日本は0勝2分1敗の未勝利に終わり、史上初の東アジアカップ最下位に沈んだ。 写真:小倉直樹(サッカーダイジェスト写真部)

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 6月のシンガポール戦と今大会の3試合を含めて、アジア勢を相手に4試合連続未勝利という事実は、誰が見ても大きな問題だよ。点が取れない、攻撃の形が作れない、メンバーを入れ替えてもサッカーの質がさして変わらない――。今の日本代表は、問題ばかりが山積しているね。
 
【マッチレポート】日本 1-1 中国
 

 大会を終えて真っ先に浮かぶのは、「なにしに中国へ行ったの?」ということ。つまり、選手を試すのか、それとも勝利を求めるのか。最後までその指針がはっきりしなかった。結局、勝てない焦りがあったうえに、メンバーの入れ替えも奏功しなかったよね。
 
 選手を試したい、でも勝ちたい――。そういう曖昧なスタンスが災いして、チームの方向性も定まらなかったから、選手のパフォーマンスを見ても誰が良くて悪かったのか、いまひとつ見えてこなかったよね。
 
 はっきり言って、今大会の日本は“大失敗”の烙印を押されてしかるべき。0勝2分1敗の未勝利で、史上初の東アジアカップ最下位というのは屈辱以外の何物でもない。
 
 最下位のチームに収穫は一切ない。もちろん無理やり探せばいくらでもあるし、メディアは上手く話を拾ってくるかもしれない。だけど“最下位”である以上、どんな収穫であってもその根拠が弱いよね。
 
「1試合も勝てなかったけど、誰々は良かった」という記事もあるだろうね。もちろん、敗戦でも収穫はあったりするよ。でも、それは高いレベルでの話。アジアレベルでは勝利が前提で、勝利という土台の上に収穫がある。そういう日本の立ち位置を完全に無視して、勝てなかった試合で誰々が良かったと言うのは、少し矛盾していると思うよ。
 
 それにしても、中国戦後のハリルホジッチ監督のコメントは面白かったね。「勝つチャンスがあった」と言っていた。それはそうだよ、全試合で勝つチャンスはあったんだから。でも、チャンスがあっても勝てないのが問題なわけで、裏を返せば、勝てない原因が日本にあったってことでしょ。
 
 それに「勝つチャンス」は、相手にだって同じくあった。そのコメントからして、追い込まれているハリルの精神状態が分かるよね。シンガポール戦後の休暇でリフレッシュしたはずが、この3試合で一気に疲労困憊になったんじゃないかな。
 
 選手を試すのか、それとも勝利を求めるのか。その迷いはハリルの采配によく表われていたよ。
 
 例えば、永井に代えて浅野を途中投入するのが、まるで“お約束”のようになっていたよね。だけど、その采配ひとつを見ても疑問が残る。新戦力を試したいのであれば、期待の若手である浅野を先発させて、もう少しプレー時間を与えてもいいんじゃない? 
 
 森重と槙野はなぜ起用し続けたの? 固定しても危ない場面が何度もあったけど、本気でいろいろな選手を試す気ならCBも代えて良かったよね。でもそうしなかったのは、結局、ハリルが「勝利」という目に見える結果が欲しかったからでしょ。
 
 結果を求めているのかと思えば、両SBは人材を探しているようだった。勝ちたいなら、コンディションが良くなかった太田をどうして連れて行ったの? 本人の意向もあるかもしれないけど、結局フル稼働させないなら無理して連れて行く必要はなかったよね。
 
 それから川又を2試合で先発させたのも疑問符が付く。ターゲットマンとして前線に配置するのはいいよ。でも、途中から川又に代わって興梠を投入し、パスをつなごうとしたよね。志向するスタイルを踏まえると、起用の順番としては逆じゃないの? 
 
 だって縦に速いサッカーを目指しているのなら、まずはパスをつなぐタイプを起用するのが自然でしょ。それで崩せないなら、高さのある川又を入れて揺さぶりをかければいい。
 
 武藤が2ゴールと結果を残したのは素晴らしいことだけど、彼の活かし方もどうかと思うよ。サイドを起点にしてゴール前に飛び込む形を作れば、裏への走りが上手い武藤が活きてくる。でも彼を活かそうと思うのなら、なぜ永井にあれほどチャンスを与えるの? 
 
