術、肺がんであったり、非常に様々な手術で使われまして、(最悪のケース)アナペインがないと、もう本当に手術そのものができなくなってしまう問題があります。

静岡・浜松市の大学病院でも、供給不足は深刻だった。

浜松医科大付属病院薬剤部 田中達也さん:
月初めに納品があって、現在60本程度在庫がありますが、9月は100本程度の使用量があったので、月末には数が減って在庫が厳しい状況になるかと思います。現在、1本あたりを複数名3人で分割使用することで在庫の確保をしている状況になります。

通常1人で1本使用し余りは廃棄していたが、現在は1本を3人で分けて使っているという。

浜松医科大付属病院薬剤部 田中達也さん:
足りなくならないように、麻酔科の先生方と情報共有しながら使っている状況になります。

さらに、他の麻酔薬の供給にも影響が出ていた。

浜松医科大・麻酔科医 成瀬智さん:
(アナペインの)代わりに使っていたお薬が徐々に、追加で欲しいとか、そういう要求には応えられませんと早々と言われてしまっているので、ドミノ倒し的に使えない状況が少しずつ出始めている。

麻酔薬の“不足の連鎖”が起きているという。

福岡厚生労働大臣は、8日の閣議後会見でこの問題について言及。「供給不足が起こらない仕組みをしっかりと構築してまいりたい」と述べた。

販売会社は9日、アナペインの新たな製造所の承認を取得したことを発表。現在、初回の出荷に向けて最終確認や調整を行っている段階としていて、一日も早い安定供給が待たれる。
(「イット!」10月16日放送より)