残り36ホールで首位との差が6打差――松山英樹は、まさに奈落から這い上がろうとしている。


スコアを伸ばしたものの、波に乗り切れなかった松山英樹 注目のマスターズ初日、松山は4オーバーと大きく出遅れ、まさかの予選落ちもあるのかとファンをドキドキさせた。しかし2日目、スコアを作りにくい状況の中でも、薄紙を丁寧に、根気強く重ねるようなプレーを見せて、この日は2アンダー。通算2オーバー、16位タイまで浮上して難なく予選通過を果たした。

「まあ、いいプレーができれば(予選は)通ると思ったし、悪かったら通らないので、そこ(予選通過ライン)は考えていなかった」

 確かに松山のプレーを見ていると、予選通過という視野はまったくなく、その不安すら感じさせなかった。今のゴルフの力量は、そこを意識するレベルではないからだ。

 松山本人は口にしなかったけれども、おそらくこの日の目標は4アンダー。通算イーブンパーまで戻すことだったと思う。そのラインから、うまくいけば「66」で回って、通算2アンダーという理想があったと思うのだ。

 その可能性はあったが、3番、5番ホールとバーディーを奪って、”さあ、これから”という7番ホール(パー4)で、初日と同じくダブルボギー。ここで一瞬、ブレーキがかかってしまった。

「状態が悪いので、昨日と同じで、無理をしたくなるところでミスが出た」

 無理をしたくなるところとは、一気に勝負に出て、自分をいい流れに乗せていこう、ということだ。初日は、その勝負どころで失敗して、そのままリズムを崩してしまった。

「でも今日は、(ダブルボギーを叩いたあと)8番、10番が(バーディーを)獲れたので、流れよくできたと思います」

 午後、2日目も強い風がオーガスタの森を襲ってくる。特に遅い午後、ちょうど松山がアーメンコーナー(11番〜13番)を回る頃から、特有の風が吹き荒れていた。

 10番ホールでバーディーを奪った松山だが、11番ではセカンドで攻め切れずにパー。そして、パー3の12番ではグリーン左奥まで飛んでしまう第1打を放ってしまった。

 この12番ホール、決勝ラウンドの残り2日間でも大きなカギになるホールだ。ティーグラウンドからグリーンを見ると、グリーン面はまるで中筆で漢字の「一」を描いたようにしか見えない。

 しかも、左から右へと下りのライン。グリーンの奥行きは、ほとんどないように見える。この日のピン位置は、グリーンの右やや奥だった。

 松山は定石どおり、グリーン左側を狙って、そこから傾斜でピンに近づけるイメージでショットした。それが、はるかにオーバー。さらに難しいアプローチは、カップを通りすぎて4mほどのパーパットが残った。

 まさしく大ピンチだった。けれども、その4mのパットをうまく沈めてパーを死守した。そこが、松山の真骨頂だと思う。

 ホールアウト後、通算2オーバーまで盛り返したにもかかわらず、松山はどこか仏頂面をしていた。その理由は、この12番からの攻めが流れに乗り切れなかったことへの不満だったと思う。

 チャンスはいくつかあったが、結果的には13番、14番もパー。そして、パー5の15番でやっとバーディーを奪ったものの、続く16番パー3では、ティーショットがわずかにそれて、グリーン右のバンカーに入れてしまった。結果はボギー。

 16番のこの日のピン位置は、そのバンカーのすぐ左。そのバンカーとカップの間の、およそ3mの幅の中か、ピンのすぐ手前に落とさなければバーディーチャンスがないという厳しいセッティング。松山はここでもまた、攻めるために無理をしたい状況でピンチを招いて、勢いに乗り切れなかった。

 終盤、17番、18番ホールの松山のゴルフは、見ている者にとってはハラハラドキドキする、スリル満点なものだった。手に汗握るシーンの連続だったが、ともにうまくパーで凌いだ。

 もちろん、松山本人にしてみれば、とんでもなく不満が募る時間帯だっただろう。反省材料である。だが、そこを耐えて凌げるだけのポテンシャルの高さと柔軟性が、今の松山にはある。あとはもうひとつ”ピース”がはまれば……。

「今日とか、昨日とか、これぐらい風が吹けば、我慢していれば(いつか)チャンスがあると思います。でも、明日、明後日は風が吹かないので、我慢しているだけではチャンスはないと思います」

 ムービングサタデー。決勝ラウンドに突入し、3日目はスコアが動く。誰もが一気にスコアを上げて、優勝争いのサークル内に入っていこうと必死にもがく。

 松山は、その空気を十分知っている。

 我慢とチャンス。勇気と忍耐。ゲームの流れの機微を、松山ならばうまく使いこなせると思う。


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