テスラ創業者で、ツイッター買収が注目を集めるイーロン・マスク氏。その改革が、日本のネット上でもここまで注目を集める、納得の要因とは?(写真は2017年、Carla Gottgens/Bloomberg)

このところ、日本は「マスク」に一喜一憂している。マスクと言っても、感染予防ではない。アメリカの著名実業家、イーロン・マスク氏のことだ。

電気自動車メーカー「テスラ」のCEO(最高経営責任者)として知られるが、今年(2022年)に入って、アメリカ・ツイッターへの資本参加を加速。その後、二転三転したものの、10月に完全買収のうえCEOに就任し、非上場のオーナー企業となった。

大量解雇(レイオフ)が行われたのを発端に、今月から日本国内でもツイッターの先行きに注目が集まるように。もはや「イーロン・マスク劇場」と言える事態になっている。

では、どうしてここまで、動向が話題になるのか。さまざまなことがあった、ここ1カ月の「マスク改革」を報道ベースで振り返りつつ、約10年にわたってネットメディア編集者として、ツイッターに触れ続けてきた筆者として「注目される理由」を考えたい。

マスク氏のツイッター改革、ここ1カ月の動き

ツイッター社の従業員は、買収完了以前に7500人の従業員を抱えていたが、11月上旬に半数の約3700人を解雇。その後マスク氏は、残った社員に「退職か、激務か」のどちらかを選ぶよう求め、さらに1000人以上が退職すると、11月下旬時点で報じられている。

マスク氏がリストラを急ぐのには、理由がある。ツイッターは現状、企業広告などを収益源としているが、一般ユーザーは基本的に無料で利用できる。いかにマネタイズ(収益化)していくかと考えたときに、まずは人件費削減から着手するのが順当だ、となったのだろう。

事実、ユーザーからの直接収入にも、活路を見いだしている。目玉はサブスクリプション(定期課金)サービス「Twitter Blue」(月額7.99ドル)の強化。なかでも、青いギザギザのチェックマークで知られる「認証済みアカウント(バッジ)」を課金ユーザーに解禁したのは大きい。

これまで同サービスは、なりすまし防止のために、著名人や有名企業を中心に申請・審査を経て、無料提供されていた。今後は、既存の認証済みアカウントも課金が必須となる方針で、なりすまし防止のためには、あらたに「公式」ラベルが付与されるようになった。Twitter Blueは日本未上陸だが、ユーザー数が多いことから考えると、遅かれ早かれ導入されるだろう。

新体制になって「表現の自由」への姿勢も変化しつつある。昨年1月のアメリカ連邦議会襲撃事件から、暴力行為を助長するおそれがあるとして「永久凍結」となっていたドナルド・トランプ前大統領のアカウントが、先日復活している。

マスク氏は買収途中にも、復活の意向を示していたが、11月中旬に入って改めて、ツイッターの投票機能を用いて、賛否を募った。

最終的に1500万票以上集まり、「Yes」が51.8%、「No」が48.2%に。僅差ではあるが支持を受け、マスク氏はラテン語のことわざ「Vox Populi, Vox Dei(民の声は神の声)」を投稿し、アカウントを復活させた。

表現への関心は、日本のユーザーも同様だ。たとえば、「シャドウバン(影の禁止)」と呼ばれる、一時的に他のユーザーから見て、投稿が非表示になってしまう状態が、意図的に運用されていたのではないかと疑問視する声もあり、体制変更を通して、企業文化の変革を願う反応も多々見られた。

ツイッターはもはや「第2の我が家」だ

なぜ、マスク氏のツイッター改革が、日本のツイッターユーザーにここまで注目されるのか。その最大の理由は、日本のツイッターユーザーにとって、ツイッターはもはや単なるウェブサービスにとどまらず、「第2の我が家」といっても過言ではない存在になっている、ということだろう。

私もそうであるが、暇さえあれば、ツイッターに入り浸っている、ネットスラングで言うところの「ツイ廃」は多い。たとえ、ひとり自室に居たとしても、フォロワーたちと「同じ空間・時間をわかちあっている感覚」を味わえる。それがSNS時代の醍醐味だ。

秋になるたびに「キンモクセイ」がトレンド入りする。開花によって、ふわりと鼻をくすぐる芳香に、思わず季節の変わり目を共有したくなるのだ(筆者も毎年ツイートしてしまう)。それぞれのつぶやきには、感情や衝動が込められているから、単なる報告を超えた「エモさ」を帯びて、より共感の渦を生み出す。

つい先日のサッカー・ワールドカップ(W杯)ドイツ戦でも、観戦しながらのツイートが続出した。試合終了後のトレンドには「日本勝利」「逆転勝ち」といった歓喜の声が並び、翌朝には夢から覚めたかのように「(記念すべき出来事だったから)祝日のはず」とのフレーズが入る。みんな同じことを考えていると気づき、居場所を再確認して安心する。その繰り返しだ。

