50代でもいきいきしている人と、そうでない人は何が違うのか。脳科学者の茂木健一郎さんは「いくつになってもパッション(情熱)を求めることが大事だ。それが脳の老化を防ぎ、いつまでも若々しく魅力的な人物でいられる」という――。

※本稿は、茂木健一郎『50歳からの「一生使える脳」のつくり方』(三笠書房・知的生きかた文庫)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/miya227
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

■50代で情熱がないと、脳の老化がどんどん進む

「最近物忘れが激しくなってきた」
「近頃めっきり運動不足だ」
「人とのコミュニケーションが煩わしい」

こうしたことに身に覚えがある50代の方もいるのではないでしょうか。

新しいことにチャレンジする意欲や、何かに熱中するためのパッション、すなわち情熱がなくなると、脳の老化がどんどん進んでいってしまいます。

たとえば今50代であれば、5年後、10年後に脳がどれくらい活性化されているのかというのは、「脳の通知表」のようなもので、今現在の脳の使い方や活かし方によって決まってきます。

つまり、50代の方が60歳、70 歳、80歳になったときにどういう脳になるかというのは、もう既に今から決まっているということです。

日々の積み重ねの結果が80歳のときの脳の状態を決めるということは、脳が老化してしまってから突然焦って「明日からやろう」と思っても無理だということになります。

「継続こそ力なり」を信条にしている方も多いとは思いますが、この言葉は脳を活性化するためにあるとさえ私は思っています。

やはり、脳を活性化させるためには、付け焼刃では絶対無理であって、長い年月継続して脳を使い続ける以外にはないというのが脳科学者としての私の意見なのです。

■脳に負荷をかける「難しい道」を選択する

では、脳の老化をストップさせ、逆に活性化させていくためにはどのような脳の使い方をすればいいのか。

私はそんなとき、私が敬愛してやまないアインシュタインの言葉を使って表現します。

「難しい道と簡単な道があった場合、難しい道を選びなさい」

この言葉は、アインシュタイン自身が若いときから大事にしていた生活習慣の基本だったようです。だからこそ、アインシュタインは相対性理論を生み出した世紀の科学者としてこの世に名を馳せることができたのだと私は思うのです。

もちろん、この言葉はアインシュタインだけにあてはまることでも、アインシュタインだからできたことでもありません。

これは50代の皆さんにも、ぜひともやっていただきたいことなのです。

脳のメカニズムからいっても、大半の人間の脳はやはり簡単な道を選びたいと思いがちになります。

なぜなら、脳は難しい道を選ぶことにどうしても不安を感じて、行動にブレーキをかけてしまう性質があるからです。

私自身も、難しい道と簡単な道の選択を迫られることはよくあります。

ですがそんなときは、「あえて脳に負荷をかけてみよう」と難しい道を選択するようにしています。

■社会人になりたての頃の「快感」を思い出す

たしかに、簡単な道を選ぶほうが物事をうまく進めることができたり、失敗することも少なかったりするかもしれませんが、あえて難しい道を選び、自分にプレッシャーがかかるような経験をすることのほうが脳の活性化に繋がっていきます。

今一度、50代の皆さんがまだ社会人になりたての頃を思い出してみてください。

知識もなく、いろいろなことが初めての体験で、うまくいかないことが多かったはずです。

写真=iStock.com/PonyWang
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PonyWang

それでも、試行錯誤を重ねることでこれまでできなかったことができるようになったり、ちょっとした成功体験に喜びでいっぱいになったりしたことがあるのではないでしょうか。

脳はこのときの快感が大好物で、ことあるごとにその快感を生み出す行動がクセになる。

これが新しいことに挑戦しようとするパッションに繋がっていき、脳の老化を防ぎ、いつまでも若々しい脳を保つことができるのです。

■80歳を超えても輝き続ける養老孟司さんの言葉

ベストセラー『バカの壁』でもおなじみの養老孟司さんは、2026年現在、88歳です。

養老さんの経歴はもはや詳しく紹介するまでもありませんが、1962年に東京大学医学部を卒業された後、1年のインターンを経て解剖学教室に入り、以後解剖学を専攻されました。

