北中米W杯で示した森保ジャパンの進化と限界 一朝一夕ではいかない“個の力”をどう伸ばすか【W杯】

森保監督はブラジル戦後半に訪れた劣勢を覆す策を打てなかった(C)Getty Images
日本代表史上において最強の呼び声も高らかに、優勝を目標として北中米ワールドカップ(W杯)に臨んだサムライブルーだったが、その終焉は突然に訪れた。グループリーグを順当に突破した日本は、決勝トーナメント1回戦で難敵ブラジルと対戦。ここで南米の雄に対して先制点を奪取するも、アディショナルタイムに逆転弾を許し、志半ばで大会を去ることとなった。
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熱狂のなか高い期待を背負ってW杯に臨んだ日本だったが、不安はなかったかと言えば必ずしもそうではない。まず、怪我のため主力と目されていた選手のメンバー入りが叶わなかった。さらに、試合を重ねるごとに負傷者も出て、決して万全の状態でW杯を戦い抜いたわけではなかった。
だが、日本はそうした困難を乗り越えて、W杯のピッチで実に頼もしく輝きを放った。結果的にベスト32で姿を消すこととなったが、森保一監督に率いられた日本の戦いぶりは十分に評価に値する。
現地時間6月14日グループリーグ第1戦のオランダ戦。試合は全体的にゴールシーンを除く時間帯はスタティックな内容に終わった。ただ、それは相手のオランダも同様で、初戦ということでお互いが慎重に様子見の状態でプレーしたため、大人しいプレーに終始することとなった。
それでも日本は二度もオランダに先行されながらも追いつく、ドラマティックな展開で結果を出した。W杯を戦ううえで、チームに勢いがつく勝ち点1をもぎ取る逞しさを見せた。
日本の選手のなかでもっとも輝いたのは、言うまでもなくボランチで先発出場を果たした鎌田大地だ。近年の攻撃面における花形は、ウイングバックとシャドーのポジションとなっているが、鎌田は中盤の底から精度の高いパスでゲームをコントロールしチームを牽引した。
続く20日のチュニジア戦は驚くべき安定感を披露したと言える。日本がW杯初出場を果たした1998年フランス大会から、これまで戦ってきたどの試合よりも、安心して見ていられる充実の内容で90分間を纏める。メキシコ・モンテレイの熱帯夜のなか、スタジアムを包む観客の熱狂もホームスタジアムであるかのように日本の背中を押し、ハポンは終わってみれば4-0の快勝を飾ったのだった。
日本はボール支配率で上回り、特に前半はチュニジアに付け入る隙を与えず圧倒する。だが、この試合の特筆すべき点はボールを持つという行為が、ただ保持しているだけではなかったことだ。無駄なボールキープをせず、流れるような展開のサッカーをピッチに描いた。そのなかでも冨安健洋のワンタッチでの鋭いパス供給は、目を見張るものがあった。
25日、決勝トーナメント進出を懸けた第3戦のスウェーデン戦は、グループリーグの試合でもっともタフな戦いとなった。第1戦のオランダ戦とは対照的に、日本は90分間を通して激しいつばぜり合いを演じる。
重要な一戦を1-1の引き分けで乗り切った、日本の立役者は田中碧。怪我のためメンバーに加わることができなかった親友の三笘薫が付けていた背番号7を受け継いだ田中は、攻守のパイプ役として躍動し、圧倒的な存在感を放ったのだ。
こうして日本はグループリーグを無敗で切り抜け、大一番のブラジル戦を迎える。序盤の日本はブラジルのパスワークを封じる守備重視のプレーで、相手に決定的な仕事を許さなかった。そして、29分に佐野海舟のドリブルシュートで先制すると、ここから一気に勢いに乗る。強敵ブラジルに対して互角の攻撃を仕掛けていった。
だが、ハーフタイムが言葉通りの仕切り直しとなった。このピッチを離れる時間で、展開するスタイルをリセットされてしまった。
ここで日本は先制点以降の前半で見せていたような、ブラジル相手にも恐れることなく攻守にアグレッシブなサッカーを続けるべきだった。しかし、ゴール奪取に燃えるブラジルの選手たちの熱きハートに、次第に劣勢を強いられていく。56分に同点ゴールを許すと、最後はアディショナルタイムに失点し、王国復活の使命感に燃えるセレソンの執念の前に力尽きた。

鈴木は世界に通用する力を見せた一人だろう(C)Getty Images
日本が戦った4試合で目に留まったのは、ボランチの選手たちの活躍だ。この活躍は角度を変えてみると、ウイングバックとシャドーの選手が従来の力を存分に発揮できなかったとも見て取れる。しかし、それもW杯アジア予選や親善試合とは違い相手の技術、モチベーションも高い強豪国が集う大会では、想定されることだった。
さらに視野を広げてここまでW杯を戦う国々に目を向けると、世界的にサッカーのスタイルが統一されつつあるということを改めて感じた。前線から激しい守備で相手の動きを封じ、攻撃に転じれは果断速攻でゴールを目指すスタイルが欧州、南米、アフリカ、そしてアジアの垣根を越えてベースとなっている。スタイルが相克する試合というのは少なくなっている。
攻撃面に注目すれば、どの国も決定機の演出は素早く前線へと攻め上がってグラウンダーの縦のスルーパスか、また両サイドを深く切り崩し中央へラストパスを供給する王道の攻めが目に留まった。情報化社会により相手の研究が容易になり、また自分たちも必ず分析されている事実は、サッカーのスタイルを究極的なまでの機能美の世界へと向かわせたようだ。
その組織的な守備に日本の攻撃の要となるウイングバックとシャドーの選手は、手を焼いたわけだ。ただ、その兆候は日本だけに限ったことではなく、どの国も相手から厳しいプレッシャーを受けるなかでのプレーを余儀なくされている。
では、北中米W杯を経験した日本が、これからの未来に向けて目指すサッカーはどんなものになるのか。新生日本が目指すスタイルは、現時点では大きく変わることはないだろう。
ただ、ここまでシステムが重視されると、ゴールを目指すにはもはや戦術重視の定石では限界があり、逆転の発想が突破口になるのではないか。対戦相手への対応力をどの国も持ち合わせているとなると、ゴールを挙げるまでの流れは戦術でチャンスを作り上げ、最後の総仕上げとなるフィニッシュは局面による個人の力がおおいに必要になると思われる。どの国も採用する横並びのチーム戦術を無力化するには、切れ味鋭い個人技が勝敗を左右することになるのだ。
順調に勝ち進むアルゼンチンにはリオネル・メッシ、フランスにはキリアン・ムバッペ、ノルウェーにはアーリング・ブラウト・ハーランドと前線のスター選手が光彩を放っているように、勝利へは個の力がモノを言っている。
W杯で日本はレベルの高い国と対決しても戦術的な部分では、計算が立つことが証明されたいま、そこからさらに勝利への確率を高めるには1対1の勝負を果敢に挑む強いハートと、敵に打ち勝つ技術を持った選手がカギとなる。
戦術重視が極まったいま、勝負を決めるのは個人の技術だ。今後は日本人にもチーム戦術のなかにあって、これまで以上に個の技術が求められることになる。この解決手段を実行できるように、選手は成長を遂げていかなければ、さらなる結果には到達できないだろう。
日本の北中米W杯での戦いは終わった。そして、2030年を目指す日本の戦いは、ここに始まったのだ。
[文:徳原隆元]

