赤穂市民病院『脳外科医 竹田くん』モデル医師、ついに法廷へ…!「ドリルで神経を巻き込んだ」痛ましい事故は「自分の責任ではない」と断言

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「あの医師」がついに法廷へ

9月4日、13時前。神戸地方裁判所姫路支部には、緊迫した空気が漂っていた。在阪メディア各社各局の記者・カメラマンが詰めかけ、とある人物の到着を、今か今かと待ち構えていたのだ。

その人物は、現在大阪府吹田市の吹田徳洲会病院で救急医として働くA医師。40代の男性医師で、近年話題になっているウェブ漫画『脳外科医 竹田くん』のモデルとされる人物である。

A医師は赤穂市民病院に勤務していた2019年から2021年に、脳外科医として8件の医療事故(うち3件は死亡事故も含む)に関わったとされている。さらに、その後籍を移した大阪市の医誠会病院(現・医誠会国際総合病院)での医療行為でも、患者の遺族から民事訴訟を起こされている渦中の人物だ。

今回、A医師が初めて本人尋問のため裁判所に出廷するとあって、その姿をカメラに収め、肉声を聞くために多くの取材陣が集まったのだ。

この日予定されていたのは、赤穂市民病院でA医師が執刀した手術の被害者とその家族が、病院の医療ミスを訴えて損害賠償を請求した民事裁判である。

証人尋問の直前に、直撃すると…

簡潔に説明すると、2019年末、被害者のCさん(70代、女性)は腰痛を訴え、担当医だったA医師から脊柱管狭窄症の診断を受けて、すぐに手術するよう勧められた。

A医師は「早く手術しないと、人工透析になる可能性がある」などと説明し、年明けの1月22日、「腰椎後方除圧術」という手術が行われた。背骨の中の神経が圧迫されて生じる痛みをなくすために、背骨の一部を削り取って圧迫をなくす手術である。

手術前には、A医師はCさんの家族に「手術が終わったら、スタスタ歩いて帰れますからね」と明るく話したというが、現実はそうはならなかった。A医師は手術中にドリルで馬尾神経(脊椎から下半身に向けて伸びている神経)を巻き込み、切断するという深刻なミスを犯したのだ。

Cさんの両足には重度の麻痺が残り、自力での排尿・排便も難しくなったほか、断続的に続く神経性の激痛にも苦しめられるようになった。

この医療ミスについて、赤穂市と、執刀したA医師に対してCさんとその家族が1億3000万円の損害賠償を求めた。Cさんはいまも全介助の車いす生活である。

そんな中、メディア関係者の間では、A医師は今回の証人尋問に出廷しないのでは――という憶測が流れていた。弊誌記者は開廷の2日前に、A医師に裁判に臨む気持ちを聞くべく自宅前で声をかけた。

あきらめかけた、その時…

A医師の返事は以下のようなものだった。

――Aさん、週刊現代です。

「すみません、話すのを止められているので」

――それは誰に?

「勤務先(吹田徳洲会病院)に……」

――明後日の証人尋問はどうされますか?

「延期になったと聞きました。すみません、これからオンライン会議なので」

そう言うと足早に去っていき、煙に巻くような反応を見せたのだ。

じっさい、開廷の時刻になってもA医師は姿を見せず、当人不在での公判かと報道席にはあきらめムードが漂った。

ただ、それにしては双方の代理人の机上にはうず高く資料の山が積まれている。そして開廷直前、2分間のカメラ撮影の時間が終わると、ギリギリのタイミングでA医師が被告側席に現れたのである。

「誰が執刀してもミスは起きた」

黒のスーツにダークグリーン基調のネクタイ、焦げ茶の革靴。被告人席の後方で、A医師はハンカチタオルをぎゅっと握って、神妙な面持ちで佇む。証言台にのぼる際には、傍聴席のメディアにぐるりと鋭い視線をやった。