その後、解剖学の権威として1995年まで東京大学医学部教授を務め、現在は東京大学名誉教授でいらっしゃいます。

解剖学者で、現・東京大学名誉教授の「養老孟司」さん(画像=IyataYada/CC-Zero/Wikimedia Commons)

そんな養老さんは、私にとっては心から「師」と呼べる方で、今でも親しくお付き合いをさせていただいているのですが、養老さんから人生訓となることを言われたことがあり、それを著書の中で紹介したことがあります。

「茂木君、塀の上を歩く練習をしなくちゃダメだよ。塀の内側でみんなと安全でいても、つまらない。かと言って、塀の外側に落ちてしまったら大変だ。なんとかうまくバランスをとって、塀の上を歩く。そんな人生が面白いんだよ」(『嫌われ者の流儀』堀江貴文・茂木健一郎、小学館より)

この言葉は、私の心に深く響きました。

私なりに解釈すると、たとえどんなに有名になろうとも、たとえどんなに人生安泰と思っても、パッションを持って日々チャレンジ精神を忘れずに生きなければいけないということです。

■パッションは若者の専売特許ではない

実際に、養老さんと私には、ある共通した趣味があります。それは、虫です。

私も幼少の頃から蝶の研究をしていたことがあり、養老さんも甲虫のヒゲボソゾウムシの仲間にこだわって採集、標本にされています。

そんな虫好きの養老さんの虫へのこだわりや虫捕りなどの様子を伺っていると、まさに童心に戻ったようなキラキラした目をされていて、東大の教授をやっていたときよりもはるかに楽しそうにしていらっしゃるのです。

前にパッション(情熱)について触れましたが、この言葉を聞けば、若者たちの専売特許と考える50代の方もいるかもしれませんね。

しかし、脳科学的にいえば、たとえいくつになっても脳はパッションを求めているということです。

それを、養老さんは私たちに教えてくれているのではないでしょうか。

私も脳の研究のほかにも、さまざまなことにパッションを持って生きています。

たとえば、私は子どもの頃から科学や芸術が好きだったので、今でも絵を描いたりすることにパッションを注いでいますし、小説を書くことも大きなパッションを持って取り組んでいることの1つです。

さらには、まだ取り組めていないことではありますが、ジャングルの中を歩き回っていろんな生き物を観察したいという気持ちをずっと持っていて、そのパッションは抑えがたいものがあります。

多くの50代の方にとってのパッションとはどんなものでしょうか。

■年を重ねたぶんだけ自分をうまく捌ける

もちろん、仕事にパッションを持っているという人もいるでしょうし、趣味にパッションを捧げているという人も素敵だと思います。

茂木健一郎『50歳からの「一生使える脳」のつくり方』(三笠書房・知的生きかた文庫)

このようにパッションを持つことは脳がとても喜び、脳の活性化には非常に良い起爆剤となるのです。

何より、若いときに自分がパッションを持ってやりたいことをやれなかった1つの要因として、「時間の使い方」「お金のやりくり」が未熟だったという点が挙げられます。

しかし、50代になった今では社会人生活が長い分、時間やお金のやりくりが若いときよりも間違いなくうまくなっている。つまりは年を重ねたぶんだけ自分をうまく捌ける年代になったのではないでしょうか。

自分の“再生請負人”は自分自身だと考え、もう一度パッションを取り戻してみてください。

----------
茂木 健一郎(もぎ・けんいちろう)
脳科学者
1962年生まれ。東京大学理学部、法学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理学博士。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て、ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学大学院特任教授(共創研究室、Collective Intelligence Research Laboratory)。東京大学大学院客員教授(広域科学専攻)。久島おおぞら高校校長。『脳と仮想』で第四回小林秀雄賞、『今、ここからすべての場所へ』で第十二回桑原武夫学芸賞を受賞。著書に、『「ほら、あれだよ、あれ」がなくなる本(共著)』『最高の雑談力』(以上、徳間書店)『脳を活かす勉強法』(PHP研究所)『最高の結果を引き出す質問力』(河出書房新社)ほか多数。
----------

(脳科学者 茂木 健一郎)