青山フラワーマーケットの南青山本店ではフラワーバレンタインの特設コーナーが存在感を放っていた(撮影:尾形文繁)

2月14日はバレンタインデー。女性から男性にチョコレートなどを渡す日だ。百貨店やコンビニエンスストアに足を運べば、専用コーナーには数多くのチョコレートが並んでいる。そんな中、バレンタインデーに男性から女性に花を贈ろうという動きがじわじわ広がっている。

青山フラワーマーケットや第一園芸など大手の花屋チェーンを中心とする全国350社、8500店舗の花屋は2月初旬から2月14日まで、「フラワーバレンタイン」と称したイベントを一斉に展開している。

500円で買える安価な商品も

実は欧米を始めとする海外ではバレンタインデーに、愛や感謝の気持ちを込めて男性から女性へ花を贈ることが一般的。花屋業界はフラワーバレンタインを足掛かりに、男性が花を買うことを定着化させる狙いがある。


青山フラワーマーケットでは500円前後のブーケなど安価な商品もそろえる(撮影:尾形文繁)

全国約100店舗を擁する青山フラワーマーケットはフラワーバレンタインに合わせ、豊富な商品をそろえる。特徴的なのは値段の安さだ。1本の花がすっぽりと収まるギフトボックスが918円(税込み、以下同)、バラをあしらったアレンジメントが2500円と、3000円以内で買える商品を店頭に数多く並べている。個別売りもしているので、赤いバラを1本350円で買うこともできる。

青山フラワーマーケットはフラワーバレンタインの期間だけでなく、普段から500円のブーケなど安い商品をそろえている。その理由について運営会社パーク・コーポレーションの代表取締役・井上英明氏は、次のように語る。

「男性は『花屋では5000円から1万円分を買わなければいけない』と思いがちだが、そうではない。安いものでよいので、週に1回ぐらい花を買って、コミュニケーションンの一環としてプレゼントすることや自宅やオフィスに飾ることを習慣化することが大事」


特別なイベントの際は男性スタッフだけで対応する南青山店(青山フラワーマーケット提供)

珍しい試みもある。青山フラワーマーケットの南青山本店では、2月14日のバレンタインデーの日は各店から集まった7〜8名の男性スタッフだけで接客対応する。「女性スタッフだけの花屋に入っていくのは、男性客にとっては勇気がいること。男性スタッフがいれば安心して入店できる」と、井上社長は説く。

待ちの姿勢だった花屋業界

なぜ、花屋業界がこうした取り組みに力を入れるのか。背景にあるのは先行きに対する強烈な危機感だ。

「思考が止まっている業界」――。花屋業界は長年、このように揶揄されてきた。冠婚葬祭を中心に底堅い装飾需要があったため、特別な仕掛けをしなくても儲かっていた時代もあったが、近年は個人消費の伸び悩みや冠婚葬祭の簡素化を背景に、菊やカーネーションといった花の需要が年々減少傾向にある。農林水産省の統計によると、切り花類の直近の出荷量はピークである2000年前後に比べ、4割近くも減っている。

2000年以降、市場が下降線を辿っていたことを業界関係者は認識していたにもかかわらず、「ずっと“待ち”の姿勢で営業していたので、いざ対策を打つとなっても、何もできずに手をこまぬいていた」(業界団体「花の国日本協議会」の小川典子プロモーション推進室長)という。


青山フラワーマーケットの年間客数は400万人を超える(撮影:尾形文繁)

「このままでは生き残れない」と一念発起した花屋業界は、いまから約8年前に業界をあげて消費拡大策を練り始めた。男性が花を買うきっかけづくりとして打ち出したフラワーバレンタインもその1つだ。他にも「愛妻の日」(1月31日)や「ホワイトデー」(3月14日)でも、イベントを積極的に仕掛ける。

前出の青山フラワーマーケットは低価格のセット商品を武器に集客を図ってきたことが奏功し、年間客数は400万人を突破。運営会社のパーク・コーポレーションの2017年度売上高は前期比7%増の80億円超で着地した。ここ5年で20%以上も伸びている。

売上高が増えても客単価が下がれば利益寄与が小さくなりがちだが、パーク・コーポレーションは原価率や人件費比率を日報ベースで細かく管理。未公表ながら、営業利益ベースでも増益基調を維持していると見られる。

1898年創業の老舗チェーン、第一園芸も消費拡大策を打ち出す。同社は百貨店に入居している店舗が多いこともあり、フラワーバレンタインの期間は日本橋三越本店や銀座三越などの紳士服売り場で、ファッションディレクターとして活躍する干場義雅氏のトークショーを開催する。日本橋三越本店の入り口にあるライオン像に花をあしらった帽子を装飾するなど、期間中は百貨店側と連携し、イベントの認知向上に力を注ぐ。

SNS普及も追い風に

第一園芸は今年3月に、新業態の「ビアンカ バーネット」を首都圏に3店舗オープンする。ブーケやアレンジメントなど顧客が手に取りやすいセット商品を充実するほか、家具や雑貨、書籍など花に関連するアイテムもそろえることで、幅広い層の自宅用需要を喚起する。


パーク・コーポレーション代表取締役の井上英明氏は、コミュニケーションの一環として花を贈ることを習慣化することが大事と主張する(撮影:尾形文繁)

市場が右肩下がりの苦しい状況は続いているが、業界関係者はイベントの効果で男性需要や自宅需要が増えていることに手応えを感じているようだ。

インスタグラムなどSNSの普及も追い風になる、と関係者は期待を寄せる。料理の画像をアップする際には、傍に花を添えていると見栄えが違ってくる。自宅で花を飾る人が増えるきっかけになる可能性はあるだろう。

「都市化が進むほど、身近に花や緑が必要になる」と、パーク・コーポレーションの井上氏。花屋業界の消費拡大策はひいては、慌ただしい日々の生活の中に潤いをもたらす消費者一人ひとりにとっての一助になるのかもしれない。