【山岡 淳一郎】不動産業界が愕然…「マンション建て替え」で”500億円の賠償請求”が13億円に減額した「判決の知られざる舞台裏」

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505億円余りの賠償金が約13億円に

地震大国の日本。最近も東北や九州、全国各地で地震が頻発している。

マンションから商業ビル、原子力発電所に至るまで「耐震性」は、建物の安全を保つための重要なファクターだ。マンションの「耐震性能不足」は重大な「欠陥(瑕疵)」とみなされ、大がかりな補強、ときには住民を退去させての建て替えに至るケースもある。

拙著『マンション 狙われる修繕積立金』では、1990年代に竣工した八王子市南大沢の1000戸規模の団地の施工不良での欠陥・建て替え、2005年に発覚したA元一級建築士の「耐震偽装」と被害住民の強制避難から再建への苦闘、2015年にメディア報道で火がついた横浜市都筑区の基礎杭の施工不良による「傾きマンション」の建て替えなどの経緯をルポした。詳しくは、拙著をご覧いただきたいが、欠陥被害は、いつ、どこで起きても不思議ではない。欠陥問題は、あなたが暮らすマンションの維持管理にも大きな影響を及ぼす。

今年6月17日、東京地方裁判所(徳増誠一裁判長)は、横浜市のマンションが基礎杭の施工不良で傾いて建て替えた問題をめぐり、分譲販売した三井不動産レジデンシャルが施工元の三井住友建設、下請けの日立ハイテク、孫請けで杭の工事をした旭化成建材の3社に対して505億円余りの賠償を求めた訴訟で、予想外の判決を言い渡した。

東京地裁が被告3社に命じた支払額は、何と13億円余り。

請求額と判決で示された額の差に驚いたのは私だけではないだろう。

「傾斜マンション建て替え事件」のあらまし

三井不動産は、判決を受け、「請求と大幅な相違があることから控訴する方針です。住まいの安全性に対する信頼を確保するため、引き続き適切に主張を展開していく所存です」とコメントし、6月30日に東京高等裁判所へ控訴した。

それにしても、なぜ東京地裁は請求額の3パーセントにも満たない金額の支払いを3社に命じたのか。

まずは、傾斜マンション建て替え事件のあらましをふり返っておこう。

三井不動産が横浜市都筑区の全4棟、705戸のマンションの分譲を開始したのは2006年。それから8年後の2014年、建物の点検をしていた住民が棟と棟をつなぐエキスパンションジョイント(伸縮接手)の金物のズレ、手すりの段差を見つけたことから調査がおこなわれ、わずかながら建物が傾いている事実が判明した。

当初、管理組合は販売主の三井不動産、施工各社と欠陥への対応を内々に話し合い、かん口令をしいていたが、なかなか解決の糸口を見つけられなかった。

翌年10月14日、日本経済新聞が、〈施工会社の三井住友建設側が基礎工事の際に地盤調査を一部で実施せず、虚偽データに基づいて工事をしていたことが一三日分かった。複数の杭が強固な地盤に届いておらず、建物が傾く事態となっている〉と報じ、問題が表面化した。

報道によると、全52本の杭のうち、6本は支持層にまったく届かず、2本は長さが足りていなかった。杭を設計したのは施工元の三井住友建設だった。同社は、施工不良の8本の杭を打つ場所の地上から支持層までの深さを「14メートル」と試算し、下請けの日立ハイテクを経由して孫請けの旭化成建材に工事を発注していた。

現場責任者が「報告書を改ざん」

しかし、実際に8本の杭を打った場所の支持層までの深さは「16メートル」。設計上の深さと2メートルも差があった。その理由は地中の支持層が波を打っている「不陸」の状態で、敷地内に浅いところと深いところがあったからだ。

工事を担当した旭化成建材の現場責任者は、別の杭のデータをコピーして流用したり、数値を書き変えたりして、報告書を改ざん。基礎工事が正常に完了したかのように見せかけていた。

こうした事実が報じられ、マンションは上を下への大騒ぎとなった。連日、マスコミが住民に取材攻勢をかける。

最終的に三井不動産は、住民の仮住まいや引っ越しの費用、一世帯300万円の慰謝料を含めて、総額約505億円を投じて全棟を建て替えた。世間は、住民を安心させる、三井のブランド価値を守る「英断」だと讃えた。

しかし三井不動産は、前述のように三井住友建設、日立ハイテク、旭化成建材の3社を相手取って、約505億円の賠償を求める裁判を起こした。ところが、一審の東京地裁で、3社に命じられた賠償額は13億円余りと肩透かしを食ったわけだ。

東京地裁の徳増裁判長は、判決理由で、4棟のうちの2棟について「杭の一部が必要な深さまで達していないなど、建物の基本的安全性を損なう欠陥があった」として、3社が共同で賠償責任を負うべきだと指摘。旭化成建材の施工記録の改ざんも認め、施工不良を確認する調査を三井不動産側に負担させたのは利益の侵害に当たると述べている。

画期的な「区分所有法の改正」

だが、一方で「新たな杭の設置などで建築基準法の基準を満たすことは可能だった。全棟の建て替えが必要だったとはいえず、過剰な対応だ」とし、建て替えに要した費用までは損害として認めず、3社に連帯して13億余りを支払うよう命じた。

つまり裁判長は、ブランド価値や住民の安心のために、デベロッパーが自らの判断で建て替えた費用は、法的責任の枠組みを超えており、損害賠償にはなじまない、と突き放したのだ。控訴審でも、大手デベロッパーが顧客の信頼を守ろうと実施した建て替え費用のどこまでが法的な損害と認められるか、引き続き争われることになる。

今後も裁判の成り行きから目が離せないが、傾斜マンションの建て替えのような重大な欠陥事件は国の住宅政策を大きく変えることにも言及しておきたい。

傾斜マンションの顛末を注目していた国土交通省は、早々に施工記録の偽装を防ぐ第三者チェックや、現場管理の責任の明確化を打ちだした。そのかたわらマンションの建て替えへのハードルをぐっと下げている。

たとえば、2020年の「マンション建替え円滑化法」の改正で、団地型マンションの敷地分割という新制度を設けている。

横浜市都筑区のケースでは、実際に建物が傾いていたのは全4棟のうち1棟だった。

しかし、その1棟だけを建て替えようとすれば、民法に則って団地の区分所有者の「全員同意」が必要で、事実上不可能だった。住民感情の面でも、他の棟の住民たちも「資産価値の低下」や「地震への不安」を主張して建て替えを求め、合意形成は難航を極めた。

やむなく三井不動産は全棟建て替えに進んだわけだが、国交省はもっとスムーズに特定の棟だけに対処できる方法はないかと考え、導きだしたのが団地の敷地分割のしくみだ。

この新制度により、国や自治体の「要除去認定」を受けた棟に関しては、全体の「5分の4以上」の合意があれば、その棟だけを切り離し、単独での建て替えや売却が可能になった。

さらに2025年の区分所有法の改正で、「耐震性や防火性の不足」や「外壁が剥落し周辺に危険を及ぼす恐れ」「給排水管の朽化」などの「客観的事由」が認められたマンションについては、「4分の3以上」の賛成で建て替えや、敷地売却の決議が成立するようになる。

国は、欠陥問題と建て替え制度をリンクさせ、老朽化したマンションの更新を目ざしているのである。

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