 永井はスピードを駆使した縦への突破が光るけど、パスやクロスが不得手なのは分かっているはず。そうなると、武藤の特長を引き出す場面は限られてしまう。
 
 至るところで采配の矛盾が生じていた気がするし、それが選手のプレーにも反映されて、戦術を徹底するような状態ではなかったよね。
 
 サッカー協会の大仁(邦彌)会長は「(ハリルホジッチ監督は)まだ来たばかり」と言っていたけど、期待されている監督がこれで4試合未勝利。指揮を執る責任者として、その手腕が不安視されるのは当然だよ。
 
 3月のウズベキスタン戦(5-1)や6月のイラク戦(4-0)のように、時差ボケで来日した国に、親善試合用の6人交代ルールを適用した時だけ完勝しても仕方ない。
 
 就任数か月だろうが、数年だろうが、公式戦で勝てない時は責任を問われるもの。国際親善試合で全勝して、肝心のワールドカップ予選や本大会で勝てなかったら、まったく意味ないでしょ。
 
 僕の記憶が確かなら、ハリルの戦術は「縦へ速く攻める」というのがコンセプトだったはずだけど、中国戦ではよくパスが回っていたよね。コンセプトはどこに行ったの? 監督の手腕が光った場面なんて、中国に来てから一切なかった。
 
 今、「どうしたハリル?」って誰かが突っ込んだら、間違いなく彼はキレるよ。それぐらいハリルの言動は不安定だから。
 
 ただ、指揮官だけを責めるのは酷だよね。海外組の不在や過密日程の影響もあり、今大会の結果に「がっかりした」という声もあるだろうけど、「これが日本の現状」「これが日本の選手の実力」という認識を持つべきだよ。
 
 個々の技術は高いけど、相手が守備ブロックを作って身体をぶつけてくると、簡単に潰されてしまう。激しさに耐えられない日本の弱点を、再び露呈したよね。
 
 Jリーグで活躍している宇佐美、柴崎クラスでも、今大会は一切存在感がなかったし、並みの選手という印象だったね。他の選手もそうだけど、楽しんでやっている感がまったく感じられないよ。
 
 型にハマってプレーしているだけで、自分の武器や良さを出してやろうという気概も感じられなかった。別にトライしてミスする分にはいい。だけど、強引なドリブルやシュートは少ないし、自分の存在をアピールしてやろうというプレーは皆無に近かった。どちらかと言うと「リーグ戦もあるし、無理しないようにしよう」という印象すら受けたよ。
 
 代表チームはこんな体たらくだけど、サッカー協会の幹部からすれば、ハリルは“神様”のように映るんじゃないかな。アギーレの後任としてオファーを受けてくれたし、就任から3連勝を飾って世間の目を一時的に誤魔化してくれたわけだから。
 
 本来なら、アギーレの一件でサッカー協会はもっと糾弾されるべきだけど、いつの間にかうやむやになって、メディアも問題を忘れてしまったかのようでしょ。サッカー協会の幹部は、ひょっとしたら「ハリルの初陣が東アジアカップじゃなくて良かった……」と思っているかもね。
 
 ただ、次の代表戦はカンボジア戦(9月3日/ワールドカップ・アジア2次予選)で明らかな格下だから、海外組を招集したら完勝する可能性が高い。そうなるとまた、急に強くなったように錯覚してしまうよ。
 
 だったら、今大会のメンバーにリベンジの機会を与えるのはどう? 中国戦後にハリルは「(あと)2、3日前に中国に来ていれば、すべての試合を勝てたと思う」と言い訳していたけど、だったらこのメンバーで調整して、もう一回チャンスを与えてほしいね。
 
 十分な準備期間があれば文句は言えないでしょ。メンバー的にも今大会の人選で問題なく戦える。それで万が一、カンボジアにすら勝てないようであれば解任。それぐらいのプレッシャーを与えてもいいと思うよ。
 
 ハリルの指導法はトルシエにそっくり。公式会見で長時間喋ったかと思えば、炎天下で数十分もミーティングをやったり……。
 
 ミーティング中の選手の顔を見ると、少し面倒くさそうに横や下を向いていたりする。暑さで体力を奪われるし、誰も全部は聞いてないんじゃない。通訳も大変だよ。まるで高校サッカーのような風景だね。それで勝てばいいけど、いくらミーティングしても結果が残っていないんだから。
 
 選手のコメントを聞いても、ハリルが話している内容は基本的なことばかり。今さら「1+1=2」「2+2=4」みたいな話をするのは代表じゃないよ。選手からしたら「分かってるよ」という内容だろうね。
 
 勝てないのに選手の雰囲気はサバサバしていて、チームの雰囲気も決して良くないのは、指揮官のやり方が影響していると思うよ。
 
 
 男子に限ってだけど、年代別代表の成績も冴えず、A代表はアジアカップと東アジアカップでこんな有り様。日本サッカーが暗黒期に向いつつある現状を、もっと深刻に捉えないといけない。
 
 少し前まで“アジア最強”を謳っていた日本が、いつの間にかアジアで勝てなくなっている。クラブレベルでは、ACLベスト8にG大阪と柏が勝ち残っているけど、仮にそこで2チームが敗退したら、日本サッカーの現状は目も当てられない。今のまま行くと「ワールドカップに行けばいい」という文化になってしまうよ。
 
 大会が終わって代表選手が空港に着いたら、お盆休みで多くの人もいるだろうし、「よく頑張った」と言葉を掛けられるかもね。
 
 だけど今大会で唯一の慰めは、なでしこが第3戦に勝利したこと。当落線上にいる選手たちが懸命にプレーしていて、男子より何倍も“必死さ”が伝わってきたよ。
 
 世界の強豪国からじゃなく、なでしこの懸命な姿をまずは見習ってほしいね。