ようやく正式発表を迎えた。久保建英の新天地が、ビジャレアルに決定したのである。レアル・マドリーからの期限付き移籍で、期間は21年6月30日までとなっている。

 マジョルカを離れることが決まってから、正確にはマジョルカの2部降格が決定的となった時期から、久保の新天地が取り沙汰されてきた。スペイン国内だけでなくフランス、イタリア、ドイツ、オランダから、それもチャンピンズリーグの常連クラブからもオファーがあったと報道された。ブンデスリーガ8連覇を達成しているバイエルン・ミュンヘンも、久保の獲得を狙ったという。

 そのなかでビジャレアルを選んだのは、「ターゲットからの逆算」に基づいているのだろう。「2シーズン目のレンタルを終えた21−22シーズン以降に、所属元のレアル・マドリーでプレーする」ことに照準を合わせ、「そのためにいま、何が必要なのか」を考えたうえでの選択だったと考えるのが妥当だ。

 かつてバルセロナのカンテラで過ごした久保は、スペインのサッカーに馴染んでいる。それでも、マジョルカですぐに本領を発揮できたわけではない。
 
 移籍1年目の彼には、ふたつのテーマがあった。マジョルカのチーム戦術を理解することと、ラ・リーガのプレーのリズムに慣れることである。
 
 Jリーグにやってくるブラジル人選手は、ほぼ例外なく「早い」と言う。スタイルやリズムはリーグによって異なり、慣れるには相応の時間が必要になる。クオリティを持った選手とて例外でない。

 イタリアやフランス、ドイツやオランダのビッグクラブに所属するメリットも、もちろんあるだろう。ただ、レアル・マドリーへのレンタルバックというターゲットから逆算すると、マジョルカで馴染んだラ・リーガのリズムから離れるのはもったいない。むしろ、ラ・リーガのリズムとさらに一体化していくべきで、そのためにはスペイン1部を選ぶことが最適解となる。

 さらに言えば、マジョルカより高いレベルのクラブが望ましい。
 
 ビジャレアルは昨シーズン5位で、新シーズンはヨーロッパリーグに出場する。チームの競争力はマジョルカより高く、ポジション争いも激しい。日々のトレーニングからゲームに至るまで、高いレベルで対戦相手と、チームメイトと競い合うことができる。伸び盛りの才能にとっては、申し分のない環境と言える。
 
 ラ・リーガで1シーズンを過ごしたことで、見られ方も変わっている。

 マジョルカに入団した当時の久保は、「期待の新戦力」だった。今回は違う。「ラ・リーガで実績を残した即戦力」として、ビジャレアルに迎えられている。そのぶんだけプレッシャーものしかかってくる、ということだ。

 もっとも、プレッシャーはすでに経験済みとも考えられる。マジョルカで過ごしたシーズンは、1部残留を賭けた厳しいサバイバルだった。6月に再開されたあとのリーグ戦は、毎試合が負けられないトーナメント戦のようだった。

 かかるプレッシャーの種類は、マジョルカとはもちろん異なる。それでも、攻撃の切り札として過ごした日々は、ストレス耐性を磨いたに違いない。

 ビジャレアルには各国の代表クラスが揃っている。定位置争いはマジョルカより厳しくなるものの、ピッチ上では頼もしいパートナーを見つけやすい。表現方法を変えれば、マジョルカでのようにマークが集中しない、ということだ。

 決定的なパスを供給できるシーンは増えるだろうし、シュートに持ち込めるシーンも同様だ。得点やアシストといった数字に直結するプレーは、間違いなく増えていくだろう。

 ヨーロッパでの第一歩を1部残留を目ざすクラブで踏み出し、次にヨーロッパリーグ出場クラブを選ぶのは、キャリアアップの王道とも言えるものだ。シーズンを通してケガなくプレーできれば、マジョルカでのインパクトを上回ることもできるだろう。