池上尚子裁判長は、前半30分が被告側の質問、後半が原告側代理人からの質問、そしてその補足事項をあわせて1時間強の予定であると述べた。

まず、被告サイドの質問が代理人から行われる。つまり、A医師の「主張」を述べるターンだ。実のところ、医療ミスがあったこと自体はすでに被告サイドも認めている。

では、A医師の「主張」とはなにか。一言で言えば「自分の責任ではない」。具体的には「赤穂市民病院が自分一人に責任を押し付けようとしている。何より上級医であるB医師の責任が大きい」「(本件以外の)他の7件の医療事故については、誰が執刀してもミスが起きかねない手術も含まれている」というものである。

この主張は以前からA医師が代理人を通じて再三示してきた内容であり、また本誌取材にも明かしていたことではあるが、この日もそれを確認・補強するようなやりとりが続いた。

先に触れたB医師は、赤穂市民病院で脳外科科長を務めていた本件のキーパーソンだ(裁判所は原告側からのB医師の証人申請の採否を留保している)。担当医のA医師の上級医であり、手術の直前になって「手技に不安がある」と言い出したA医師に、「見本を見せる」と言って最初に手技を行った。手術をA医師に引き継いだあとも、指導・監督する立場にあった。

「ダイヤモンド」か「スチール」か

裁判でA医師は「病院のルールでは主治医(=自分)が執刀することになるが、(技量に不安があるため)辞退したい」と申し入れたものの、B医師から「何とかやれ」と言われ、執刀することになったと主張。「L4・L5(手術部位である腰椎の番号のこと)をB医師がまずやるのを見て、L2・L3を私がやる」と決まったという。

椎弓切除術には、2種類のドリルが使われる。スチールバーと、ダイヤモンドバーだ。

弁護士に促され、A医師がその手技について解説した。「突起を切除するスチールバーは、掘削力が強い。骨を削るスピードが速いが、その反面、凶器にもなる。硬膜、神経に触れると切断・損傷をもたらすものです」。

それに対してダイヤモンドバーは、掘削力が低く軟らかい部位に向き、組織を傷つけづらい。そして実際に、A医師が執刀を引き継いだ直後に、スチールバーによる事故が起こってしまった。

なぜミスが起きたのか。理由のひとつが、手術中の「視野」が悪く、患部がよく見えていなかったことだ。手術中の視野を確保するためには、止血を十分に行い、生理食塩水を使って患部周辺を洗浄する必要がある。しかしこの手術では、A医師の執刀中に血液があふれ、手術野が不鮮明になっていたことが事故の原因になったとされる。

「徒弟制度だから逆らえなかった」

A医師は、手術野が不鮮明になった原因を「B医師が生理食塩水をかけすぎ、吸引も不十分だったため」と主張しており、「いくらB医師にその事を言っても、『わかった』と生返事が返ってくるだけで、視野はまったく変わらなかった」と語った。そして、ダイヤモンドバーからスチールバーへの持ち替えも、B医師の指示だったと主張した。

「B先生から、『何をちんたらやっとんねん、そんなことやってたら日が暮れてまうやろ。スチールバーに変えろ』と言われました。『ここで変えても大丈夫ですか』と言いましたが、『いいから変えろ』と強引に押し切られました」

続けて「医師は徒弟制度ですから、逆らうことはできなかった」とも言った。A医師は「神経を(ドリルで)巻きこむ可能性は認識していた」が、B医師にスチールバーを使うよう強要されたために、事故が起きてしまったと訴えたのである。

「私の手技が拙かったが、ただ、視界がクリアで最後にスチールバーを使わず、もしダイヤモンドバーだったなら、起こらなかったことだと思います」(A医師)

この裁判では、実際の手術時の記録映像(患部周辺やドリルを写したもの)が証拠として提出されている。しかし、この映像には音声記録が残されていない。手術中にどのようなやりとりがA医師とB医師の間で交わされたかは、本人たちのみぞ知ることだ。

自身の経験の浅さを認める一方で、あくまでB医師の責任を強調したA医師。さらにはは、関与を疑われているその他の事故についても、驚くべき主張を展開した。

その詳細を後編記事【「あのマンガは事実無根です」「メスは置いたつもり」赤穂市民病院『脳外科医 竹田くん』モデル医師が法廷で放った「驚愕の発言」をスクープする】でお伝えする。

「あのマンガは事実無根です」「メスは置いたつもり」赤穂市民病院『脳外科医 竹田くん』モデル医師が法廷で放った「驚愕の発言」をスクープする