「切断された指が見つかっていない」 ヤクザ界でも前代未聞“指詰め”で逮捕された弘道会若頭
国民健康保険が適用外
ヤクザの象徴のひとつが「指詰め」だが、構成員の減少や昔ながらの習わしの風化などで、その行為は今や映画などの世界に限られると見られていた。ところが最近、その「指詰め」を巡って逮捕者が出るという珍しい事態が発生した。6代目山口組の最中核組織の幹部が「指詰め」をし、国民健康保険が適用外にもかかわらず適用を受け、支払いを免れたとして詐欺容疑で逮捕されたのだ。保険金を得るためにわざとケガをする、あるいは他人を殺害するという詐欺は珍しくないが、今回はわざわざ自分でケガをして病院に行って支払いをしなかったことが詐欺とされたことになる。なぜ幹部はこんなことをしたのか。
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「自ら指を切断したにもかかわらず、国民健康保険制度が適用される負傷の範囲内であると医療機関を信用させて医療費の支払いを免れたとして、岐阜県警組織犯罪対策課と岐阜中署は10日までに、詐欺の疑いで、6代目山口組3代目弘道会の野内正博若頭(野内組組長/本部:岐阜市)ら男3人を逮捕しました。この類の案件での逮捕は全国初だとされています」
と、担当記者。
狙われた野内組トップの“身柄”
指詰めなど故意の負傷の場合には国民健康保険制度は適用外となる。
野内若頭と同時に逮捕されたのは、3代目弘道会の小澤達夫若頭補佐と、野内若頭の秘書役である宇野誠哉・豊田組(野内組傘下)幹部。
「野内若頭と宇野幹部は他人名義のETCカードを使って高速道路を通行し料金の割引を受けたとして、9月18日、岐阜県警に詐欺容疑で逮捕されました。その後、岐阜地検は処分保留と判断しています」(同)
弘道会は初代会長が司忍6代目山口組組長、2代目が高山清司同若頭、3代目が竹内照明同若頭補佐であり、言うまでもなく6代目山口組の最中核組織だ。その3代目弘道会をど真ん中で支えているのが10代目稲葉地一家、3代目高山組、そして野内組という構図になる。ちなみに、10代目稲葉地一家の松山猛総長は9月、タレント・羽賀研二の事件に絡み差し押さえを逃れるため虚偽の登記をしたなどの疑いを持たれて愛知県警に逮捕された。今回の「指詰め」詐欺事件の背景には、この構図が関係しているという。
都内で複数の医療機関を受診
「6代目山口組の弱体化のためには3代目弘道会の弱体化が必須と捜査当局は考えています。そのため10代目稲葉地一家、3代目高山組、野内組トップの“身柄”を捜査当局は狙うことになります」(同)
ETCカードの事件では野内若頭を立件できなかったため、今回の事件を持ってきたということになるだろうか。
改めて今回の指詰め事件について見ていこう。
「野内若頭は2023年2月23日に自らの意思で指を切断し、都内の医療関係者を受診。その際に故意の負傷ではないと申告したと見られています。その後、3月9日に岐阜県内の医療機関でその事実を隠して受診し、本人負担分を除く医療費合計およそ4万5000円の支払いを免れた疑いが持たれています」(同)
東京で指詰めをした後、地元に戻って処置を受けたという流れが見えてくるが、実際はどうだったのか。
「最終的には都内の慶応病院で診断を受けたようです。そこでは保険証を使っていないと聞いています」
と、元山口組系義竜会会長の竹垣悟氏(現在は、NPO法人「五仁會」を主宰)。
その後の岐阜県内では保険証を使って診療を受けたと見られている。では、野内若頭が指詰めを行った理由は何だったのか。
トラブルがあった相手とは
「稲川会系の組織と行き違いがあったと聞きました。小澤若頭補佐の都内にある事務所で早朝に断指し、そのまま稲川会系の組に持って行き、“迷惑をかけた”とひと言残して立ち去ったそうです」(同)
小澤若頭補佐が同時に逮捕されたのは、この経緯ゆえのようだ。捜査当局は当然、その稲川会系の事務所など関係先を家宅捜索したが、「野内若頭の指」は見つからなかったという。
「稲川会系の組織に対して3代目弘道会や野内組にどういう落ち度があったのかどうか、なかなかよくわかりませんが、けじめとして指詰めをしたことに少し驚きました。もうずいぶん前から、指を差し出されても迷惑なだけで、金品の方がよほどありがたいというのが定説だからです。野内若頭が都内での処置に対して保険証を使わなかったのが事実だとしたら、捜査当局を警戒してのことと思われます。一方でその後に岐阜県内の医療機関で保険証を使ったのだとしたら、それは指詰めの治療ではないと主張できると判断した結果かもしれないですね」(先の記者)
いずれにせよ、密室内で行われた指詰めの全体像までをも把握していることからは、捜査当局の執念深さが伝わってくる。
デイリー新潮編集部