これほど心のより所になっていれば、「新しい大家さんになって、家賃が上がるかも(=利用料がかかるようになる可能性)」「もしかして立ち退きを迫られたり?(=サービス終了の可能性)」といった感覚を覚えても不思議ではない。

実際、そうした危機感からか、「激務」を選ばなかった従業員が大勢いると報じられた直後、日本では「Twitter終了」がトレンド入り。この時点では「主要なエンジニアを失ったことで、サービスの永続性が心配される」といった意味合いであり、新機能の実装や、今後のメンテナンスは不安視されるものの、イコール終了と受け取るのは早合点だった。

しかし、文字面だけを見て、よくソース(情報源)を調べないまま、即座に反応した人は多かった。リテラシーから考えると、「冷静に判断してほしい」と感じる人も多そうだが、反面、それだけツイッターというサービスが日本人の生活に密着しているということだろう。

もし「Xデー」が来ても避難先はない?

前後して、もし「Xデー」が来たときの避難先についても、議論が深まっている。

リアルのつながりを主軸とするFacebookやmixi、画像メインのInstagram、ゲーマーに愛されるDiscord(ディスコード)、ツイッター同様に短文中心ながら、単一企業による運営ではないMastodon(マストドン)などなど、名前こそ複数挙がるが、どれも(特に日本の)ツイッター文化をそのまま持ち込めるものではない。

「第2の我が家」的な視点から行くと、せっかくご近所さんと仲良くなったのに、またイチから関係性を築かなくてはならない。引っ越しは、部屋探しや荷造りだけでも大変なストレスだ。なるべくなら住み続けたいと思うのは当然だろう。

企業アカウントもまた、「見込み顧客」であるフォロワー資産を失うのは、大きな痛手だ。文体の面白さでファンを集めてきたのに、ある日突然、Instagramで「映え」を追求しろ……と言われても、なかなか難しい。いつしか「前は面白かったのにね」と、あの人は今状態になりかねない。

不安を知ってか知らぬか、マスク氏も日本市場を意識しているようだ。アメリカのIT系ニュースサイト「The Verge」は11月22日、同メディアが入手した音声をもとに、マスク氏が従業員ミーティングの中で、アクティブユーザー数を引き合いに出して、「ツイッターはアメリカ中心と思われがちだが、どちらかというと日本中心だ」などと発言したと報じている。

振り返れば、マスク氏は買収以前からツイートが活発だった。そんな新オーナーを「ツイ廃の同志」ととらえて、「俺たちのツイッターを守ってくれ!」と頼みの綱にしているユーザーは、かなり多いのではないか。

「意外とスポ根」な日本のネットとの親和性

そして、意外と「スポ根」の気質があるネットカルチャーと、マスク式の合理化がフィットした可能性も指摘すべきポイントだろう。

思えば、マスク氏買収以前のツイッターも、大きな仕様変更はたびたびあった。星型の「お気に入り(通称:ふぁぼ=Favorite)」からハート型の「いいね」に変わったり、ホーム画面が突如として時系列順ではなくなったり、Instagramの「ストーリーズ」を意識したであろう「フリート」が登場から1年足らずで廃止されたり……。

例を挙げればキリがないが、ざっくり言うと、いまひとつ「なぜ、この機能を実装・変更するのか」の納得できる理由が示されず、思いつきのように見える変更が行われていたことは、ここ数年とくに日本のツイッターユーザー間では不満のタネとなっていた。

筆者は、文化人類学者ではないので、あくまで「ひとりのネットサーファー」としての体感だと前置きしておくが、日本のネットユーザーは、コミュニティー内の「常識」から逸脱する人間に対して、容赦ないまでの非難を浴びせる傾向が見受けられる。ツイッターに限らず、2ちゃんねる(現在の5ちゃんねる)などもそうだったが、和を乱しかねないと判断した人間を晒しあげたうえで、私刑を加えるケースは珍しくない。

おそらく匿名前提なことが源流にあるのだろうが、縦社会のような同調圧力が存在し、リアルのつながりを起点とするFacebookやLINEなどとは、また違った生態系が形成されている。それが先に述べた「スポ根気質」だ。

これらの背景を踏まえると、ユーザーが考える「あるべきツイッター空間の姿」と、現状(旧体制の方針や施策)がかけ離れていると認識し、マスク氏を「救世主」だとみなしている可能性はある。

そういう意味ではマスク氏による一連の行動は、「(自分たちの大好きな)ツイッターを継続させる合理的な手段」として、一本筋が通っている印象を受けた人が多かったのだろう。

もちろん、大胆すぎるリストラには疑問・不満の声が多く寄せられているし、改革が急進的だとして嫌悪感を抱く人もいるだろう。だが、それすら好意的に受け止めている人が日本のツイッターユーザーに多いのは、数年にわたる不満の蓄積があったからなのだ。

だからこそ、日本のネットユーザーはマスク改革をこれだけ注目しており、なおかつ少なくない割合が前向きかつ、冷静に見つめているのである。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家)