「フィギュアスケートかよ……」 有資格者が絶望するほどの「フォークリフトの達人」が繰り出す神業

この記事をまとめると
■フォークリフトを運転するには資格が必要だ
■荷物をただ運ぶだけではなくさまざまな気遣いが要求される
■ベテランは自身の手足のように扱うことができる
フォークリフトオペレーターたちによる驚異の職人芸
筆者はフォークリフトを運転する免許をもっている。正確にいうと、免許ではなく資格なのだが、過去に特別教育を受けているので、1トン未満のフォークリフトであれば、業務内で操作することができるのだ。
基本的にはリーチフォークと通常のカウンターフォークの両方とも操作することはできるが、これはあくまでも操作の方法を知っているというにすぎないのが本当のところ。この状態で物流の現場に入って大切な荷物を移動させようとすると、そこはかなりハードルが高いといわざるを得ない。

フォークリフトの前進・後進、爪の上げ下げ、マストの傾きなど、やるべきことはかなりたくさんあるのだが、これを流れるような動作で行えるのは熟練のプロだということを嫌というほどわかっている。そこで今回は、実際に物流の現場に入ったときに肌で感じたフォークリフトの熟練の技をご紹介しよう。
⚫︎爪を入れる前に荷物を見ている
初心者は、まず爪をパレットに入れようとする。しかしベテランは、爪を入れる前に荷物全体を見ている。箱がどちらに傾いているか、ラップの巻きが甘くないか、下段がつぶれていないか、パレットが割れていないか。爪を入れてから考えるのではなく、もち上げたらどう動くかを先に想像しているのだ。

⚫︎爪の高さは数センチで決まる
フォークの爪は、ただパレットの穴に入ればいいわけではない。少し高すぎれば荷物を押してしまい、低すぎれば床やパレットに引っかかる。ベテランは、爪先をほんの少し上げたり下げたりしながら、パレットに抵抗なく入る位置を探る。その動きがじつに細かい。初心者がガツンと当ててしまうところを、ベテランはスッと入れる。筆者はツメを上げすぎてパレットごと押し出したことがある。もちろん練習時だったが、荷物が載っていたら間違いなく荷物を爪で串刺しにしていただろう。

⚫︎荷物はもち上げるより安定させる
初心者は、荷物をもち上げることに意識が向きがちだが、ベテランはもち上げたあとの安定を重視している。荷物を上げすぎず、重心を低くし、マストを少し傾けて荷物を手前に預ける。これだけで走行中の安心感がまるで違う。高く上げたまま走るのは危険だし、荷物が前に逃げるような角度も怖い。マストを傾けるという作業を忘れがちなのが初心者だ。

ただ荷物を運んでるだけではない
⚫︎熟練者はバック走行がうまい
大きな荷物を運ぶと、前が見えないことがある。そのときはバック走行になるが、ここで腕の差が出る。ベテランは後方確認をしながら、周囲の人の動きや通路の幅まで把握している。しかも、ただ後ろ向きに走るのではなく、どこで曲がり始めれば荷物が壁や柱に当たらないかを計算している。ハンドル操作も慣れたもので、狭い倉庫をバックでスイスイ走り抜ける光景は、フィギュアスケートを見ているようなのだ。

⚫︎パレットのクセを読むことができる
形は似ているが、じつはパレットにもクセがある。木製パレットなら割れや反り、樹脂パレットなら滑りやすさ、古いパレットなら強度不足。見た目は同じでも、爪を入れたときの感触やもち上げた瞬間のたわみで危険を察知することがあるという。初心者にはただの台に見えても、ベテランには状態の違いが見えている。だから無理にもち上げず、角度を変えたり、別のパレットに差し替えたりする判断ができるのだ。

⚫︎止まる技術がプロ
フォークリフトは走らせるより、止め方に差が出るマテハン(マテリアルハンドリング:物流や製造現場における移動や保管をする機器の総称)なのだ。急に止まれば荷物が前に揺れるし、少しのショックで積み荷がズレることもある。ベテランは止まる直前に速度を抜き、荷物に余計な力をかけない。ブレーキをかけるというより、いつの間にか止まっている感じに近い。

⚫︎爪の感覚がわかる
フォークリフトの爪はレバーで操作するのだが、1トンクラスのフォークリフトであってもその爪の大きさはかなり大きいものとなる。慣れるまではレバーと爪の動きがリンクしないため苦労するのだが、熟練のフォークリフトオペレーターになると、爪に載せた荷物の重心や重さ、安定感などが運転しながらも体に伝わってくるという。
実際に爪にかかる荷重や荷物の重心など、オペレーターへと伝達される情報は非常に少ないのだが、わずか数センチだけパレットを持ち上げた瞬間に違和感や不安定さが手に取るようにわかるのだという。これはもう職人芸といっても過言ではない。

フォークリフトは、速く動かせる人がうまいのではない。荷物を壊さず、人を危険にさらさず、無駄なく、静かに、確実に動かせる人がうまい。ベテランフォークマンの仕事を見ていると、派手な動きは少ない。けれども爪の角度、止まり方、荷物を見る目、切り返しの少なさ、そのすべてに理由がある。初心者の筆者にとって、フォークリフトは単なる作業車ではなく、物流現場の職人技が詰まった道具だった。




